電送人間(1960年)監督 福田純 主演 鶴田浩二(日本)

 

遊園地のお化け屋敷で、ブローカーの男が死亡する事件が発生。凶器は銃剣とみられたが、誰も犯人の姿を見ておらず、捜査は難航した。新聞記者の桐岡や警視庁の小林警部・岡崎主任らは事件を追うが、その間にも銃剣を使った殺人事件が多発。やはり犯人の姿は誰も見ていなかった。桐岡は現場に残されていたクライオトロンから、物体の電送「テレポーテーション」を研究していた科学者の仁木博士の関与を推測。その過程で敗戦まで博士の警備をしていた須藤兵長の存在も浮上する。一連の事件は戦時中に軍の資金を横領した上官から口封じとして仁木博士と共に殺されかけた須藤の復讐だったのである。捜査陣は最後のターゲットである元陸軍中尉の大西正義保護の為、愛知県にある彼の別荘へ急行したが…。

1960年公開された特撮映画。変身人間シリーズの第二弾。

本来は本多猪四郎が監督を務めるはずであったが、「日本誕生」の製作遅延によって順延となった「宇宙大戦争」の製作に追われていたため、「空の大怪獣 ラドン」などで助監督を務めた福田が監督に選ばれたた。また福田の監督就任祝いとして、福田と親交があった鶴田浩二がオファーに快諾し、主演を務めることに。もっともその後の経緯を見ると、「快諾」ではなかったようにも思えるが。なお、特撮班も「宇宙大戦争」の後に「ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐」が控えていたため、慌ただしいスケジュールとなった。

冒頭のお化け屋敷での殺人事件。客に交じって、お化けたちも避難する姿に笑わさせられるが、現場に無断で入りこんだ新聞記者が鶴田浩二。彼を捕まえるのが土屋嘉男。そして鶴田浩二の友人が刑事の平田昭彦というのが豪華。そして被害者の持ち物が旧陸軍の認識票というのが時代を感じる。まだそのころは、そんな戦争の遺品があちこちに残っていたんだろう。ここでキャバレー経営者の、河津清三郎演じる大西が登場。河津は一目で堅気じゃないとわかる彫が深い容貌。彼の経営するキャバレーというのが「軍国キャバレーDAIHONEI」。今見ると、電送人間以上に強烈なインパクトがあるが、この種の店舗は当時実際に存在していたらしい。この店ではウエイターは陸軍の軍服。入口に立つものは、着剣した38式歩兵銃まで持つという念の入れよう。ホステスはミニスカのセーラー服。ここで鶴田浩二が、軍歌を歌ったりしたら最高だったんだが。

翌日、精機会社のOL白川由美演じる明子は、大量発注した冷却機の納品が遅いとクレーム付けに来た中丸忠雄演じる中本の対応をする。異様な様子にビビり気味の明子。が、その夜、第2の殺人事件が発生し、逃げる途中の犯人と遭遇した明子。いるんだねえ、こんな不運な人。彼女は失神するが、犯人は何故か抱いて逃げようとするも、警官に追われその場に置き去りに。実は犯人は中本だった。一目惚れしたのか?倉庫に逃げ込んだ直後火災が発生、そのあとに不思議な機械が見つかる。

実は大西は敗戦のどさくさで金を強奪し、口封じで仁木博士と中本は殺されたはずだったが、脱出に成功。仁木博士は物質電送機を発明していて、それを利用して中本は瞬時に移動。犯行を繰り返していたのだ。この電送機、便利なようで不便で、送り側と受け取り側の両方に装置がない移動できず、犯罪現場近くに機械を置く必要があり、警察に追いかけられるから事実上使い捨て。結局誰かに中本がいる浅間山の牧場にいてもらい、アリバイ工作にしか使いようがなく、事件の後は電送機まで必死で逃げるしかない。この辺りの設定は、帰るときはいらないとか、もう少し何とかならなかったのか。その為白川由美と鶴田浩二に来てもらうのだが、これが完全に藪蛇。二人とも電送機の仕組みを知っているから、かえって怪しむようになる。

主演の鶴田浩二にとって特撮物は初めてで、それも福田監督との信頼関係があったからだが、本人思うところあったらしく、間もなく東映へ移籍する。一方中丸忠雄もこれが初の大役だったが、抵抗があったらしく次回作を断り、田中友幸プロデューサーの逆鱗に触れたとか。この頃は特撮映画の偏見が大きかった。結局次回作の役は、特撮大好きの土屋嘉男が抜擢され、今なお愛されるこのシリーズ最高傑作を生むことになる。

電送人間は、青白く走査線が発光して、なかなか雰囲気があるが、ガス人間や液体人間と違い不死身ではない。特撮の見せ場はこの電送人間のビジュアルや、電送機を積んだ列車が爆発するところ、そして浅間山の噴火ぐらいで、このシリーズの中では一番少ない。と言うよりこの頃特撮班は、相当ハードなスケジュールだったので、これが精いっぱいだったのだろう。それよりも本作は人間ドラマ、そして電送人間と警官との追いかけっこなどアクションに重点を置いている。そして戦争の影が作中に色濃く残っている。戦後15年。まだ人々にとって戦争は遠い昔の事ではなかった。

本作は、本多猪四郎監督作品でないこともあって、特撮映画として評価されていない面がある。確かに特撮映画というより、電送機というトリックを使ったダークヒーローものという面が強いが、だからと言ってつまらないという事はない。それに特撮とは、怪獣や怪人が暴れるだけのものではない。