惑星大怪獣 ネガドン (2005年)監督 粟津順 声の出演 清水大(日本)

 

昭和百年を迎えた近未来。ロボット工学の権威・楢崎龍一は、かつての研究助手で、今は防衛省に勤務する吉澤に、ロボット研究の再開を依頼されるが隠遁生活のなか科学の誤用も懸念し、その申し出を断る。そんな中、火星より帰還途中の宇宙船貨物「いざなみ」が日本に墜落。積載されていた怪獣ネガドンが墜落現場から覚醒。首都東京に向け侵攻する。人間の放つ攻撃をいとも簡単に打ち砕くネガドン。その模様をつぶさに映し出すTV映像を見つめる楢崎の脳裏に、事故で亡くした娘・恵美との約束が蘇る。「ロボットが人類の為に活躍する未来を創るのが、父さんの夢だ」。亡き娘との約束、そして科学と人類の未来を守るため、楢崎は立ち上がる。彼が向かった先は、彼自身が科学の結晶をかけ作り出したロボット・MI-6(ミロク)二号機。かくして、楢崎操る巨大ロボットMI-6二号機と、宇宙怪獣ネガドンの天地をも揺るがす壮絶な死闘が始まった。

日本独自の怪獣映画という映画ジャンルにこだわり、実写映像を使用せず全編をCGにより作成した世界初の本格フルCG怪獣映画。原作・脚本・監督は粟津順。CG映像工房「スタジオマガラ」製作の特撮映画作品。

映像部分は粟津が一人で大部分を制作。10代の頃より初代ゴジラをはじめとする特撮映画の世界に引き込まれ、 怪獣に魅せられていた粟津は映像プロダクションマリンポストにCGデザイナーとして所属していたが、自身の手で作品を創作したいという考えから会社を辞し、2年4ヶ月を費やして本作品を完成させた。

粟津によると「すべての人類が楽しめる娯楽映像作品」を目指し、特撮映画の手作り感と昭和30~40年代怪獣映画のフィルムに近い質感を再現するために、独自に「粟津フィルター」という映像エフェクトを開発した事により上映フィルム感を高めている。その事により、作品の時代設定である「昭和百年」に合致したレトロフューチャーの世界が描くことに成功しとしている。ただ、「すべての人類が楽しめる娯楽製造作品」になっているかは疑問。

前半は間が長く、それがテンポを悪くしているし、後半に巨大ロボットMI-6二号機が出てくる展開も急すぎる。ここは前半に、何らかの伏線をしのばせるべきだったとおもう。ただそんなストーリーや、演出上の事は些細な問題にすぎない。上映時間25分だから、枝葉の部分をバッサリ切り落としてシンプルなストーリーにせざる得ないことは、重々承知している。それよりも驚いたのは映像部分だ。上述の通り本作はわざと昭和レトロ感を出すようにしているから、そこは問題ではない。2005年に見たときは、クオリティーの高さに驚いたビジュアルが、現在見るとすっかり古臭くなっていることに驚かされたのだ。

現在、YouTubeにアップされているUE's VFXさんの「FAN ART of GODZILLA V. GAMERA / ファンアートゴジラV.ガメラ」やyuki kurosuさんの「地雷大怪獣イヴァラ」などを見ると、この15年余りの技術の進歩を感じさせられる。最先端を売りにしたものは、廃れるのも早いことを実感させられる。もっとも”アニメ”としてみると、違った見方ができるかもしれないが、そうなると今度はピクサー等と比較されることになる。

ただ、本作最大の特徴である「昭和百年」の世界観は今見ても楽しい。林立する電柱や、和風木造家屋。畳が敷かれた居間に鎮座するちゃぶ台。そしてブラウン管のテレビ。防衛軍の装備がF-104や74式戦車。そして昭和特撮に散々出てきたが、自衛隊が装備したことがない謎兵器オネストジョンミサイル等。昭和世代が見ればノスタルジーに浸れるその世界観に火星ロケットが登場するギャップ。そのギャップにこそ本作最大の魅力があると言って良い。

余談だが、今年は昭和98年。昭和100年まであと2年だが、本作に登場するアイテムは、今や日常で見かけることはなくなった。いまだ現役な兵器は74式戦車ぐらい。それも目下絶賛退役中。昭和は遠くなりにけり。