長靴をはいた猫 80日間世界一周(1976年)監督 設楽博 声の出演 なべおさみ(日本)

 

ドンドン街のサロンでは、先程からてんやわんやの大騒ぎ。ペロが街の実力者、グルーモンと、八十日間で世界一周すると賭けをしたのである。ペロはネズミの父子やレストランのコックのカーターとともに、時間に追われながら苦難の旅を続けるが、グルーモン卿の手先のガリガリ博士、そして謎の美女スザンナが妨害してくる。ペロたちの車をこわそうとしたり、大きな漁船を使って、ペロたちの潜水艦をのみ込んだり、三匹の殺し屋を使って襲わせたり、マンモスを組み立てて踏みつぶそうと企んだり……陸海空、あらゆるところから妨害した。その度にペロたちはピンチになるが、持前の勇気とアイデアで協力しあい、ついに世界一周し、ドンドンの上空に帰って来た...。

 

「長ぐつ猫」シリーズ第3作にして完結編。と言ってもあの3匹のポンコツ殺し屋は健在なので、まだ続けるつもりだったのかもしれないが、これ以降作られていない。

本作の監督は設楽博。この頃の東映のアニメ映画は「監督」ではなく「演出」と表記されている。不思議なことに「作画監督」や「美術監督」とは言われるが、頑なに「監督」は使われない。

前作ではペローの「長靴をはいた猫」から離れオリジナルストールーとなっていたが、本作ではジュール・ベルヌの「八十日間世界一周」の要素が加えられカオスな状態に。しかも本作では登場人物が全て、擬人化された動物キャラクターだけで物語が進行し、人間は一人も登場しない。そのあたりの経緯は本編で全く説明されていないが、ひょっとしたら前作から本作までの間に、パラレルワールドに迷い込んだのか?それならネズミも擬人化されているから、ペロへの死刑判決は取り消されているのかと言えば、さにあらず。相変わらず間抜けな3匹の殺し屋は追っかけてくる。本作に限って言うと、キャラの擬人化は成功したと思う。というより、擬人化しなかったらかなり微妙な作品になっていたかもしれない。

わがままなセレブと賭けをして、80日間世界一周の旅に出かけるペロ。上映時間が68分なのでそのエピソードはかなり駆け足で、ゆく先々でガリガリ博士と、彼と手を組んだ3匹の殺し屋とのドタバタが中心で、この辺りはテンポよく見る事が出来る。ただそれだけでは飽きが来るので、中盤に謎の美女スザンヌが登場し、彼女の危機をペロが助けて仲良くなるが、実は彼女はガリガリの手下で、ペロに薬を飲ませて出発を遅らせようとしていた。この辺りの緩急のつけ方はよかった。ただ彼女はここで出番は終わってしまうのが残念。ちなみに中の人は「新ルパン三世」の峰不二子、増山江威子。本作にはヒロインが登場しないので、旅に同行して、色仕掛けで邪魔をしているうちに改心して、ペロたちを助けるようになったらもっと面白くなっていたのに。

 

前半の砂漠の町でペロの乗る車と、ガリガリ博士から提供されたドリル戦車?とのカーチェイスは迫力満点。更に終盤ドンドンの時計塔で、グルーモンとペロの戦いは背景で歯車が動き続ける中での戦いは凄い。本作は無茶苦茶作画に力が入っている。

作画のクオリティが高く、テンポがよい本作は名作と呼ぶにふさわしいが、前述のとおり本作をもってシリーズは終了する。前作から4年経ち当時の子供たちが続けてみることがなくなったことや、単純にネタ切れという事もあるだろうが、70年代に入って東映の長編劇場アニメは大きな変革期を迎えだした。それまで古典や童話、児童文学に題材を求めていたのが、この頃から「マジンガーZ対デビルマン」や「UFOロボ グレンダイザー対グレートマジンガー」といった人気テレビアニメのスペシャル版が主流となりつつあり、名作路線は縮小傾向となっていた。恐らくこれもシリーズ終了の原因だったのではないだろうか。ただ3作目にしてようやくペロが主役となり、魅力が増してきただけにここでも終了は残念な気がする。テレビでやろうとかだれか思わなかったのかな。

余談だが、本シリーズの「長靴をはいた猫」は「ルパン3世カリオストロの城」の原型と言われているが、本作の時計塔の戦いも「カリオストロ~」によく似たシーンがあった。とはいえ本作に宮崎駿は参加していないようなので断言できないが。