新春の初稽古


素心塾長SNS講話「子供の育て方」

<葉隠聞書>

武士の子供は育て樣あるべき事なり。

先づ幼穉の時より勇氣をすゝめ、

假初にもおどし、だます事などあるまじく候。

幼少の時にても臆病氣これあるは一生の庇なり。

親々不覺にして、雷鳴の時も怖ぢ氣をつけ、暗がりなどには參らぬ樣に仕なし、泣き止ますべきとて、おそろしがる事などを申し聞かせ候は不覺の事なり。

 又幼少にして強く叱り候へば、入氣になるなり。

又わるぐせ染み入らぬ樣にすべし。

染み入りてよりは意見しても直らぬなり。

物言ひ、禮儀など、そろそろと氣を付けさせ、欲義など知らざる樣に、その外育て樣にて、大體の生れつきならば、よくなるべし。

 又女夫(めをと)仲惡しき者の子は不孝なる由、尤もの事なり。鳥獸さへ生れ落ちてより、見馴れ聞き馴るる事に移るものなり。

又母親愚にして、父子仲惡しくなる事あり。

母親は何のわけもなく子を愛し、父親意見すれば子の贔屓をし、子と一味するゆゑ、その子は父に不和になるなり。女の淺ましき心にて、行末を顧みて、子と一味すると見えたり。


< 訳 >

 武士の子供を育てるためには、

一定の方式がある。

まず、幼少の頃から勇気を鼓舞し、

仮にもおどしたりだましたりしてはならない。

小さい頃であっても、臆病心のあるのは一生の疵となるものだ。

親たちの不注意から、雷の音に怖じ気づかせたり、

暗がりなどへは行かせないようにし、泣き止まそうと思って、怖がることを話し聞かせたりするのはいけないことだ。

 また、小さい頃強く叱ったりすると、内気な人間になってしまう。

また、悪癖が身に染まらないようにしなければならない。

一旦染まってしまうと、意見しても直りはしない。

物の言い方や礼儀など、次第に気づくようにさせ、欲を知らぬようにさせたい。

その外は育て方で、大体普通の生まれつきの者ならなんとかなるだろう。

 また、夫婦仲の悪い者の子は不孝だと言うが、もっともなことだ。

鳥獣でさえ、生まれ落ちてより、見聞きするものに染まるのだから、

環境には注意しなければならない。

また、母親が愚かなため、父と子の仲が悪くなることがある。

母親は子供を溺愛し、父親が意見すると子供の贔屓をして、

子供と示し合わせたりするものだから、

その子はさらに父親と不仲になってしまう。

将来を打算して子供と示し合わせる結果になってしまうのだろう。