書き洩らしてはいけない事があった。
唯、個人のプライバシーに類する事なので、ワザとらしいが、伏字(ふせじ)を使って追記を送りたい…。
Sの話である。
風の便りに依れば、SはASAが潰れた後、どんな伝手(つて)があったのかは知らないが、ハートプランという闇金融で働く様になっていた。
ある時突然、私はSの長兄からの電話を受ける…。
「至急、浅野さんに会いたい」、と言う…。
Sは四人兄弟の末っ子である。
いつの頃かは忘れたが、ある日、川越駅近くのデニーズで私たちは会っていた。
私たちとは、Sの三人の兄たちと私で、そのある日、私たちはデニーズのボックス席に座っている。
私と全く同い年の長兄が話の口火を切った。
「浅野さん、T(Sの名前)を救ってやって下さい…」
「………」
「Tをあのままにして置いては、駄目になってしまいます」
「………」
「Tは浅野さんと一緒でなければ、真面な人生を送れず、不幸になってしまいます」
「………」
「Tを浅野さんの処で使ってやって下さい! お願いです!!」
こう言って、長兄以下残りの兄たちも揃ってテーブルに手を突く。
「………」
暫く沈黙が続いた…。
今度は私が口を開く。
「彼は私を選ばず、青木を選んだのですよ?」「今は、ハートプランの井上氏の下で働いているのではないのですか??」……、私の言葉は素っ気無かったであろう…。
だが、Tの長兄は、ひるむ事無く、真剣な面持ちで続ける。
「私たちの知る限り、ハートプランは闇金融です」「あんな処でTを働かせるのは芳しくありません!!」
私「しかし、大の大人が自分で選んだのでしょう??」
長兄「我々は、弟に正しい物事の判断が出来るとは思えません!」「浅野さん、何とか弟を赦し、救ってやってくれませんか???」
Tの兄たちは皆、真剣な面持ちである。 本当に、その一生懸命さが伝わって来た…。
兄たちが、もう一度、口を揃えて言う、「今後は私たちが責任を持ちます。 浅野さん、Tを使ってやって下さい。 本当にお願いです!!」
兄たちの情熱に私は負けた。
後日、私はSに電話をした。
「野口で働かないか?」
Sの返事は皆さんの予測も外れているであろう、「ハートプランの井上氏には義理がある」であった。
“義理”…、私は耳を疑った…。 Sにも“義理”が分かるのか……、おかしくて悲しかった。
続く、