2300年未来への旅(1976年) 監督 マイケル・アンダーソン 主演 マイケル・ヨーク(アメリカ)

2274年。大気汚染の結果、人々は巨大なドーム都市に住んでいる。そこでは人口制御のため、人間は30歳になると死ぬ事になっていたが、表向きは生まれ変わるとされ、その為の儀式が繰り広げられている。死を拒否する逃亡者を追うサンドマンのローガンは、同僚のフランシスと共に30歳の人々を消す再生の儀式を見にいくが、その時も逃げ出した者を消滅させた。その日デート回路を通しジェシカを知るが、彼女を通して他の逃亡者達と触れ合ううちに、コンピューターによる支配、30歳になると消されてしまう状況に疑問を持ち始める。やがて彼は、都市を取り仕切るコンピューターに、逃亡者組織への潜入捜査を命じられ、同時に彼の命も逃亡者となりきるためけずられてしまう。だがそれを任務後返してくれるとの保障はない。ローガンはジェシカを訪ね、自分も逃亡したいと告げるが彼女と仲間は信じない。だが、彼が逃亡者を逃がしてくれるという意志をジェシカ達が確認できたため、ようやく信用を得て共に逃げる事になる。フランシスに追われつつ、2人はドームの外へ。そこには未知の緑の大地があった。

ウィリアム・F・ノーランとジョージ・クレイトン・ジョンソンによる小説「300年 未来の旅 ローガンの逃亡」を原作とし、デヴィッド・ゼラッグ・グッドマンが脚本を執筆した。コンピューターに管理され、人口爆発を防ぐために30歳を超えた者は殺されてしまう23世紀の世界を描いたディストピア映画である。ついでに言うと、監督、主演、ヒロインがいずれもイギリス出身だが、れっきとしたMGM制作のアメリカ映画。じつは私もかなりあとまで、イギリス映画と思っていた。
最初のこの映画を見たのはまだ10代の頃で、その時はタイトルからてっきり「2001年宇宙の旅」の続編か、関連作品と思っていたので、見終わって発狂したことがある。その後長年放置していたが、改めて見直してやや認識を変えた。本作は、紛らわしいタイトルのせいで、あまり正当な評価を得ていないように感じられるが、だからとって名作かと言われるとそこまで持ち上げる気にもならない。もっとも「2001年~」正真正銘の続編を見たら、違った意味で発狂したが。
ドーム内では気温の調整されているせいが、露出度多めの原色系の薄物しか纏っていない。特にヒロインを演じたジェニー・アガター初登場時の衣装は、貫頭衣状で横から見ると、下着をつけていないことが丸見えと言うサービス精神溢れる衣装。さすが16歳でヌードを披露しただけの事はある。
主演のマイケル・ヨークは、26歳の設定だが公開時34歳。演技力は折り紙付きだけど、若者を演じるにちょっと厳しさを感じる。
冒頭の生まれ変わりの儀式は、30歳になったものはグロテスクな仮面をかぶり、天空に浮かぶと次々と処刑される。多分反重力なんだろうが、詳しい説明はない。それを熱狂して見守るより若い観客。この辺り古代ローマのコロッセオで繰り広げられる血なまぐさい見世物に歓声を送るのに似ている、一つ違うのは、彼らもあと何年かすれば、同じ運命となるところだが、これが生まれ変わりだと信じて疑わない彼らは気付くことない。典型的なデストピアだが、そこに暮らす彼らはユートピアと信じて疑わない。まさに知らぬが仏。そういえば、2013年に国民総幸福量(GNH)で北欧に続き8位となっていたブータンは、ネットの普及で外国の事を知る機会が増えたことで、2019年に95に急落。その後はずっとランク外だ。同国ではかつてはマスコミで、情報統制が行われていたようで、大半の国民は外の世界を知らなかったから自分たちは幸せと思っていたようだ。これもまた知らぬが仏か。
ここまで人口統制が行われるのは、ドーム都市が養える人口に限界があるのだが、すでに外の世界は環境破壊から立ち直り、緑豊かな自然が広がっている。逃走したローガンとジェシカはそこで彼らにとっては未知の「老人」を目にし、外の世界は長生きできることを知る。ドームが破壊され逃げ出した若い住民たちが、老人のピーター・ユスティノフの顔の皴を触って笑顔を浮かべる。本作では老いることが希望となっているのが面白い。もっともこの時彼は54歳だから、老人とはいいがたいんだが。
デストピア物としてはやや中途半端で、同時期に制作された「赤ちゃんよ永遠に」等に比べると、人口爆発や環境破壊などに対して、かなりゆるーい作りで悲壮感は感じない。一歩外出りゃ万事解決だから、そりゃそうなるだろうが、その分お気楽に見ることができる。その後演技派として活躍している女優の、若き日の艶姿を見るのもいいだろう。
ちなみに、原題は「Logan's Run」すなわち「ローガンの逃走」と原作タイトルと同じ。それをこんなまぎらわしいタイトルにしたのは、いわゆる「邦題詐欺」と言うやつで、SF映画の金字塔にあやかろうとした、日本の配給会社の邪な考えだろう。