2020年5月6日

NHK-FMの「今日も一日ガンダム三昧 Z」に、電話出演をさせて頂きました。

聴いてくださった方々、ほんとうにありがとう。

 

さて、3月11日の東日本大震災記念日について呟いてから、

筆を折るようにして、私は何も発信して来ませんでした。

迷っていました。

自分の考えが、覚悟が、決まっていませんでした。

 

今年の初め、

中国の武漢で肺炎による死者が増えているというニュースが入ってきたとき、

巷では、様々な「噂」が囁かれるようになっていました。

私たちの世界でも、荒唐無稽な噂までもが、

聞く者を現実的に怯えさせるようなものとして広まっていたようです。

 

私は「SARS」を思い出しました。

命の危険を顧みずに、その恐ろしさを発信し続けたお医者様が亡くなっています。

エボラ出血熱も、先頭に立って尽力を惜しまなかったお医者様が、やはり亡くなっています。

武漢の市場から広がった原因不明の疾患で

多くの人が亡くなっているとの初期の報道では、

このウイルスがまだ日本に上陸しているとは思わず、

もし日本に上陸したらどういった予防が必要なのだろうかと、

漠然とですが、不安を抱きながらも心構えだけはしようと考えていました

 

クルーズ船の問題では、船内で抑え込めれば大丈夫なのかもしれない、

とも思ったりしていましたが、

飛行機に乗れば、それほどの時間をかけずに地球を一周できてしまう現代の利便性が、

不幸にも、この新型コロナウイルスを全世界にばらまいてしまったとの考え方が、

報道番組などで流されました。

重篤になり、死に至る方もいる中で、

のちにはっきりとしてきた、無症状の保菌者がいる、ということが、

世界への感染拡大を止められなかった大きな要因の一つであると、

そのような見解を示している専門家もいらっしゃいます。

僅か4カ月で、新型コロナウイルスは、全世界に感染拡大しました。

 

2月の初め。

まだ、クルーズ船が、乗員乗客すべてを隔離したような状況で、停泊していた時です。

洋画の日本語版制作会社から、

「収録に当たって細心の注意を払い、出演者やスタッフの身を守る方策をとったのでご協力ください」、

とのメールが届きました。

素早い対応だと思いました。

まだ新型コロナウイルス感染の全貌が見えていないときに、

先を考えて対応したことに、私は敬意を表したいと思っています。

 

では、アニメーションの世界はというと、

その頃は、対応をとるところと、取れないところとに分かれていたようです。

 

この時期私は、アニメのレギュラーは1本しか持っていませんでしたので、

他のアニメ収録現場の事は、自分の目で見ていないので、確かなことはわかりません。

ある番組では、小さな収録スタジオに40人もの声優さんが居たということを、

人伝に聞いていました。

この話を聞いたのは、まだ、「3密」を回避するようにとの提言が出たばかりだったと記憶しています。

 

マスク着用と手洗いは頻繁にとのアドバイスは、すでに出ていました。

ドラッグストアーなどからマスクがなくなり、

トイレットペーパーやティッシュボックスが商品棚から消えてしまった時期です。

 

3月19日に、国の専門家会議(今は諮問委員会かな)の専門家の先生が、

夜11時過ぎにテレビを通して強い「提言」をしました。

その放送を私は生で見ていました。

オーバーシュートを回避するためのいくつもの具体的な提言がなされ、

引き続き「3密」を回避することを伝えていました。

 

そしてその3日後の3月22日(日)。NHKスペシャルを見ました。

「マイクロ飛沫」について触れていました。

 

3月末に、レギュラー物のアニメ収録が入っていました。

前回の収録時には、新型コロナウイルス対策として、

スタジオの入り口にアルコールが供えられていました。

 

誰もがおっしゃるように、声優にとっても、収録をするスタッフにとっても、

スタジオは常に「3密」状態になります。

声優のいる空間は、人が多い時、隣の人との間が20~30センチしか離れていません。

登場人物が少なければ

ソーシャル・ディスタンス(フィジカル・ディスタンスに変わりましたね)を守ることが出来ますが、

現実は、それだけの距離を置くことのできない人数が、スタジオにいることがほとんどです。

一番怖いのは、

新型コロナウイルスが付着しているであろう「マイクロ飛沫」です。

空中に3時間以上、漂っています。

プラスチック面に着いたウイルスは、

72時間、数は減っていても生きているということです。

 

その3月末の収録を前に、

私はスタッフの方に、どのような感染予防対策をとるのかを尋ねました。

「入り口にアルコールを置いてあります」との答えでした。

マイクロ飛沫についての報道をお知らせしました。

そして私には基礎疾患があると伝えました。

「現時点では、前回と同じ形です。もし、不安であるならば、別収録でも構いません」

 

別収録のご提案は、私にとってはとてもありがたいことでした。

けれど、私が言いたかったことはそう言った事ではなかったのです。

私の説明がはっきりとしていなかったのでしょう。

 

ごく普通の、平和な時。

「3密」などに注意しなくても、皆で一緒に収録をすることには何の問題もありません。

別収録よりも一緒に収録した方が、

相手の呼吸や表現を受け取りながら演技をするという醍醐味があり、とても楽しいものです。

別収録は、下手をすると、独りよがりの演技になってしまうことがあります。

基礎疾患を持っている私が別収録ということは、

感染リスクを限りなく少なくすることになるので、私としてはありがたいことなのですが、

私が言いたかったのは、

「ベテランも、中堅も、新人も、そしてスタッフの皆さんも、その“命は等しい”のだから」ということでした。

 

いろいろと具体的なことを提案しました。

例えば、建物の入り口のドアは開けたままにして、外からの空気を入れ、

その前方に、外に繋がる別の扉があるので、そこも開け放しておく。

そうすれば、待合室の換気は少しでも出来る…等々。

 

そういったことを実践して、

皆でリスクを軽減させながら収録をしたらどうだろうという提案をしたつもりでした。

私の思いが上手く伝わらなかったのは、私の説明不足だったのだと考え直し、

3月末の収録は、皆と一緒に録りますと伝え、その日「3密」のスタジオに入りました。

 

ミキサー室にいらっしゃる方々は少人数に変わっていました。

ほとんどの方がマスクをしていました。

キャストの入る収録スタジオは、というと・・・。

 

新人から、5~6年程度のキャリアのある若い方、

そして、私が存じ上げている中堅からベテランの方が数人。

スタジオには20人以上の声優がいました。

中堅からベテランは皆、スタジオ内でマスクをしていました。

他の若い方たちは、マスクを外し、何人かの方は、隣り同士でおしゃべりをしていました。

 

この状況は、何を意味するのか・・・。

若い方たちは「マイクロ飛沫」について、ほとんど何も知らないのではないか?・・・、

ということでした。

休憩時間にその中の何人かが華を咲かせていた話題は、

新型コロナウイルスの「デマ」や「根拠のない話」。

「3密」状態で仕事をしている声優さんの若い方たちがマスクを外してしまうことに、

私は驚愕しました。

もちろん彼らは、感染よりも「礼儀」を重んじていただけなのかもしれません。

彼らのプロとしての定義づけがそうさせていたのかもしれません。

一人一人に問うてみなければ、彼らの意図はわからないでしょう。

一概に「こうだ」と決めつけられないのが、人間です。

 

私たちの世界だけでなく、また、老若男女問わず、

「自分だけは大丈夫」と思ってしまう人は、どこにでもいるようです。

私の住んでいる集合住宅にも、

緊急事態宣言が出るまでマスクなしでエレベーターに乘っていた60歳代後半の方がいました。

私はこのころすでに、エレベーターは使わずにいました。

無症状で自覚出来なくても保菌している人もいる、

という情報がメディアに取り上げられていたので、

常に「3密」状態の中で仕事をしている私は、

「もし」を考えて行動しなければいけないと思っていました。

 

この収録の次の週にも、私の出番がありました。

そして再び「感染予防対策」について質問しました。

前回と同じやり方で収録するということでした。

 

私はいくつかのやり方を提案しました。

例えば、

テストの時は皆、マスクをしながら演技をする。

ミキサーさん含めスタッフの方々は、

レギュラーの方々の声質や演技の質をよく知っていらっしゃるので、

マスクをしていても「想像」出来ると思いました。

そして、どうしてもレベルなどをチェックしたいところだけ、

一瞬マスクを外して声を出してもらう。

そうして本番に入る。

本番は、マイクの前に立つときだけマスクを外し、

自分のパートを終えたらすぐにマスクを着用する…。

そうすれば、「マイクロ飛沫」の飛ぶ量が少なくなるはずですから、

微々たるものでもリスクを減らすことができる・・・。

 

「収録に余裕があるので、不安な場合は、当日の決定でも構いません、別収録にさせて頂きます」

 

複雑な気持ちでした。

一つ一つ、感染拡大回避のために、具体的な方法を取り入れていくこと。

そして、スタッフ、キャストの垣根を取り外して、皆で協力して、

例えばスタジオを出るときに自分が座った椅子を丁寧に消毒液で拭いて帰るなど、

しようと思えばいくらでもできると思うのです。

その時には、ベテランも中堅も新人も関係ない。

「皆」でスタジオ内を消毒して行けばいいのだと思うのです。

緊急事態なのですから、

そんな時にベテラン、中堅、新人、スタッフ、キャストなどの肩書など関係ないのではないかしら?

 

たぶん、私には想像のつかない何かの「事情」があったのでしょう。

キャスト側の事情と制作側の事情とは、

なかなか交わることがなく、平行線をたどることが多々あります。

 

このブログを読んでくださっている方に、

きちんとお伝えしなければならないのは、

私は、誰が良い、誰が悪い、ということを言っているのでは、決してありません

何かの事情によって、したくても出来ないことがあります。

事情を知れば納得できることもたくさんあります。

ですから、その事情を知らないまま、

今ここで、良し悪しを決めることは出来ないのです。

後々社会が、世の中が落ち着いたときに、

お互いの立場を理解するためにも、

その事情を話していただけたらと、願っています。

 

次の週の収録に、私は出かけませんでした。

別収録をお願いしました。

そしてその3日後、安倍首相が「緊急事態宣言」を発出しました。

収録は当分の間なくなり、

5月4日の「緊急事態宣言の延長」決定を受けて、

残りの話数の収録は、一人一人のスケジュールを伺った上で、

改めて収録日のスケジューリングをするということになりました。

 

この2カ月、新型コロナウイルスの関係で、ずっと考え続けていました。

私に出来ることは何か・・・。誰かの役にたてることはあるだろうか…。

このアニメの収録では、私は、何のお役にもたてなかったのかもしれません。

 

その後、単独でのナレーションの仕事が二つありました。

その二つとも、スタジオでは万全の対策をとってくださっていました。

ありがたいことです。

 

でも、緊急事態ですので、人任せにしているだけではいけない。

私は恐縮するプロデューサーさんに「させてください」とお願いして、

ナレーションが終った後、

ブースの中のテーブルや椅子、ライトを、

家から持って行った消毒液とペーパータオル、使い捨て手袋を使って消毒をしました。

マイクだけはミキサーさんにお任せしましたが、

次にそのブースに入る声優、ナレーターの方への「マナー」のつもりでした。

使ったものはもちろん、家に持って帰り、専用のごみ袋に捨てました。

 

身近に起きる尋常ではない出来事に、人は翻弄されます。

“未知”のコロナウイルスですから、知らないこと、分からないことがたくさんあります。

いろいろな情報も、時とともに覆されたり変化したりするかもしれません。

確かなことを捉え、

完ぺきではないまでも、少しでも役に立つことをしていきたい・・・。

 

これから先、一人の仕事がいくつか入っていますが、

私はまた、消毒液、ぺーバータオル、使い捨て手袋を持って、

スタジオに行くつもりでいます。(体温計も持っていきます)

アニメーションのスタジオでも、率先して、感染予防のために動くつもりです、

たとえ、その私の姿を見て、多くの人が、引いてしまっても…。

 

誰にも感染させたくないし、感染したくない、

この状況をなるべく早くに終わらせるために・・・。

 

そして経済的な問題が、

たぶん一番苦しいことなのだと思います。

この新型コロナウイルス感染症・パンデミックによって、

私たちは、今まで生きて来た社会や暮らしの中に、

まだまだ十分整ってはいない課題がたくさんあることを知りました。

そのことによって、今、苦しんでいる方がたくさんいる。

これから先の社会、イギリスがそうであったように、

思いも寄らぬ災厄に見舞われても、

一定の期間生活が保障されるような、そんなしっかりとした芯の通った、

潤いのある社会になれば、と願っています。

そのためには、私も、「何か」をしなければならない。

自分のためだけではなく、他者のために。

 

経済の事はほとんどわからない私ですが、

ジャック・アタリ氏がインタビューで語っていた、「利他主義」というのは、

私の捉えていることと同じなのかしら? 

もし同じであるならば、この「利他主義」をもっと深く深く学び、

具体的にどのようなことをしたらよいのか、

見つけなければなりません。

 

NHK-FM「今日は一日ガンダム三昧Z」で、

里アナウンサーさんの最後の質問に、私は答えました。

自分で自分に驚きました。

心の中に溢れ出すものがあるのに、気づきました。

 

自分の言った事に、責任を持たなければなりません。

そう、思っています。

 

皆さん、くれぐれも、ご自身を大切にしてくださいね。

自分を守ることが、人の命を守るのです。

これも、「利他主義」に適っていると思うのですが…。