今年の9月でした。

東映さんから突然お電話を頂き、

「ふしぎ駄菓子屋銭天堂」の“よどみ”役に、とのお話がありました。

姿かたちは7歳くらいの女の子だけれど、心は何百歳。

つまり、「魔物」のような人物。

外見は子供でも、声は子供にしなくて良いとのことでした。

外見と声とのギャップが“摩訶不思議”な雰囲気を作り出し、

とても怖いキャラクターになると私は思いました。

それは、制作の方々の意図と同じでした。

 

もちろん、私ですから、「悪役」です。

 

この時点で、私は廣嶋玲子先生のこの作品を全く存じ上げずにいました。

廣嶋先生、ごめんなさい。(今、全巻手元にあります。じっくりと読んでいます)

 

制作の方が台本を送ってきてくださり、

一度テープで聞かせて欲しいとのご依頼でしたので、

“よどみ”役として2タイプを収録し、お送りしました。

ご要望は

「シワ感のある人物」

とのことでした。

担当の方が、私に対してとても気を使っていらっしゃったのが分かりました。

どうやら私はベテランの中に入るらしく、

テープを依頼することを申し訳ないと思っていらっしゃったようです。

でも、気になさらないでね

直接のご依頼もありがたいのですが、

時に、オーディション・テープを送ることになっても、私は何とも思いません。

 

ベテランの方にオーディション・テープを依頼するのは失礼にあたるかも・・・、

とお思いになる方もいるかと思いますし、

実際、「失礼な!」とお思いになる方もいらっしゃるかもしれませんね。

でもまだ、そういう方が居るとは一度も耳にしたことが無いので、

これは私の想像ですが・・・。

 

私は失礼とは思いません。

むしろ、オーディションをしていただいた方が、自分にとってはとても為になると考えています。

キヤリアがあると、様々な方が尊重してくださいます。

それはとてもありがたく、

自分の力量が少しでも認められているのかもしれないと、

胸を張ってスタジオに出向くことができます。

そして、オーディションのお話を頂くのも、

実は、

身が引き締まる思いで臨むことができるので、

これもまた、とてもうれしいことです。

うれしいというよりは“武者震い”がすると言った方が良いかもしれませんね。

また、まだ新人だった頃のハングリー精神がムクムクと鎌首をもたげるように感じられ、

「年は取っても、まだまだ、安住していないぞ!」と、

自分を再確認できるきっかけにもなります。

 

私たちの仕事では、キャリアや年齢に関係なく、

その役柄に適した方が選ばれます。

若い方とベテランの方の間にはある意味、

技術的な部分での差はあるかもしれませんが、

そのキャラクターは技術的な部分だけで決まるものではなく、

たとえ、表現力はベテランの方が数段優れていたとしても、

役柄には、表現力だけでは決められない「特徴」「魅力」というものが必要になってきます。

演技力、表現力がベテランの方の域まで行っていなくても、

若い方の持つ“そこはかとない何か”が、

逆に役柄の存在感を際立たせることがあります。

 

オーディションは、

ベテラン、中堅、若手、新人が平等に同じたたき台の上に立ち

正々堂々と“勝負”をすることになるのではと、

私は思います。

オーディションに落ちれば、

依頼された役柄を魅力的に表現できなかったのかもしれないと、

先に進むための“戒め”や“励み”になります。

表現の世界では、キャリアを積んできても、

そのキャリアに安穏とせず、

新人と同じ気持ちで臨むことができる心構えが大切なのではないかと

私は考えています。

 

もちろんこの心境に至るまでのプロセスでは、

様々な葛藤を繰り返し、懊悩のために七転八倒や暗中模索、

自己否定や自己嫌悪、自信喪失等、

ほんとうに情けなく、恥ずかしいくらい心の中は混とんとし、

ぎくしゃくとしていましたが、

50歳になる少し前に、ふと、

「ああ、ぎくしゃくとしたプロセスをしっかりと辿って、やっとここまで来れたかな」

と思えるようになりました。

 

新人の時の、あの気持ちに帰る。

新人の時と同じ、あのハングリー精神が再燃する。

新人の時と同じく、自分は崖っぷちに立たされているのだと、肝を据えることができる・・・。

そう思えるようになって初めて、

役作りで悩むことも、表現の仕方を工夫することも何もかも

(苦しいことには変わりありませんが)、

その苦しみをも、楽しむことができるようになってきました。

 

さて、オーディション・テープを聞いていただき、

「ふしぎ駄菓子屋銭天堂」の“よどみ”役を頂きました。

そして多分、私にとって“よどみ”は、

初めてのタイプの「悪役」だと思います。

今まで私が演じた悪役は、

どちらかというと超然とした西洋的なタイプがほとんどだったのではないかしら?

 

“よどみ”は、日本の古い時代の雰囲気を持っています。

超然とはしていません。

下町っぽいというか、庶民的というか、

江戸時代でいえば“長屋”に住んでいる子、というムードです。

天邪鬼で、意地悪で、人を誘惑するときは手揉みをして下手に出、

立場が逆転すると突然、上から目線の横暴な人物に変身する。

決して品の良い役柄ではありません。

どこか下世話なところがあり、

“紅子さん”を馬鹿にしたり敵視したり、突っかかったりするのに、

いざという時は憎まれ口を叩いて退かざるを得ない卑屈な部分を持っています。

負けているのに負けを認められない「悪役」です。

 

世の中で一番恐ろしい存在は? と尋ねられて、

「それは、人間です」

と答える方は多いと思います。

人間の持つ恐ろしさを露にしたのが“よどみ”。

 

私はこういった役を演ずる時、必ず“反面教師”に徹します。

私が声を当てた悪役を見て、子供たちが「この人、大っキライ!」と思ったり、

一緒にご覧になった親御さんが、

「こんな人には絶対になりたくない!」と思ってくれたりすると、

密かに「ヤッター!」とうれしくなります。

私の演じた悪役が嫌われる、ということは、

とても嫌な人物を演じることができているということに繋がるような気がして、

それこそ、声優冥利に尽きます。

特に今回の“よどみ”は、今まで私が演じていた役柄よりも、

直球で、嫌らしい心根を表に出します。

そして、何といっても、

いつかやってみたいと長い間思っていた、

江戸の下町風の語り口を持つ人物です!

 

ご存知の方もいらっしゃると思います。

歴史に残る天才浪曲師、「二代目・広沢虎造」。

 

この天才の“清水の次郎長伝”のCDを、私は全巻持っています。

若いときに録音した全巻と、

油の乗り切った時の全巻と、2種類を持っているのです。

好き過ぎて、CDの声を拾いながらすべて文字に起こしてしまったほどです。

 

二代目・広沢虎造の表現は半端ではありません。

何度聞いても唸ってしまいます。

表現力はバイオリンでいえばパガニーニの超絶技巧そのもの!

真似できるものではない、ハイ・レベル。

 

“石松三十石船道中”では、

森の石松と、

一緒に乗船している何人かの客との一人芝居(掛け合い)で、

瞬時に人格が変わります。

その変わる“間”も、信じられないくらい“間が、無い!”

間がまったく感じられない変身速度なのです。

もう、何度聞いたことか!

真似をして練習もしてみました。

けれど、この“間”を克服できない・・・!

ここまで表現されてしまうと、

本当に、

ハハァ~と平伏すしかありません。

 

その語り口が、“よどみ”のセリフを読んだとき、思い出されました。

もちろん“よどみ”は、

二代目・広沢虎造演じる“清水の次郎長”や“森の石松”の語り口とは、

チト、

異なります。

巻き舌もずいぶんと少ないのですが、

ところどころ、似たような言い回しがあります。

ムムムム!

「接点は、意外とたくさんあるかも( ^ω^)・・・」

これぞ、武者震い!!

 

「ふしぎ駄菓子屋銭天堂」のスタジオでは、

スタッフの方々が感染防止対策を徹底して行っています。

まず、検温、うがい、手洗い、

そして、毎回新しいフェイスシールドを渡してくださいます。

キャストだけでなく、

スタッフの方々も同じリスクを背負っているのに・・・。

マイクの前に立つ時だけ、マスクとフェイスシールドを取りますが、

収録スタジオのスペースはとても広く、

登場人物が少ないので、それだけでも安心できます。

 

いつも思うのですが、

スタッフの方々の出演者に対する心遣いには、

頭が下がります。

感謝しても、し足りないくらいです。

そこで、少しでもお役に立てるように、

そして、少しでも健全な空間を保つために、

私はいつも、

アルコージェルと、アルコールのウェットティッシュ、

ゴム手袋、ゴミ袋を持っていきます。

収録が終わり、スタジオを出るとき、なるべく皆さんに気づかれないよう、

自分の座ったところ、触れたところをウェットティッシュで拭いてから出ます。

(ゴム手袋もウェットティッシュもゴミ袋に入れて、家に持ち帰ります)

 

もちろん、出演者が居なくなった後、

スタッフの方が収録スタジオ内を徹底的に消毒なさるのですが、

おんぶにだっこでは申し訳なくて、少しでも、お手伝いしたいと、

こっそりと消毒しています。

そしてこれからもそれを続けていくつもりです。

 

スタッフの皆様、いつも、私たち出演者に安心感を与えて下さり、

ほんとうにありがとうございます。🙇 

十分お役に立てず、ごめんなさいネ。

 

さて、

一昨日の日曜日に、

廣嶋玲子先生の「ふしぎ駄菓子屋銭天堂」の残り、

13巻と14巻が手元に届き、全巻揃いました!

全巻制覇!

 

てな、わけでして  (急に虎造!(* ̄▽ ̄)フフフッ♪)

“よどみ”は、怖いです。

嫌らしい、です。

人間の持つ“邪な心”を剥き出しにする“魔物”です。

目いっぱい嫌らしく演じられたら・・・、と言ってしまったら、

石ツブテが飛んでくるかしら?!

ごめんなさいね・・・。

 

でも、私が反面教師に徹し、嫌らしく演じることで、

人が生きて行く上で何が大切かを考えていただけるきっかけになるのであれば、

“よどみ”を演じる私の存在意義も、

少しはあるのかもしれないと思えます。

 

さて、

楽しく、心躍るクリスマス、そして、お正月になるはず、でしたね。

私も、この二つのイベント用に、いろいろと献立を考えていました。

特にお節の材料は、毎年、

年末の混雑したスーパーやデパートの特設催事場に買いに行っていたのですが、

今年は自粛しようと思います。

因みに私は「エビの鬼殻焼き」が好きなので購入していたのですが、

今年は、自分で作ります。

今から冷凍海老を購入しておけば良いのですから…。

 

新型コロナウイルス。

少し規制を緩めたヨーロッパの各国では、再び感染者が増加し始め、

また、外出制限等が出されています。

日本でも、勝負の三週間は、その言葉通りにはならなかったようですね。

どうにか乗り越えなければ・・・。

 

皆、同じ“心が晴れない”状態だと思いますが、

今年は、クリスマスとお正月を、心静かに祝うことができれば、

と願っています。

そのような楽しみ方もあるのだと、

皆が皆思えるようになれれば、少しは気持ちが楽になるのではないかと…。

 

皆さん、どうか、くれぐれも、ご自身を大切にしてくださいね。

 

さあ、私は暮れに向かい、大掃除に勤しみます!

一応、半分は完了しましたが・・・。

 

アッ、そうそう。

「ふしぎ駄菓子屋銭天堂」は、毎週火曜日、18:45~ 

NHK・Eテレで放送されます。

再放送もあります。

池谷のぶえさん。

凛として、

私の大好きな女優さんです。