■はじまり
社会人7年目に、未来のあなたは働きながらビジネスについて学べる大学院に通うことにしました。結構な決断ですよね。でもあなたはそこに望みをかけたのです。大学院に行って、社会というものをもっと知って、色々な業種で働いている人に会えば、自分のやりたいことも見つかるかもしれないと。
元々あなたは(つまり私は)内向きな性格で、特にやりたいこともないままたまたま縁のあった会社に就職しました。3年目には本当に仕事が辛くて、逃げるように辞表を出したこともありましたね(結局説得されて残りましたが)。その後も仕事に対する自分の向き合い方が定まらないまま、目の前のトラブルと格闘し続ける日々を送っていたのは、あなたもご承知の通りです。
そんな時、突如入ってきた中途採用の人から、ビジネススクールなるものの存在を教えてもらったのです。ずっと同じ会社に勤めてきたあなたには、その人が時折織り交ぜてくる「外の世界で使われていて、使えば正解に近づける様々な思考フレーム」がすごく新鮮で、魅力的なものに見えました。これらを使えるようになれば、日々のトラブルを少しでも減らせるかもしれない、そして何より、ここではないどこかにある、自分が本当にやりたいことに出会えるかもしれない…!そんな切実な思いを込めて、あなたは仕事後に通える学校を調べ始め、半年後には入学することになるのです。
■ビジネススクールでの日々(+何かを選ぶ際の性質の話)
ビジネススクールでの日々は、想像した通りに大変で、しかし想像した以上にその後の人生に影響を及ぼすものでした。通ったことに一ミリも後悔はありません。新たな出会いもあり、その後長く付き合う友人たちもできました。ただ、その話は今回の話の本筋とは関係ないのでここでは多くは語りません。大事なことは、卒業までの2年間のうち、1年が経過しても一向にやりたいことが分からなかったことです。
未来のあなたもただ受け身で日々を過ごしていたわけではありません。これまで全く接点のなかった業種の人の仕事内容について質問しに行ったり(人見知りとしては奇跡!)、幅広い授業を受けて自分の得意不得意に関する理解を深めたりしました。ビジネススクールに通うことで、自分が目の前で直面している「シゴト」が、社会全体を捉えたときのほんの一部分であり、しかしその取り組みを通じて自分は社会と繋がっているのだと認識できるようになりました。それはまるでエレベーターで高く上り、一気に視界が開けるような感覚で、目の前の壁しか見えていなかった状態から、自分のいる大きな仕組みを上から眺められるように変わったのです。それは偉大な変化でした。それだけでも高いお金を払ったかいがありました。
しかし世の中に沢山選択肢があることがより色濃くわかったとはいえ、そこから何を選ぶことが自分にとっての最適解なのか?ビジネススクールに通う多くの人や、ケースとして学ぶ社会の偉人たちが納得感を持って仕事をしているように、私もその状態に近づくにはどうすればいいのか?結局さっぱり見えてくる気配がありません。未来のあなたは再び困り果てていました。
(ここからは蛇足)
今思えば、この困惑には私の気質が深く関係しているように思います。ずいぶん前に会社の研修で、人が何かを選ぶ時のパターンは大別すると4種あることを学んだのです。
一つは「フィーリングで選ぶ」パターン。イェイ!これ最高だよ!いい感じだよ!と言われるとグッとくる人達です。
二つ目は「他の人と違うものを選ぶ」パターン。まだ誰も手にしていませんよ、あなただけの特別ですよ、という言葉に弱い人達です。
三つ目は「他の人と同じものを選ぶ」パターン。みなさんこれを選んでますよ、みんなと同じになれますよ、という言葉に安心感を持つ人達です。
四つ目が「比較して選ぶ」パターン。具体的にこの機能が他社と比べて〇%優れていて、この機能は××で…など、効果の説明で納得する人達です(どれが良い悪いではなく多様なパターンがあるよというお話です)。
くっきり4種に分かれるのではなく、MIX型もあったような気がしますが(違っていたらすみません)…、とにかくここで言いたいのは、私は完全に四つ目の人種であるということです。とにかく比較しないと気が済まないのです。いいな!と直感的に思うことがあっても、必ず代案を探し、選ぶべき理由を様々な角度から自分に提示しないと購入できないタチなのです。ちょっとした買い物ですらそうなのですから、人生の選択ともなると途方に暮れてしまったのもある意味当然かもしれません。さっと選べる人がうらやましくなることもありますが、気質は変わらないのでうまく付き合っていくしかありませんね。
話を戻しますが、もしかしたらこの気質のせい?で、他の人達にはそんなに高くないように見える壁も、当時の私には見果てるほどに大きなものに見えてしまったのです。
■卒業論文のテーマの選択
困っていても、日々は矢のように過ぎていきます。私の通っていたビジネススクールでは、2年目になると自分の学びたい分野を決め、分野に合ったゼミに所属し、卒業論文を書く決まりがあります。いろいろと検討した結果、マネジメントを教えている教授のゼミに参加することにしました。私は数字よりも人間の心理に面白みを感じるたちでしたし、仕事上の葛藤と向き合うにもマネジメントの知識は大いに役立つと考えたからです。
同期の仲間は卒業論文のテーマ出しに苦労していましたが、私は早々に決めていました。そう、ここまで頭を悩ませるならば、いっそ「夢がない/天職が見つからない」という焦りについて、正面切って研究してみようと思い立ったのです。どのような結果が出るかまったくわかりませんでしたが、ここに向き合わない限りは学校に通う決断をした意味がないと思いました。幸い教授は面白がってくれ、思考の足掛かりとなるような書籍をいくつか教えてくれました。
鬼が出るか蛇が出るか、覚悟を決めた当時の私は謎の高揚感に包まれていましたが、実際はここから自分の心の闇に沈んでいくような、地獄の研究期間がスタートしたのです。
この続きはまた次回お話します。