インパクト・クラッシュ(2017年) 監督 サンカルプ・レッディ 主演 ラーナー・ダッグバーティ

インドとパキスタンの間で緊張状態が続く1971年、パキスタン海軍の潜水艦ガーズィーをベンガル湾へ出撃。その情報を入手したインド海軍は、偵察のため潜水艦S21の出動を命じる。シン艦長は優秀だが問題児。そこで監視役としてアルジュン少佐も同行することに。一方パキスタン軍のガーズィー艦長ラザクは攻撃目標の空母を発見できなかったことからヴィシャーカパトナム攻撃を決断し、インド海軍の注意をそらすため商船を撃沈する。商船の撃沈を察知したS21は沈没地点に向かい、アルジュンは生存者の東パキスタン難民アナンヤと少女を救助する。その狙いを見抜いたシン艦長はガーズィーを攻撃しようとし少佐と対立する。

サンカルプ・レッディの監督デビュー作。一応事実をもとにしていて、1971年に発生した第三次印パ戦争におけるパキスタン海軍潜水艦「ディアブロ」の沈没事件を題材にしている。ディアブロは、アメリカ海軍のテンチ級潜水艦の一隻で、1963年、相互防衛援助計画の下4年契約でパキスタンに貸与された。映画でも独特のセイルの形状が再現されている。一方インド潜水艦S21は旧ソ連で設計されたカルヴァリ級潜水艦。
沈没原因は、インド側は駆逐艦ラージプートによって撃沈したと発表したが、パキスタンは港に敷設された機雷に接触して沈没したと発表。真相は藪の中だ。この件からインドとパキスタンが不倶戴天の敵同士だと分かるし、現在ロシアがらみでなかなかインドが、アメリカの求めに応じない理由も推測できる。
監督のサンカルプ・レッディによると、製作のきっかけは2012年にヴィシャーカパトナムの潜水艦博物館を訪れたことだという。当初の企画では低予算でYouTubeにて公開する予定だった。その後、出演を快諾したケイ・ケイ・メノンとラジーヴ・カンデルワルとともに、劇場公開を目指すようになる。更に人気スターのラーナー・ダッグバーティの出演が決まると「大きな予算が手に入り、スター俳優が登場し、潜水艦のセットも大きくなった」という。
シン艦長の息子が第二次印パ戦争の際、司令部の命令でパキスタン軍の奇襲を察知しながら攻撃できず戦死していた。彼の行動はその経験に裏打ちされたものだった。一方のお目付け役のアルジュン少佐は融通が全く効かないタイプかと思いきや、パキスタン軍に沈められた商船の生き残りを勝手に救出しに行く等、熱血な一面もある。それゆえ息子の事を知った少佐は、最後に協力するようになる。この辺りもキャラクターがうまく掘り下げられている。
予算が増えたおかげでCGのクオリティーは高く、戦闘シーンも迫力がある。互いのソナーでの探り合いや艦長同士の読み合い。この辺りは潜水艦映画の定番だが、パキスタンによる機雷を使った罠にハマって旋回ができず一度は海底まで沈む。更に艦長が途中で死亡しアルジュン少佐が指揮を受け継ぐ等、やや大味ではあるが、次々と襲い掛かるアクシデントに少佐と乗組員たちが、果敢に立ち向かっていく姿に熱くなること請け合い。
インドはカールギル紛争を含めると4度にわたりパキスタンと戦っている事から、両国の憎しみは相当激しいことがうかがえる。最近は、中国とも緊張状態となり国境では何度も小競り合いが起きているが、これもパキスタンの背後に中国が付いた事が原因なようだ。本作でも、インドのパキスタンへの憎悪が余すことなく描かれているが、この映画がインドで大ヒットしたということは、両国の和解は容易でないことがうかがえる。それに元ネタの事件でパキスタンの潜水艦が、元はアメリカ製で、インド潜水艦が旧ソ連製であることからも、インドのアメリカやロシアに対する複雑な立場も理解できる。このように、映画を通して国際情勢を学ぶのも悪くないだろう。
余談だが、戦争映画ということもありインド映画の特徴であるミュージカルシーンはない。しかし終盤にインド国歌を歌うシーンがあり、それが逆転劇を呼ぶことになる。この辺り、インド映画の音楽へのあくなき情熱を感じてしまう。