美女と液体人間(1958年)監督 本多猪四郎 主演 白川由美(日本)

 

ある雨の晩、下水管より現れた不審な男が突如苦しむようなうめき声を上げると、拳銃を発砲し始め、衣服と麻薬を残してその場から姿を消してしまう。警視庁の富永は、遺留品から消えた男性の正体がギャングの一員・三崎であることを突き止め、彼らが麻薬密売を目論んでいると推理し、三崎の情婦であるキャバレー「ホムラ」の歌手・新井千加子に接触してきた男性を逮捕する。しかし、男性の正体はギャング関係者ではなく、富永の友人である生物化学を専攻する城東大学助教授・政田だった。やがて東京で衣服だけを残した人間消失事件が頻発するようになる。政田はそれを、水爆実験で放射能を浴びたことから、液体人間になった者の仕業と推理する。

 

「変身人間シリーズ」の1作。原作者の海上日出男は端役専門の俳優で、「液体人間現る」と言う脚本を東宝に持ち込んで役員の目に留まる事になるが、本人は完成を待たず心臓麻痺で死去することになった。

水商売など裏世界と警察が描かれ、アダルトな雰囲気も持つ特撮映画である。また、当時流行していた暗黒街映画の影響も受けているが、同時期の東映や日活と比べると、やや雑な印象でそれじゃない感もある。中盤の見せ場のキャバレーの手入れのところは、あまり説明されていないこともあり、何が行われているのはいまいち分かりにくいが、液体人間の乱入でそのあたりは有耶無耶になってしまう。

ヒロインは白川由美。正直言って本作で一番目を引いたのが彼女。美人なのは当然としても、清楚で品があり。裏社会モノをねらっているので、ギャングの情婦役にして、キャバレーで歌い手をやっている。ステージで歌っている姿は華やかで、それだけでも絵になること間違いなし。最後は下着だけになって、佐藤允に下水道を引きずり回されるシーンに体当たりで挑んでいるが、美しすぎてあまりエロさは感じない。一方、同じキャバレーの踊り子は園田あゆみ。ビキニの衣装で妖艶に踊り、最後は液体人間に溶かされ、ブラとパンツを残して溶ける等サービス満点。まあ、これを白川由美でやるのは無理だろうな。

一応主人公の佐原健二は、「空の大怪獣ラドン」でも白川と共演していて、本作では液体人間に科学的に迫る生物学者の役。この頃の佐原は役にメリハリがなく、ステレオタイプの典型的な二枚目が多い。が、のちに「マタンゴ」で大変身を遂げる。他に特撮映画には珍しく小沢栄太郎か老獪な刑事役で出演。いいアクセントになっている。平田明彦は対照的な知的でスマートなエリート風の刑事。小沢と同じ俳優座の千田是也もラストを占めるセリフを言うなど、ゴジラの山根博士的な立ち位置。この人だと、どんなこと言われても納得するからすごい。他に当時まで無名だった夏木陽介が、最初に事件に出くわすアベックの、若い男として出ているのが目に付く。

本作の液体人間とは、核実験に巻き込まれて、死の灰を浴びたマグロ漁船「第二竜神丸」(第五福竜丸が元ネタだろう)の乗組員の6人が、強い放射能の影響で突然変異した液状生命体とされている。どろどろの液状になって人間に迫るシーンは、後に円谷プロによる「ウルトラQ」に登場したケムール人を彷彿とさせるが、本作に着想を得たのだろう。全く放射能と言うのは、浴びると巨大になったり、古代から眠る恐竜を甦らせたり、ドロドロに溶けても生きていられたり、現代では遺伝子操作とか環境破壊がとって代わったが、この頃は結構便利に使われている。

ちなみに液体人間の正体は、昆布が原料のローションのもと。化粧品会社で使われていたものをもらってきて、カッターナイフで細かく刻み、水に一晩着けたものが使われた。最初は刻み方が大きかったので、なかなか溶けず困ったという事だ。温度はぬるま湯がちょうどよかったとか。また液体人間の移動シーンはカメラを固定させた小さなセットを作り、それを動かして撮影がされた。この頃の映画職人のこだわりはすごい。こだわりと言えば、地下道は、東宝特撮陣が作ったセットで、実物大と1/2の2種類が作られたという。この頃はまだ東宝名物の大プールがなかった時代なので、大量の水を使うセットを一から作り上げた、当時の映画職人たちの気概や恐るべし。もっとも、佐原健二の証言だと実際の地下道で撮影されたとなっているから、一部はロケをやったのかもしれない。

ラストは白川由美を助けに来た佐原健二が液体人間に追われ、下水道を逃げ回ることになる。あわやと言うところで平田明彦が率いる自衛隊が到着。火炎放射器で液体人間を撃退して、無事脱出に成功するが、最後に千田是也が「ゴジラ」での山根博士めいた教訓を述べて終わる。これからも分かると通り、本作は「ゴジラ」の変身人間版として作られたようだ。

変身人間シリーズの第1作として作られたが、後の「電送人間」「ガス人間第1号」と比べると、完成度は劣る。佐藤允や中村哲ら暗黒街のパートは、とってつけたようで、本筋と絡み合っているわけでもなく、浮いた印象を受ける。肝心の液体人間の個性が全く描かれず、彼らは核実験の犠牲者なのに、ただ無機質に人に迫り害をなすモンスターになってしまっている。なぜ彼らが人を襲うのか、全く描かれないので、感情移入できない。もっとも、冒頭で液体人間となった三崎が、自分の情婦であった千加子に付きまとっているかのような描写も見られるが、固体の見分けがつかないので何とも言えない。実際、この辺りの話を膨らませても面白くなったはずだが、初期のアイデアでは、液体人間の動向を探るため、千加子自らが液体人間となって彼らと接触するとのアイデアもあったようだが、実現しなかったのが残念だ。ただ本作の経験が、後の2作に生きたとすれば偉大なる先駆者と呼んでもいいだろう。