もうピクリとも動かなかった。
剥き出しになった吉村の中身の部品が見える。
呆然とする徳井。
「徳井さんほんとこいつのこと好きなんですね」
「ああ、そうだ。でもお前のせいでこいつが壊れた」
「直して欲しいです?」
「そうに決まってるだろ」
「わかりました。じゃあ条件付きで」
「吉村の記憶をリセットするというのはどうでしょうか」
村本は口角を上げて徳井の目を見た。
「なんでだよ!今壊れてるところを直すだけなら記憶は関係ないだろ」
徳井ははっとする
「お前の作戦、わかったぞ」
「何ですか?」
「そんなに吉村の記憶を消したいのか。何か吉村とあったのか」
「…!
そんなことないですって~」
「お前、吉村の記憶消して、俺から吉村取りたいと思ってんだろ」
続ける徳井。
「まず俺をロボットにしちゃえば俺の感情も記憶もなくなる。
だから吉村を自分のモノにできると思ったんだろ。
でもあまりに吉村が俺をかばうから、俺をロボットにするのは諦めた。
ならいっそ吉村を壊して記憶から俺を消せば自分のものになると思ったんだろ?」
「そんなことないですよ!僕がそんなことするわけないじゃないですか。」
「いや、お前嘘ついてる。図星だったんだな。
目泳いでるやん。」
「…あー、はいはい、わかりました。素直に言いますよ。」
語り出す村本。
「吉村がまだ生身の人間だった頃。あいつは俺にとって最大のライバルだったんです。すごく目障りだった。」
「だから、俺が生身の人間をロボットにする機械を作り出した。
実験ついでにそれを使って吉村をロボットにした。
だがいざロボットにしてみたら寂しくて。」
村本のいつもの強気な感じを感じさせない、弱気な語り口だ。
「そこでやっとあいつのこと好きだったのかなってわかったんですよ。
ここで記憶をリセットして、俺を好きだという記憶を埋め込む。
そうすれば吉村は俺に振り向いてくれるだろうと思って。 」
黙って聞く徳井。
「ふーん。でもさ、お前にだけ振り向くようになるの …なんかさみしいな。」
「あー、俺も吉村のこと好きなんだよなきっと。」
そうぼやく徳井。
びっくりする村本。
相変わらず何かを思いついたようだ。
「じゃあこういうのはどうです?徳井さん。
今から僕が吉村の記憶をリセットします。
ただ、僕を好きだというのは埋め込みません。
それで生まれ変わった吉村自身にどっちがいいか選んでもらいましょうよ。それならフェアですよ?」
「なるほど、それが一番いいのかもな。
ズルするなよ?」
「もちろんです。僕だってこういう時くらいは。」
「じゃあリセットしますね」
村本は吉村の首の後ろにペンを突き刺した。
リセットボタンがあるようだ。
一瞬、吉村の指先がぴくりと動いたような気がした。
「はいこれでリセットは終わりました。
あとは故障したのを直しますね」
工具を取り出して直していく。
なんだかとても優しい表情の村本に、徳井は村本の吉村に対する気持ちが本物なのだと感じた。
「はい、直りました!」
そこには今までの変わらない吉村が横たわっていた。
「徳井さん、電源つけてやってください。」
徳井はあの時のようにスイッチをつけた。