エヴォリューション(2015年)監督 ルシール・アザリロヴィック 主演 マックス・ブレバン

 

少年と女性しか住んでいない島で母親と暮らす10歳の少年ニコラ。ある時禁じられていた海に潜ったステラは、海の中に子供の遺体と、その腹にへばりつくヒトデを見つける。母親に訴えるが軽くいなされて終わる。その島の少年たちは、全員が奇妙な医療行為の対象となっていた。病院の看護師ステラと親しくなるにニコラ。島の様子に違和感を覚えたニコラは、夜遅く外出する母親の後をつけてみると、海辺にたどり着くと、母親がほかの女性たちと「ある行為」をしているのを目撃してしまう。やがてニコラの身にも異常が起きる。

 

第63回サンセバスチャン国際映画祭の審査員特別賞、最優秀撮影賞受賞など、各国の映画祭で高い評価を獲得した異色のドラマ。少年と女性しか住んでいない島を舞台に、そこに隠されている秘密を知る10歳の少年の姿を追う。メガホンを取るのは、「ミミ」「エコール」などのルシール・アザリロヴィック。「エール!」などのロクサーヌ・デュラン、「マリー・アントワネットに別れをつげて」などのジュリー=マリー・パルマンティエらが出演。

上記の記述を見て、本作は玄人あるいは玄人はだしの観客好みの映画だという事がわかると思う。実際見ていると感じる、違和感の海でおぼれそうになる。

まず始まって覚える違和感は、島には少年とその母親ぐらいの年齢の女性しかいない事。父親はいないし、少女もおらず、男女問わず老人もいない。そしてその理由は一切語られる事はない。少数の母親と少年たちの一見普通だが、どこか風変わりな日常の風景。食事は母親が用意した食欲をそそられない流動食のみで、子供は必ずどう見ても病気には見えないのだが、1日に1度飲み薬を処方される。

しばらくすると、子供は島の病院らしき施設に入院させられる。そこにいるのも母親と同年代ぐらいの女性のみ。腹部に注射を突き立てられたり、およそ10歳ぐらいの子供に処置するとは思えない、異様な“治療”を施し家に帰される。

中盤あたりで“女“達の背中に吸盤があり、人間ではないことが示唆される。それとともに話は急にホラー度が増していくが、ホラーになり切れてもいない。

島の女性たちは皆“人間”ではないようだが、その正体は最後まで明らかにされない。彼女?達は自力では生殖できないので、代わりに少年の体内に種付けをして妊娠させ、胎児を手術で取り出した後は用済みとして海に棄てて始末するというもの。ニコラが見た海岸でのぐにょぐにょは生殖行為なのか?やがてニコラは体内から胎児を取り出す手術を受ける。辛うじて死なずに済んだニコラだが、その生き残りですらも胎児の栄養分として利用される。

本作は説明を排して、徹底的に映像だけで表現しようとしている。それは、むしろ意外な効果をもたらすこともあるから、決して悪い事ではないが、それが出来るのはあくまで人智で理解できることではないかと思う。本作が描いている事(描こうと思われること?)が、人智で理解できる範疇にないため、終始観客は置いてけ堀をくらわされることになる。ちなみに上記の考察は公式ではなく私個人のものなので、当たらずとも遠からずだとは思うが監督の意図と合致しているかは定かでない。映像の異様さから、デヴィッド・クローネンバーグに例えられる評論もあったが、若いころのクローネンバーグはもっとわかりやすかった。

最後まで正体不明で終わった島の女たちだが、宇宙人だとか海底人等様々な考察ができる。しかし、タイトルの「evolution(進化)」から進化した人間と言う考察もできるだろ。ただ進化の結果生殖能力をなくし、未進化の子供で繁殖しなければならないとなると、そこは紛れもなくディストピアとなる。ルシール・アザリロヴィック監督の思想信条は不明だが、女ばかりとなって男児に頼らなくては子孫を残ない世界と言うのは、暴走したジェンダー思想のなれの果てを暗示したのかもしれない。ちなみにアザリロヴィック監督は女性である。