カプリコン・1(1978年)監督 ピーター・ハイアムズ 主演 エリオット・グールド

 

人類初の有人火星探査を目的とした宇宙船カプリコン1号が打ち上げ直前に、三人の乗組員は管制スタッフや見物客などに見つからぬように、砂漠の真ん中にある無人の古い基地へと連れていかれる。ロケットが無人のまま打ち上げられている中で、三人には本計画の責任者であるケラウェイ博士から、カプリコン・1の生命維持システムに決定的な不具合があることが発覚し、そのため無人のままのカプリコン・1を火星に向かわせ、飛行士が乗船していたと見せかけるというものだった。計画は順調に推移するが、帰還の直前大気圏突入のショックで、ロケットは破壊されてしまう。それを聞いた乗組員たちは危険を察知し、砂漠の基地から脱出を図る。

 

宇宙飛行が題材となっているため、SF映画にカテゴライズされていることが多いが、内容的には国家レベルでいわゆる“やらせ”を仕組むなど、所謂陰謀論に立脚し「政治ドラマ・サスペンスドラマ」の要素が強く、国家計画の威信や、それによって犠牲となる人々の様子を主として描いた作品となっている。当初は協力的だったNASA が内容を知り、協力を拒否したことで有名な作品。ただ、アポロ宇宙船を搭載した、発射台上のサターン5ロケットなどの記録映像が使用されているし、元職を含め職員たちからの協力もあった。また、エリオット・グールド、ハル・ホルブルック、テリー・サバラスなど、癖のある性格俳優が出演した事もあって、リアリティーを増すことになるが、それがのちに新たな問題を生むことになる。

本作へ対するNASAの反応だが、当時、アポロ11号は月に行っていないという、所謂ムーンホークス説と言うのが唱えられていたから、NASAが過剰反応したのではないかと思う。ムーンホークスについて様々に唱えられているが、そのほとんどすべては解明されている。そもそも、アポロ11号の映像を受信したのは、アメリカからの依頼を受けたオーストラリアのパークス天文台。アポロ11号が月に行っていないなら、オーストラリアも関わっていることになる。ちなみにこの件は2000年に、オーストラリアで「月のひつじ」と言うタイトルで映画化されている。更にソ連が崩壊すると、当時ソ連で宇宙開発にかかわっている人の証言が得られ、ソ連でもアポロ11号から地球へ送られる映像を、傍受していたことが判明した。これらの陰謀が成立するにはオーストラリアに加え、ソ連も加担していたことになるが、いったいどんなメリットがあってソ連がアメリカを助けたというのだろう。だがこの映画の出現でムーンホークス説を勢いづかせたのは否めない。

本作でもいったいどれだけの組織が、この陰謀に加わっているのか危ぶみたくなる部分があるが、映画だからその辺は置いておくとする。そして映画として見るとなかなか面白い。飛行士の中で、陰謀に批判的なジェームズ・ブローリンが、家族にだけわかるようにメッセージを送り、それがエリオット・グールドに伝わる。宇宙船の事故後、逃げ出す飛行士たちを追いかけるNASAの特殊部隊(そんなのいるのか?)。エリオット・グールドはテリー・サバラスが駆る旧式な複葉機で救出する。この前のグルードとサバラスの値段交渉の件が傑作。事件が片付いた後、どうやって報酬を払ったのかのだろうか?最後は複葉機とヘリとの空中戦。ここまでの展開はスリリングで飽きさせない。

この映画はあくまでエンターテインメントであって、社会派でも告発映画でもない。そして、エンタメとしては十分に楽しめる映画となっている。

余談だが、本作で宇宙飛行士の一人を演じているのが、元フットボール選手のO・J・シンプソン。彼は1980年1月に現役を引退しているから、本作撮影中はまだ現役だった。本作で元気に演技する彼を見ると、複雑な気分になる。