熊野の旅、ちょっと休憩。

 

私はあまりお仕事について詳細にお話しするのが得意ではありませんが…。

「ドラゴンクエスト」で、

私は「ヴァレリア」というバルディスタ要塞の魔王の声を担当しています。

とても強い魔王です。姿かたちはとても美しく、若い、そしてセクシーです!

自分とのギャップを感じてしまいます・・・。

 

私は強い女性キャラクターが多いのですが、何ででしょう? 

ある方が「榊原さんの声は“圧”があるんですよね」とおっしゃっていたので、

この“圧”が関係しているのでしょうか? 

 

今年の3月中頃に、

TFCの 制作・『前田晴美さん』からオーディションの依頼がメールで来ました。

キャラクター説明とセリフが添付されていて、

私は購入したばかりのリニアPDMレコーダーで四苦八苦しながら録音し、

音源をメール添付して前田さんにお送りしました。

 

私はどうやら『ベテラン』???の中に入るのだそうですね。

「ベテランになるとオーデイションは受けないのでは」と思う方もいるかもしれません。

他の方々がどうしていらっしゃるのか全く分かりませんので、

何とも答えようがないのですが、

私はオーディションを受けるのは全く気になりません。

名前でお仕事を頂けるのも嬉しいことですが、

オーディションに受かり、役をいただけるのも、これもまた嬉しいものです。

その時の「私の表現」を認めていただけた、と思えるからです。

 

音源をお送りしてからしばらくして、前田さんから

「オーディションに受かった」という内容に

「おめでとうございます!」という言葉が添えられたメールが届きました。

前田さんのこの「おめでとうございます」という言葉に添えた

「!」のマークを見て私はとっても嬉しくなり、

その思いをそのまま文字にして返信したのを覚えています。

 

収録日などの事務的なお知らせなどは

いつも説明を添えたメールを前田さんからいただいていました。

台本や映像などの手配もしてくださいます。

その時のメールの文章に、前田さんの人柄が現れているのです。

 

簡潔で分かりやすい説明。無駄が無いのに無味乾燥ではまったくなく

温かく、そしてそこはかとなく「可愛い」のです。

不思議ですね、簡潔な文章からそういったムードが漂い出る方は稀です。

制作アシスタントとおっしゃっていますが、

細心の注意を払わなければならないお仕事の担当ではないかと想像しています。

 

収録の具体的な話になると、

“チーフ”というのか“長(オサ)”と言えばいいのか・・・、

会社勤めをしたことのない私には肩書の事がよくわからないので

何とお呼びしたらいいのか迷ってしまいますが、

『久保弘さん』から直接電話でご連絡をいただきました。

前田さんからのメールには常に「久保班」とありますので、

やっぱり“長(オサ)”かな。

 

受話器の向こうから初めて聞こえてきた久保さんの“お声の印象”は、

滑舌がとても良く、少し白髪が混じったナイスミドルという感じだったのですが、

初回の収録でお目にかかった時、

「まあ~、何てキュートなお顔立ちをしてるんだろう!若い!息子にしたい!」と、

突然母親のような気持ちになってしまいました。

たぶん年齢差は、“長男とその母”、くらいでしょう。

 

久保弘さんは、今流行りの「無精ひげファッション」の出で立ちの時もあれば、

そうでないときもあります。

制作会社の方々は、私たちにはわからない、

とても込み入った仕事をこなしていらっしゃるので、

相当お疲れがたまっていることもあると思います。

今回で3度目ですが、お目にかかるたびに、

「今日は疲れがたまってないかな?」「寝不足ではないかしら?」「元気そう!」等々、

口には出さずにちょっと母親みたいに観察させていただいています。

(久保さん、ごめんなさい 🙇 これも、職業病なんです)

 

久保弘さんに、「ドラクエ、ブログに書いてもいいですか?」と伺いましたら、

「どんどん書いてください」というお答えが返ってきました。

調子に乗った私は「久保さんのこと、書いてもいい?お名前、出してもいい?」

と尋ねたら、「いいですよ!」と快諾。

それに背中を押され、「前田晴美さん」にも了解を得ました!

 

制作会社の方々は、スタッフのカテゴリーに入るのかもしれません。

縁の下の力持ちです。

縁の下の力持ちには、なかなかスポットライトが当たりません。

私は縁の下の力持ちの方々に、興味津々なのです。

 

私は声優の仕事しか知りません。大学時代のアルバイトで、

ウェイトレスや役所の事務や、お寿司屋さんのセット係、

結婚式場の披露宴での電子オルガン伴奏など、

片手間に仕事らしきことをしていただけです。

とにかく「役者」になりたいという一心でしたから、

他の仕事に興味を持ったことがなかったのですが、

この「声優」という世界に入った時に、いかに自分が他の社会を知らないか、

他の職種を知らないかを痛烈に思い知らされました。

社会というものを知っているようで全く知らず、その知らなさ加減がとても恥ずかしく思えました。

もっといろいろと勉強しなければと思うと、

興味津々になってしまう性格です。

 

ある意味「俳優」や「声優」は、作品の中で「主役に成り得る存在」なのかもしれません。

が、「主役」はそれぞれの仕事の分野に存在しているのではないでしょうか。

 

何もないところから想像力を膨らませ、構想を練る人。

練られた構想から、ストーリーを構築していく人。

構築されたストーリーを、目に見える形にしていく人。

時代背景や、美術、登場人物の姿かたち、衣装等々をデザインする人。

作品をいかに魅力的にするかを考える多くの人。

GOサインが出て、動画を一つ一つ丁寧に描いていく人。(長い時間がかかります)

作品が完成し、今度はそれを、どのように宣伝するか、戦略を考える人。等々…。

一つの作品が完成し発表されるまでには、まだまだたくさんの方々が、

その分野の「主役」として力を発揮しているのではないかと、想像しています。

 

私は時々、映画等のエンディングを見て、

『キャストの方々の名前と同じ大きさの字で、作品に関わった方々のお名前も出してくれたらいいのに』

と思うことがあります。スタッフの方々のお名前が小さいのです。

小さすぎて、読めないのです。

同じ大きさにはできないのかしら…・。

 

私たち声優は、スタッフの方々の前に、ありがたいことに

“立たせていただいている”

のです。

 

「風の谷のナウシカ」が発表されて少したってから、

あるホテルの広い宴会場で「お疲れ様」のパーティーが催されました。

その時に宮崎駿先生が、

「このパーティーは、スタッフの方たちへの感謝のパーティー」

という内容の言葉を口にされたことを思い出します。

キャストの方々もたくさん出席なさいましたが、

大先輩の方々が無言で何度も頷いていたのを覚えています。

あの時、主役は、

スタッフの方々でした。

宮崎駿先生のこの言葉は、今でも忘れません。

スタッフあっての作品なのです。 

 

スタッフの方々を主役にしたいなあ、と以前から思っていましたが、

ずっと口には出さずにおりました。

生意気かもしれないと考えていたからです。が、私も年です。

「主役はスタッフ」と素直に言わせていただこうと思いました。

 

トップバッターは、

TFCの『久保弘さん』 と 『前田晴美さん』 (大きい字にしました!)

 

いつもいつもお心遣い、ありがとうございます。

多忙の中、心身ともに大切になさってくださいね。今年ももうすぐ終わってしまいます。

 

スクウェア・エニックスの皆様にも、

ハードな声を出した後など「声は大丈夫ですか?」と、お気遣いいただいています。

感謝です。

皆様にはお名前を出してよいか、まだ承諾を得ていないので

今回はこのような形でお礼を申し上げますね。

 

60歳を過ぎてから始めた“合氣道”の成果をどうにか出したい!

と思っている今日この頃の私。道着も新しくしました。

心身ともに鍛えて、また、精進します。

 

そして、

『主役はスタッフ』を、

その都度その都度、ここで呟いていけたら・・・、と思っています。

 

本当にそうなのです。

スタッフあっての作品なのです。