ラムの大通り(1971年) 監督 ロベール・アンリコ 主演 ブリジット・バルドー リノ・ヴァンチュラ

 

アメリカに禁酒法がしかれていた1920年代、カリブ海にはジャマイカからニューオリンズへのラム酒密売のルート通称“ラムの大通り”があった。そのラム酒を密売する船員コルニーは、アメリカ沿岸警備船に襲撃され、アメリカ国境に近いメキシコの海岸に漂着した。命からがら逃げだし、やっと食事ありついたコルニーは、そこの主人から“めくら撃ち”の賭けを勧められた。命の危険がある賭けだが、コルニーは船を買うには絶好のチャンスと、その賭けに挑戦することに決めた。大金をせしめるがに満身創痍となり、彼は気を失った。それから6カ月後。ジャマイカ、キングストンの港に船長となったコルニーが乗る船が入港する。早速彼に仕事が舞い込むが、その前に映画館に入ったコルニーは、裸同然の野性の美女を見る。一目で女優のリンダ・ラルーのとりこになるコルニ―。彼は仕事の最中でも、港々で映画館に入り浸る。大きな仕事を得た彼は出発前夜、海辺で水浴びをしているリンダと運命の出会いをする…。

 

実は今回再見するまでこの映画を、1920年代の禁酒法時代を舞台としていた事や、冒頭で漂着したリノ・ヴァンチュラを追ってきた警察が、トンプソンでラム酒を銃撃するシーン等から、ずっとアメリカ映画だと思っていた。出演者はもちろんだが、映画の雰囲気からこれはアメリカ映画でないことは明らかだが、当時はそんな知識もなかったから誤解していたわけだ。全く恥ずかしい限り。

主演のリノ・ヴァンチュラは、ガタイがよく特異な風貌が印象的だが、もともとはグレコローマンスタイルを得意としたレスリング選手。第2次大戦後には、より稼げる仕事であるプロレスラーに転身。しかし怪我が原因で選手生命を絶たれたところで、ギャング役を探していたジャック・ベッケルに見出され、1954年にジャン・ギャバン主演の「現金に手を出すな」で映画デビューすることになる。この時まで本格的な演技経験がなかったにも関わらず、彼は注目されることになる。特に共演者のギャバンの助言で本格的な演技の道に入ることになる。そうした経緯もあってか、リノ・ヴァンチュラはかなり気難しい性格と言われ、契約書には「ラブシーンはしない」「どの共演者ともキスシーンはしない」と明記されていたと共演のバルドーが語っていた。一方これもまた気まぐれな性格で有名な、バルドーとの共演では相当もめたのではと思ったが、意外なことに和気あいあいとしていたという。さすがはバルドー。猛獣使いもお手の物と言うわけか。

本作はそんな彼としては珍しいファンタジー風味のラブコメ。美女と野獣の取り合わせは、絵面としては面白いが合う合わないは別問題。しかし本作に関しては、二人のコンビネーションは絶妙で、どちらかが欠けても本作は成功しなかっただろう。

銀幕の妖精(本来は別人の代名詞だが)のB・Bことブリジット・バルドーのセクシーさは必見。同時期にセックスシンボルとして並び立った、マリリン・モンローとよく比較されるが、本人は「みんな、モンローかバルドーか?って、よってたかって勝手に並べるけど、私はマリリンのファンなの。でも、影響を受けたとか真似したとかは一度もないわ。だって、私は彼女の足元にも及ばない」と語っている。リップサービスも含まれているのだろうが、彼女の人柄を示すエピソードと言えるだろう。

名監督に名優たちのゆるーいラブコメなんて今では貴重。たまにはそんな映画に、どっぷりと身を委ねるのもいいだろう。