恐竜・怪鳥の伝説(1977年)監督 倉田準二 主演 渡瀬恒彦(日本)

 

樹海での自殺未遂から生還した女性が、巨大な卵を目撃した旨を述べて息絶える。鉱物のスペシャリストである芦沢節は、そのニュースに自らが企画して旅立つ予定のメキシコ出張を即座に取りやめ、その日のうちに富士山麓へある目的のために旅立った。現地には、芦沢の元恋人である女性カメラマンの小佐野亜希子と、その助手の園田淳子がいた。富士五湖の近くでは怪現象が相次ぎ、ついに水中撮影中の亜希子を待っていた淳子が、何者かに下半身を食いちぎられるという事件が発生する。実は、芦沢の父は富士樹海での恐竜生存説を訴えていた古生物学者だったが、恐竜生存実証ができず、失意の中この世を去った。そしてその主張は現在も認められてはいなかったが、生前に芦沢の父もまた同じ場所で、例の石の卵と同じモノを発見していたのだ。芦沢は、父の言葉通り恐竜が富士の麓に眠っているのかを、どうしても自分の目で確かめたかった。

 

1975年に「ジョーズ」が世界的に大ヒットを記録すると、「グリズリー」や「アニマル大戦争」等同様の動物パニック映画が作られるようになった。この流れに目を付けた当時の東映の社長・岡田茂が企画したのがこの本作である。これまで様々な映画で東映の危機を救った岡田だが、その一方で経営を傾かせるような失敗も多い。本作はそうした岡田無双伝説のほころびの始まりと、とる事が出来るかもしれない。この頃の岡田を現すエピソードに「洋画のあれ、面白かったから焼き直せ」と口癖のように言っていたという。良く言えば意欲的なのだが、外部からの影響に頼る映画作りはリスクも発生する。本作はまさに、リスクを最大限しょい込んだと言えるだろう。

本作に当時として破格の7憶5千万円もの製作費が組まれたが、実質1億5千万円しか使われなかったという。理由は不明だがこの結果特撮は、当時の技術を考慮しても非常に情けないものとなってしまった。というか、本作の10年前の「怪竜大決戦」の特撮のほうが優れているし、見ごたえもある。映画に登場するプレシオサウルスとランフォリンクスは操演で表現されているのだが、この操演はひどく「ヒモで恐竜を引っ張っているのが見え見えで、恥ずかしかったですよ」と責任者だった翁長孝雄は語っている。そのせいでクライマックスのプレシオサウルスとランフォリンクスの決戦は、戦いの最中に両者とも動きを止めてしまい、ぐったりしたところを地割れに飲み込まれるという、なんともしょぼいものとなってしまった。

物語も突っ込みどころ満載。湖に恐竜をおびき出そうと村人が爆雷を投下すると、怒ったランフォリンクスが村人を襲うシーン。なぜ自治体の消防団が爆雷を用意できるのか?と言う野暮な突込みはともかく、「この展開なら襲うのはプレシオサウルスだろう」と言う突込みは無視できないだろう。襲われた村人が、積み重ねられた爆雷の傍に逃げた時点でいやな予感がしたが、予想通り乱射した銃が爆雷に命中。村長以下その場に居合わせた村人が全員木っ端みじんとなる。これはギャグか?そのあとで渡瀬恒彦と沢野火子の目前でランフォリンクスとプレシオサウルスの戦いが始まるが、このシーンは前述の通り盛り上がらない事はなはだだしい。と言うかこの映画、主役の二人は、「ジョーズ」のロイ・シャイダーの様に恐竜と戦うことはなく、クライマックスも恐竜や地震から逃げ回るばかりでここまでほぼ何もしない。

興行収入も散々で、当時の社員曰く 「海外も含めて大々的に宣伝したが恐ろしくコケた」 という。何故か旧ソ連では4870万人の動員があったらしく 、今でも記録に残っている。全くロシア人の感性は理解できない。

途中で、ランフォリンクスが大人を捕まえ、飛び上がるシーンがあるが、ランフォリンクスの翼開長は40cm~175cmほどしかなく赤ん坊ならともかく、大人を捕まえて飛び立つのは不可能だ。

また、プレシオサウルスがヒロインの助手の下半身を食いちぎるが、プレシオサウルスの全長は、せいぜい2~5m程度で、人間の下半身を食いちぎるのは困難だろう。もっとも映画の中では、両者ともゴジラやラドンサイズにスケールアップされている様に見えるが、その理由はもちろん説明されていない。

主演の渡瀬恒彦は、この頃やくざ役が多く、恐らく演技の幅を広げようと思って出演したのだろうが、およそ岩石学者とは思えないワイルドさ。ヒロインの扱いも、ほほを殴りつけるなど、それまで演じてきたやくざ役と変わりない。演技の幅を広げるには、翌年の「皇帝のいない八月」を待たねばならない。もっともあの映画でも、吉永小百合の頬をぶつシーンがあったが。

ヒロインの小泉洋子(当時沢野火子)は、他の役で見ると美人で色っぽいのに、ほとんど黄色いウェットスーツにキャップをかぶっているから、魅力的に見えないのが残念。特に頑なにキャップをかぶっているから、もじもじ君にしか見えない。しかも後半のセリフは悲鳴ばかりで、それもかなりオーバーだからうざく感じる。キャップを外し胸元を少し開くぐらいしてくれれば、と悔やまれる。これは渡瀬恒彦も同じで、彼も頑なにキャップを取らない。こちらも胸元をワイルドに開けていたら、女性ファンは喜んだはずだ。どうでもいいことだが、渡瀬が演じる芦沢は彼女の事を「あこ」と呼んでいるが、役名は「小佐野亜希子」普通に考えたら「あき」になると思うのだが。

ワンマンの社長が暴走し、だれも止められない中で誕生した本作だが、怪獣映画なのか、アニマルパニック映画なのか、分類できないほどの怪作に仕上がった。仲間と集まっていろいろ突っ込みを入れながら見てはどうだろう。

余談だが、 本作はタイトルに「恐竜」と「怪鳥」と銘打っているのに恐竜も怪鳥も一切登場しない。当時は仕方ない面もあったが、正確にはプレシオサウルスは恐竜じゃないし、ランフォリンクスも鳥ではない。したがってタイトルは今でいう「サムネ詐欺」となるだろう。