昨日、「サイコパス3」の収録がありました。

登場人物が多いので、皆のスケジュールを合わせるのが大変!

収録する方も大変ですし、ダビングにも時間がかかるのでは…。

一作品を作り上げるのにどれくらいの時間がかかり、

どれくらいの人たちが力を注ぐのかと考えると、気が遠くなりそうです。

 

スタッフの皆さん、いつもいつもありがとうございます🙇

そして、ご苦労様です💛

 

「サイコパス」では

シビュラシステム側の“禾生壌宗”と、

その後を引き継いだ“細呂木晴美”を担当させていただいていますが、

細呂木役では、あまり低い声を出していません。

「禾生壌宗」では限界に近い低い声を使っていました。

ただ、使用マイクの特性からすると、

スタジオで出していた禾生壌宗の生の低い声が、

そのまま視聴者の耳に届いていたかというと、

たぶん、そのままは、届いていなかったと思います。

 

ずっと昔、まだ私が新人だった頃に教えていただいたのですが、

私の声に適したマイクは「リボン型」と言われるもので、

その頃すでに主流から外れていました。

「コンデンサーマイク」の方が中低音から高音まで幅広い音域を拾うということで、

様々なスタジオにそのマイクが導入されていましたが、

私の声の低音部分を綺麗に拾えるのはリボン型だと、

そのスタジオの方は私に説明してくださいました。

 

幅広い声に対応できる性能を持っているコンデンサーマイクは

様々な声を綺麗に拾います。

今は、コンデンサーマイクがほとんどのスタジオで使われています。

私の出す低音は、生の状態よりもすこし変化した音になってはいるものの、

拾ってくれてはいます。

 

さて、ラスボスやボス役を多く演じてきた私ですが、

その声を聞いていらっしゃる方は、どうやら

「凄みのある低い声」、

「ドスの利いた声」

という“印象”を持っていらっしゃるようですね。

う~ん…???、何と説明したらよいか・・・。

 

演じる側からの説明になってしまいますが、

私の声質は実は、“凄みはなく”、“ドスも利いていない”のです。

役柄として、

凄まなければならない状況にあるので「凄み」、

ドスを利かせなければならない“セリフ”だから「ドスを利かせる」…、

その結果、凄みある声、ドスの利いた声、に聞こえるだけなのではないかと思います。

赤ちゃんをあやす優しいお母さんの役柄でしたら、

凄んだりドスを利かせた声であやしたりはしません。

おのずと声質も変わります。

赤ちゃんに凄んだりしたら、

きっとその赤ちゃんは“あやされる”ことがトラウマになってしまうでしょう。

 

役柄の特徴、その時の役柄の感情、

原作者が意図している役柄のセリフ、

役柄がセリフを言う時に置かれている状況等々によって、

凄みがあったりなかったり、ドスが利いていたりいなかったり、

ということだけなのですが、

「凄みのある~」「ドスの利いた~」とお思いになるのは、

その部分が強調された形で皆さんの耳に残っているからなのかもしれません。

 

声帯を痛めて専門の病院で治療とリハビリに通っていた時の事です。

言語聴覚士の方の指導を受けながら、私の声質を調べて頂きました。

私の声は『倍音』が多く、その振動の幅の広さゆえに、

聞く方々の印象がそれぞれ異なるそうです。

倍音の広がりの先っぽの方を捉える聴力が優れていらっしゃる方は、

私の声を「低い」とは思わないそうです。

強いて言えば「メゾソプラノ」と認識するというのです。

また、倍音の大元のところを捉える聴力が優れていらっしゃる方は、

私の声を、低い声=「アルト」と認識するそうです。

 

そういえば、まだ若いころですが、

ギリギリ低い声を出しているのに、

「もっと低い声を出してください」と言われたことが何度かありました。

その時は?マークが頭の中に飛び交い、

“こんなに低い声を出しているのに、何故?”と思いながら、

もうこれ以上は無理というところまで低い声を出そうと四苦八苦しました。

「もっと低い声を~」とダメ出しをした方々はたぶん、

私の声の高い音を捉える聴力が優れていらっしゃったのかもしれません。

だから、もっと低い声を求めたのかもしれませんね。

そして、マイクの種類・性能もまた、関係していたかもしれません。

 

言語聴覚士の方によれば、

役柄を演じている時の声ではなく、

『私の普段の声』は、

同じように倍音が多いことから、“ヒーラー”に適しているそうです。

つまり「癒し」を施すことが出来る声・・・。

倍音で包み込む、というような感じの声だそうです。

リラックスさせるための誘導の文言を言うと、

誘導された人は抵抗なくリラックスしていける、とのことでした。

 

もちろん、ラスボス等々の役柄を演じている時の私の声は、

決して人の心を癒せません。

高圧的な性格の役柄が多いので、高圧的に演じるわけですから、

声にもそのニュアンスや質が乗って来るので、癒しを施すような声にはなっていません。

 

癒しの声は私の普段の声なので、想像がつかない方もいらっしゃると思います。

役柄としての私の声を知っている人は多いと思いますが、

普段の私の声を知っている方は、

もしかしたら、とても少ないかもしれませんね。

((* ̄▽ ̄)フフフッ♪『誰も知らない、わ・た・し…』~~。秘密を持っているようで、

一人ほくそえんでいたり…、私、性格悪いのかなぁ???)

 

ボイストレーニングに通い始めて3年弱になりますが、

一度アメリカ人のインストラクターの方に声を聞いていただいたことがありました。

その方が私の声を

「Amazing(アメージング)!」

と称されました。

何故Amazingなのだろうと、その意味が分からなかったので、

通訳としてそばにいた日本人インストラクターの方を通して尋ねてみました。

女性の平均的な音域と比べると、

私の音域は、男性の「テノール」の音域に近いところまで低い音が出るので、

そうおっしゃられたそうです。

二人のインストラクターの方によれば、

“ロッド・スチュアート”や、ジャズボーカリストの“メル・トーメ”を参考にすると、

私の「キー」が分かるのだそうです。

女性では、私のように平均よりも低い方の音域が出せる人が意外と少ないそうです。

 

けれど、“声質”をクローズアップしてみると、

「低音」とは言えないようです。

女性の声優さんの中には私よりも低く太い声の持ち主が何人かいらっしゃいますが、

その方の声と比べてみると、私の声が低音とは言えないのが分かるかもしれません。

例えば、数年前に亡くなられた大先輩の「来宮良子さん」の声と私の声を比べると、

その差が分かると思います。

(亡き父母は来宮良子さんの大ファンで、最高に素敵な声、と言っていました。

父などは、う~ンとうなりながら、いい声だなぁ・・・と呟やいていました)

 

声質としては低い声ではない私の声が、人の耳に低く聞こえるのは、

音域としては低いところまで出るということと、

たぶんこの声が持つ倍音が原因なのではないかと考えています。

 

その倍音ゆえに、低い声を求められることがずいぶんとあります。

ただ、自分の持っている音域の低い部分を使ってセリフを言う時は、

腹筋だけでなく体全体に力を入れないと低い声を維持できません。

少しでも力が抜けると声が高くなってしまい、役柄が変わってしまう…。

 

たとえば、「サイコパス」の禾生壌宗では、相当低い声を出していました。

専門的になりますが、低い声を出すときは、声帯の長さを縮めるために、

その周りにある仮声帯という部位を、

首の周りの筋肉などを使って押しつぶすような力が必要です。

それにより声帯の長さが短くなって低い声が出るのです。

(音叉と異なり、声帯は長く伸びると高い声になり、短く縮ませると低い声になります)

 

そして発声時には常に、首周りの「胸鎖乳突筋」という筋肉を使います。

首の左右横にあり、鎖骨あたりまで伸びている筋張った固いところが、

その「胸鎖乳突筋」。

無理な発声をしなければならないとき、必ずこの筋肉が凝ります。

その凝りをほぐさずにその無理な発声をずっと続けていると、

ある時声帯にド~ンと負荷がかかり、

声帯疲労や炎症が起きて、声が出なくなります。

胸鎖乳突筋が凝って固くなりすぎていると、

発声のために使う力が直接声帯に加わってしまい、声帯が壊れるのだそうです。

胸鎖乳突筋に柔軟性があると、

加わる力が分散するので、声帯に負荷がかからないようになります。

そして同じように、発声時は、全身の筋肉も使っているので、

身体の凝りは発声に悪影響を及ぼしたりします。

 

禾生壌宗の声を出すと、次の日高い声が出なくなります。

声も掠れ、だみ声に近くなります。体全体がバキバキ…。

凝りは大敵です。

「禾生」を演じていた時は、次の日に必ず鍼治療をして、

全身の凝りをほぐしてもらっていました。

 

私だけでなく、ほとんどの声優さん、

また、声を頻繁に使う職業の方々は、

常に、声帯を酷使しています。

でも、

それでも続けて行きたい仕事だから、

日々、ケアをしながら、

全身全霊をささげて、表現をしているのです。

 

もちろん、

好きな仕事をしていられるというだけでも、

ありがたいと思わなければいけませんね。