(まえがき)
皆さんは生まれてから今まで少なくても1度、多ければ毎日のように「夢」を見た事があるでしょう。

その夢はカラーだったり、モノクロだったり、自分の都合のいいように出来ていたり、自分の思い通りにいかなかったり、様々。

だけど、誰もが見る中に「落ちる夢」があると思います。

例えば、暗闇にフッと引き込まれる感覚で「うわ!!」って目が覚めるなんてありませんか?

暗闇に引き込まれる恐怖で体がその夢を拒絶してしまうから、その闇の終着点を見た人はいない。

だけど、もしその闇の終着点に辿り着けるとしたら、そこにはどんな世界が広がってるんでしょうか?

この物語の主人公が最初にいる場所は、そんな闇の終着点なんじゃないかなぁ?って勝手に思っています。

ぜひ前作を読んだ上で楽しんでもらえたら嬉しいと思います。





(1)

「ゴホゴホ!!あぁ~いってぇ~・・・頭がガンガンするな・・・」


彼は何度か咳き込み、そう呟いた。


「ん?ここは何処だ?」


何故か彼は真っ暗な闇の中に立っていた。

立っていたという表現が本当に正しいのかは分からない。

もしかしたら寝転んでいるのかも知れない。

どちらが上でどちらが下か、はたまた横なのかさえも分からないような空間にポツンといた。


「えぇ~っと俺はなんでこんな場所にいるんだっけ?」


何かを思い出せない。

手を伸ばしてみてもぶつかる場所が無い。

自分の足元を手で触ろうとするがこれさえも空振り。

そんな動作をしながら彼は続ける。


「おいおい俺は夢でも見てるのか?んー・・・でもこの場所なぁーんか記憶にあるんだよな・・・なんだっけなぁー!!あぁ~くっそここまで出かかってるのに!!」


誰にでも良くある「アレ」が思い出せない状態らしい。

芸能人の名前などでも「ほら、あの人!!えーっと誰だっけ!!」みたいな事があるだろう?彼はきっとそんな心境だったんではないだろうか。


「そうだ!!分かったぞ。ここはアレだアレ!!数年前の事件の時にも来た場所じゃん!!」


彼は何かを思い出し、デカイ独り言を暗闇に向かって言い放った。

残響するものがなく、一瞬にして先程までの無音が返ってきた。

彼の言う数年前の事件と言うのは説明するには多少長くなる。

私は説明が面倒なので省くが、どうしてもその「事件」と言うものが知りたければ、「椎名慶治」と言う人物がその話をどうしても短編にしたいと私に言ってきた事があるから何処かで読めるやも知れない。

後は皆さんが各々で探してくれるとありがたい。

自分のいる場所を思い出した彼はその後すぐに今度は疑問が浮かんだ。


「ってなんでこの場所に来る必要があるんだ?なんかあったっけ?さっきは頭が割れそうに痛かった気がしたけど・・・それもなんでか思いだせん・・・。耳鳴りは・・・いや、無かったよな。」


何故この場所に来たのか理由が見付からない。


「俺はもしかして時を戻そうとしてるのか?何も理由なしに時を戻せた事なんかないんだからきっと理由がある筈なんだけど・・・。」


彼の独り言を聞いているとどうもここは簡潔に言うと「時の狭間」みたいな場所なのだろうか?

この真っ暗な場所を辿って時が戻るのか?私もここを通って時を戻した事があるのかも知れないが、残念ながら無我夢中過ぎたのか記憶が無い。


「考えてもしょうがないよな・・・もう一度同じ朝を迎えるのかも知れないけど記憶がないんだしどうでもいいや。」


ポジティブなのか馬鹿なのか・・・彼の潔さは誰に似たのだろうか?

そして彼は目覚める。

あの日の朝に・・・。





(2)

男はPCのモニターだけが青白く光る部屋でブツブツと、しかし荒々しく何かを言いながら文字を打ち込んでいる。


「あの病院で行われている人体実験の全内容の映像やデータはこのPCに保存してあるし、私が長い研究の中で生み出した最新の薬品の作り方や、それ以外の様々な薬品のデータさえもここにある。今回たまたま明るみに出てしまった事件を、間違った薬を投与したせいでの死として扱い、その責任を私にする事で被害を最小限におさえようとした。いやあわよくば揉み消そうとすらしている。だが、今回のこの人体実験は今までの実験の中のたった一部でしかない。本当はもっと多くの犠牲者が人体実験の犠牲になっているんだ。」


青白い光が男の顔を不気味に浮かび上がらせている。


「患者の親族や世間は、偽の病名で揉み消されている事に気付いてないだけだ。全て誰がどんな実験で死んだかもここにはちゃんと記録が残っている。日本では認知されてない薬の投与、その副作用や、その後の病状の悪化など、最終的に死に至るケースも。素人からすれば医者から病名を言われればそれが正しいと思い込むもの。今回の件みたいに人体実験された人間が人目につく場所で死んでしまった事がそもそも間違いの始まりだ。まぁとにかく、それら裏医療の全データは私の犯行から30分以内には警視庁に自動送信されるように設定した。コレが一つの証拠となり、そうなれば後は連鎖するように全てが暴かれるだろう。アイツ等みんなオシマイだ。今まで散々人を使ってきたくせに私だけを消そうとした報いを受けろ。・・・私は一人では死なん。先に地獄で真っ赤なワインでも飲みながら待っているぞ。」


そう言い男はPCを閉じたと同時ぐらいだったろうか。


「どうも~バイク便です。」


家の外ではインターホンを鳴らしながら自分の存在を大きな声でアピールするバイク便と言われる配達員が立っていた。
男はインターホンカメラでその配達員の顔を十分に確認した後、玄関のドアを開けた。


「御苦労様、この書類をこの住所まで届けて欲しいんだが、出来れば8時までにお願いしたい。」


男は先ほどの不気味な表情とはうって変わってとても柔らかく配達員にそう伝える。


「かしこまりましたぁ。なるべく早く届けるようにしま~す。御利用ありっした。それでは失礼しまっす。」


遮光カーテンのせいで部屋の中は真っ暗だったのだろう。

外の世界は光で溢れていた。


「さて、私も行くとするか。この場所もいつ嗅ぎつけられるとも限らないし、最後に私が作ったこの薬品の威力を世の中に知らしめてやろうじゃないか。」


男は部屋の施錠をしっかりとして外出した。





(3)

8時06分


「行ってきまぁ~す!!」


誰も返事をしない部屋に向かって挨拶をし、勢い良くドアを飛び出した彼女の名前は「下山 サリ」22歳。

目鼻立ちはクッキリしていて、典型的な美人顔。

身長も高く、スタイルも悪くない。間違いなく街ですれ違えば大概の男は振り返る。

そんなサリの長い黒髪はまだ濡れているようだ。

遅刻ギリギリと予想するのが妥当か。

底の低いヒールで駅に向かって走るサリは携帯を取り出し、手ブレに戸惑うこともなく画面の文字を読み終えた後、メールを打ち始めた。


「だと思った・・・ってかアタシも今家を出たの。やっばい遅刻するぅ~!!」


そんなメールを打ち終え携帯をバッグに投げ捨てる。

元陸上部のエースだったと噂では聞いていたが走りのフォームがなんとも美しい。

ガードレールもハードルを越えるかのように軽々飛び越え、駅に辿り着く為の最後の信号を渡る。

その歩道には所狭しと置かれている自転車。

これにサリは最近苛立ちを覚えていた。


「もう~!!すっごい邪魔なんですけど!!持っていくならアタシの自転車だけじゃなくて全部持ってってよ!!」


頭の中で彼女はそう叫んだ。

彼女も過去に放置した事があり、それを撤去された事があるらしい。

まぁようするに「棚上」なわけだ。

なんでも撤去された自転車を返してもらうのには数千円のお金がかかるらしいのだが、「そんなお金を出すぐらいならもうあんな古い自転車はいらない!!逆に粗大ゴミを持ってってくれたんだからありがとうって思わなきゃね」これが彼女が出した答え。

自転車でなくても彼女の家から駅まで小走りで5分もかからない場所だったのもあるのかも知れないが、とにかく彼女の性格の一つに「負けず嫌い」は確定だろう。

定期で改札をタッチし駅のエスカレーターを使わず階段でホームまで一気に駆け降りると、都内らしく地下鉄はひっきりなしに次から次へと人を吐き捨てては飲み込んでいる。

そんな流れに逆らうことなく深呼吸を一つしてサリも電車に飲み込まれていった。

まだ電車は走りだしたばかりで駅に近かった為か、地下だというのに電車の中でマナーにし忘れた携帯が周りの空気も読まずに元気に歌いだす。


「だったらまたあそこで会っちゃうかもねぇ(笑)。いや、でもなんか今日は会わない気がするぞ(笑)。理由はなし!!」


なんとも気が抜けるメールの確認を終え、景色の変わらない地下鉄の窓に映る車内の様子をぼんやり眺めていた。





(4)

7時57分


「またやっちまった!!なんで時計ってやつはいっつも勝手に止まってるんだよ!!」


また面白い事を言うものだ。彼には自分を責める能力が備わっていないらしい。

まずはいつも通りに寝ぼけ眼でテレビをつける。


「今日の山羊座のアナタの運勢は大凶!!そんなアナタはいらないものをゴミ袋に入れて処分しましょう♪ラッキーカラーは赤。青色は今日は避けてね♪」


アナウンサーとは思えないほどのアイドル的なルックスをした女性が笑顔で彼に大凶をつきつけた。

確かにいらないもんだらけな家だとは私も思う。最近行ってないが、ちょっと見に行くのが恐いぐらいだ。

あ、因みに先程から天の声らしき物語の進行役を担当しているのはワタクシ「川上 慶一」という、この物語の主人公の父親である。

以後お見知りおきを。

そして天の声と言えども別に死んだわけではない。

物語を進めていく上で誰かが細かく描写しないと分かり辛いだろうと、私が天の声に立候補したまでの事。

息子に任せたらきっと大変な事になるだろうと立候補したのだ。

ややこしくなるが劇中に出てくる私とはまったくの別人なので、気を付けてほしい。

それでは物語を進めていくとしよう。


「あぁ~・・・そういやゴミ袋も切れてたんだった・・・今日の帰りにコンビニで買わなきゃ・・・」


彼は寂しそうにポツリと呟いた。

相変わらずな部屋で、相変わらずな行動で、相変わらずな文句を言いつつ部屋を飛び出し、相変わらずな電車に乗り込み、相変わらずな乗客観察。

だけどそんな彼の行動パターンに一つ新たな行動が増えている。それは彼女とのメール。


「着信ありになってた(泣)。今日も起こしてくれたのにごめん!!爆睡でした!!」


時計以外に彼女からのモーニングコールさえもスルーしたらしい。

2年前の「あの事件」の時にはいなかった筈の彼女というものが出来たらしいが、この男のどこに惚れるのかイマイチわからないものである。

遅刻にたいして「これは遺伝だ」らしく、「俺が努力しても治らない」とまで言い切っている。

こんな男にアナタは惚れるだろうか?まぁ世の中には物好きもいるものだ。

そう考えると私の嫁も結構な物好きになってしまうが・・・これは今関係ない事だし忘れよう。

それからさほど間をあけず、無愛想に無音で体を震わす携帯に短い文章が届いた。


「だと思った・・・っていうかアタシも今家を出たの。やっばい遅刻するぅ~!!」


類は友を呼ぶと言うかなんというか・・・。

モーニングコールをした当人が遅刻しそうになっては本末転倒ではないのか?彼達の相性は悪くないかも知れない。

そんなメールに彼はこう返す。


「だったらまたあそこで会っちゃうかもねぇ(笑)。いや、でもなんか今日は会わない気がするぞ(笑)。理由はなし!!」


「アレ」とか「ソレ」とか「いつもの」とか「あそこ」とか、恋人同士や夫婦などにしか分り得ない簡略語を用い文章を書いた。

そしてどうやらこれで彼の朝の一連の行動は終了したのか、ヘッドフォンの中の音楽に耳を傾け、次々に描かれては消えていく景色をぼんやり眺めていた。





(5)

8時23分


「それじゃ行ってくる」


玄関先で嫁にキスをして出掛けるこのジェントルメンの名は「川上 慶一」。つまり私自信だ。

歳のわりには若く見られるし、顔立ちも良い方だと自分では自負している。

この時間に家を出たのでは会社に着くのはギリギリなのだが、どうしても私は朝が苦手だ。


「時計は勝手に止まってるし、嫁のモーニングコールなんてとっくの昔になくなってるし・・・」


似たようなイイワケをついさっき聞いたがこっちが本家であろう。

とにかく家から駅まで通いなれた道を行くこと数分。

そこから地下鉄で20分もあれば会社には辿り着けるし、この日も私は遅刻を免れるのだろう。


「自慢じゃないが、遅刻しそうになった事は数えられないほどあるが、遅刻は数える程度しかないのだ。」


たしかに自慢にはならないことであるし、一体誰に言ってるのだろうか?

そんな自分を今こうして客観視して見ると少し情けなくなる。

だがこんな私でさえそれなりの地位につけるのだから、日本の企業ってものは案外適当なのかも知れない。

途中、電車の車内アナウンスで、乗り換えの路線の一つが車両故障の為に運転を見合わせているとか言っていたが、私には関係の無い駅だったので無視して車内で小さくなり人の迷惑にならないように新聞を読んでいた。

何事もなく無事に会社に着いたのは8時43分、これでもいつもよりは5分は早いが・・・まぁ褒められたものでもないな。

受け付けに笑顔で挨拶をし、エレベーターに乗り込んだ。


「う~ん・・・やはりもう少し早く家を出るべきだな・・・」


私は次の朝には忘れる反省を今日もエレベーターの中でしていた。





(6)

8時32分

いつもの乗り換えの駅に着いた。

ここからが彼の本領発揮。

走らなきゃ到底間に合わない電車に乗り込む為に全力疾走。

いつぞやの事件の時にコツを掴んだとかなんとかで、あれからは確実に1本前の電車に乗り込んでいるらしく、彼が言うには「全勝だ」らしい。

勝ち負けの理由はよく分からないが彼には勝ちなのだ。

まぁその前に朝起きる事が出来ない時点で「全敗」って考えた事はないのだろうか?

そして彼は今日も8時34分前には乗り換えのホームに辿り着いたのだが、一向に電車が到着する気配が無い。

よく見るといつもよりホームが人でごった返している。

駅案内の看板付近に立っている、小さなカバンを肩からかけた見ず知らずの気の優しそうなおじさんに彼は声をかけた。


「なんかあったんですか?」


「ん~?隣の駅で車両故障があったとかなんとかで安全確認中って駅員が言ってたよ。こんな時間に困っちゃうよねぇ~。」


見た目と同様に優しくおじさんはそう答えた。


「そうなんですかぁ~・・・困りますよねぇ~こんな朝の急いでる時に」


「まぁすぐに運転再開するだろうし待ってるしかないだろうねぇ」


「ですね」


軽く御礼を言い、とにかくホームで電車の運転再開を待つことにした。


「こりゃ完全に遅刻だわ・・・車両故障ってイイワケにつかえるのかなぁ・・・」


頭の中では遅刻についてのセリフを考えようとしたが、そんな事よりもとにかく1分でも早めに連絡をするのが吉と考え、纏まらない頭のまま会社に連絡することにした。


「車両故障の為に電車が動かなくなってしまい遅れてしまいそうです。はい、えぇ、分りました。すいません失礼します。」


なんのひねりもない説明をそのまま言ったわりには、意外と会社側はこのイイワケをすんなり聞き入れてくれた。


「今日の占い当たってるよ・・・この電車のカラーは青だもんなぁ・・・」


彼は変な感心をした。

それから直ぐに携帯が体を振るわせたので、会社からやはりお叱りがきたのかと覚悟を決めたが、それは彼女からのメールだった。


「なんか車両故障の電車に乗っちゃったみたい・・・もう絶対遅刻決定(泣)。そっちは乗り換え大丈夫だったのかなぁ?」


この地下鉄を彼女も利用していて、彼がこの駅から乗り込んだ際に数回彼女を見かけた事が二人の恋の始まりだったらしい。

なんとも青春な話ではないか?いや、ただのナンパと言う方が正しいような気もする。


「実は今サリが乗ってるであろう電車をホームで待ってるところです(笑)。って事で俺も遅刻確定ですな。今日の朝はなんだか会わないような気がしたのになぁ俺の勘はハズレ(笑)。いや会いたいから良いんだけどね。」


そう打ち返し、彼は駅案内の看板にもたれかかりヘッドフォンをした。





(7)

8時32分


「ただいまこの電車にて車両故障が発生しました。安全確認の為運転を見合わせております。お客様には大変ご迷惑をおかけしますが、もうしばらくお待ち下さいますようお願い申しあげます。」


カンペに書いてあったセリフを棒読みするかのような駅員のナレーションがスピーカーから流れる。


「なんか車両故障の電車に乗っちゃったみたい・・・もう絶対遅刻決定(泣)。そっちは乗り換え大丈夫だったのかなぁ?」


携帯にそう打ち、彼女は車内で運転再開を苛立ちながら待っていた。

すぐ後マナーモードに切り替え体を震わすだけになった携帯にメールが届いた。


「なんだか自分だけじゃないってホッとしちゃう私はいけないのかしら?」


彼氏からのメールを読んでサリはそんな事を思っていた。

言葉は聞こえないけど、乗客の一人が駅員とホームで言い争ってるのが車内から見えた。
だけど自分には関係ないと、いつ動くとも分らない車内でヘッドフォンをした。





(8)

あれから何分が過ぎただろうか?

いまだに運転再開の目処が立たない電車がいつ来るのかとホームの最後尾からトンネルを除きこんで見る。


「よくもまぁ~人間ってこんなもん掘るよなぁ~・・・なぁ?そう思わない?」


永遠に続くトンネルを眺め彼は隣で電車を待つ学生に話しかけた。

これだけ遠慮知らずで人見知りしないからこそ、電車で会うだけの彼女にも話かけられたのだろう。


「そういえば俺が乗る電車は上り電車。それが車両故障なのは分かるけど、なんで下りの電車も一向にこないんだ?」


彼は少し違和感を覚え、サリにメールを送る。


「下りの電車もこないんだけど変じゃない?そっちはどう?」


すぐにサリから返事が。


「あぁ~そう言えば下りも来てないね。2台同時に車両故障とかちょっとあり得ないねこの鉄道会社(怒)。」


彼もすぐに返す。


「だよなぁ~・・・最近電車の事故とか多いし、勘弁して欲しいよマジで。で、そっちの状況は変わらないの?」


流石に使い慣れてる携帯だけあって、返事が早い。


「う~ん・・・なぁ~んか電車を点検してるようには見えないんだけどなぁ~・・・駅員さん乗客に怒鳴られてるし・・・」


「メールだと途切れ途切れになるから一回電車から降りて、電話頂戴。」


彼がメールを送ると数秒後には着信が。


「もしもし?電車降りたよ」


「わざわざ悪いね」


「ううん、でもなんか変だよ?さっきから点検とかしてないっぽいもん。なんかただ電車を止めただけみたいに思えるんだけど・・・」


「そっか・・・下りの電車も来ないし、ちょっとおかしいぞこれ。」


「あ、なんか駅員さんに詰め寄ってる人に駅員さん変なこと言ってるよ。」


「お、もしかしたら答えがでるかも?」


「ちょっと待ってね・・・」


数秒間か数分か、携帯独特のノイズの音と周りの雑音だけが耳に届いた。





(9)

「やっとか・・・。」


男はそう言うと辺りを見渡した。


「折角私が犯行声明文を出したのに鉄道会社は余程被害拡大を望んでいるんじゃないのか?」


男は頭の中で話を続けた。


「時間はとっくに過ぎている・・・。やっと電車を止めるとは誰かのイタズラかも知れないと疑った証拠だな・・・まぁ処置の遅さを責めてもしょうがないが、被害者の人数が増えるのは私のせいではないな。私なりの最後の偽善だったんだが、まぁもういいだろう。ここらの他人には恨みは無いが、私の最後の実験に付き合ってもらうとするよ。」


そう言うと男は持っていたカバンから一つの小さな缶を取り出した。


「たったこれだけで私の周りの何人の人が一緒に・・・その人数を地獄から数えるとするよ。このプルタブを引き上げるだけでここは地獄への扉に早変わりだ。酸素に触れた瞬間に沸点の低いこの液体は徐々に気化し無臭の毒薬を撒き散らす事になる。見た目には水と区別がつかないほどの透明な液体だ。この世の中に酸素が無い場所など無いに等しいわけだし、もし私の作ったこの薬品が世界に出回れば恐ろしい兵器になるだろう。人間は酸素から逃れる事は出来ない。なんと素晴らしい発明じゃないか。」


男はそんな恐ろしい薬物を作り上げた自分に誇りを感じているのか、缶を自分の目の高さまで上げ含み笑いをした。

罪の意識は微塵も感じられない表情だ。


「私の偽善で犯行予定が多少ずれてしまったが、そろそろ始めるとするか。」


時刻は8時40分を回っていた。





(10)

「やばいかも慶二。」


「どうした?」


「今盗み聞きした事が本当かは分からないけど、なんか犯行声明文が鉄道会社に届いたとかなんとかって言ってる。」


「おいおい、なんの冗談だよそれ。」


「ちょっと待って。アタシが直接駅員の襟首掴んででも聞き出すから、すぐに電話するね!!」


そう言うとサリは一方的に電話を切った。


「なんじゃそりゃ・・・んなドラマみたいな展開ありですか?ってか襟首掴んでって・・・怒らしたら恐いんだなサリって・・・。」


慶二は独り言を呟き、サリをなるべく怒らせないと心に誓った。


「ちょっと待てよ?その犯行声明文がどんなもんかは知らんが、上りも下りも来ないこの駅がなんだか一番怪しいって事にならねぇ~だろうな?ってか絶対この駅ヤバイって。」


慶二は余計な勘のせいで、勝手に不安に陥った。

ここにいても埒があかないし、とにかく一度外に出た方が良いと改札を目指す。

そこで見た光景は驚くほどの人、人、人。

電車が来ないせいで、通勤を足止めされた人達がバスやタクシーを欲して地上を目指しているのだろう。


「おい!!なんで出口が全部封鎖されてんだよ!!」


「ちょっとどういうこと?事情を説明しなさいよ!!」


駅員に向かって猛抗議する人達が改札を占拠していた。


「え?出口が封鎖?なにそれ?ありえなくない?」


慶二も頭で他の乗客と同じような事を思ったが、すぐに改札から出るのは無理と踏み、いつもだったら犯罪行為であろう改札とは無関係の柵を乗り越えた。

一番近くにある地上に出る為の階段の前にはシャッターが下りていた。

そのシャッターを叩く人もいるが、そんなに簡単な事でシャッターが開くならそれはシャッターの役目にならないだろう。

この駅の出口は全部で10ヶ所ほどあるはずだが、多分この感じだと全部封鎖されてるようだ。


「おいおい・・・マジでこれシャレになんねぇ~ぞ・・・なんだ?なんか俺この光景初めてじゃないような気がするぞ・・・。ドラマの見過ぎか?24かなんかで見たからか」


何かひっかかりを覚えながらも慶二は、サリから連絡が無い事を思い出し携帯をチェックする。

ホームにいた時は電波があったのだが、ここでは圏外。

アンテナはホームに立っているだけで、駅の地下通路には立っていなかったらしい。

慌ててもう一度ホームに戻るとすぐサリに電話をした。


「ちょっと携帯繋がらないじゃない!!」


「ごめん!!ちょっと電波が悪い事に気付かなかった」


「大変だよ!!若い駅員じゃ埒が明かなかったから、この駅で一番偉そうな人を捕まえて聞き出したら、その駅に薬物がばら撒かれたかも知れないって・・・」


「へ!?薬物って?その昔のサリン事件みたいに?勘弁してくれよ!!で、何?入口封鎖ってもしかして・・・」


「うん・・・まだ薬物が本当にばら撒かれたのか、確かじゃないけど、被害を最小限に抑える為にその駅は隔離されてるって・・・」


「よくあるB級映画みたいな事が本当に起きるのかよ・・・おいおい勘弁してくれよ。ってかここの駅員達多分本当の事聞かされてねぇ~ぞ?自分の命の危険な時に普通に客ともめてるし。客にたいして車両故障だの一点張りだし。」


「今、こっちの駅では全員に事情を説明してて、駅から出される事になるみたい。さっき友人にメールを送ってこの事をテレビでやってるか聞いたんだけど、まだなんにもそんなNEWSはやってないって・・・。」


「そうか・・・なんだか分からないけどその脅迫は真実な気がする・・・。とにかく今はこの場をどう乗り切るかを考えるよ。」


「あ!!それとここから先は問い詰めてもいないのにその偉そうな人が色々説明しだして、バイク便で朝の8時指定で封筒が駅の本社に届いて、その中に脅迫状って言うか犯行声明文がはいってたんだって・・・」


「随分手の込んだ事してくれるじゃね~かよ・・・でも、それなら犯人はバイク便の配達の人に顔を見られてるんじゃね~のか?」


「そうかも知れないけど、その文章がね、『私の最後の実験にアナタの会社の駅を一つ借りることにした』とかなんとかって・・・駅員のうろ覚えだから文章は違うかもだけど・・・」


「それがこの駅ってわけだ・・・もう勘弁してくれよ。」


「だから、被害を最小限に抑えたいならそれなりの処置をしろって、犯行時間は朝8時30分だって・・・」


「ちょっと待った。今もうそんな時間とっくに過ぎてるぜ?バイク便で8時に着くならここの乗客も全員非難させられるぐらい余裕があったはずじゃね~のか?」


「アタシもそれは駅員に詰め寄ったわ。そしたらなんでもバイク便の配達の人が道を間違えたのかなんなのかで本社に荷物が辿りついたのが8時をとっくに過ぎてたのが原因だとか・・・本当かは分からないけど。」


「何?もう非難させてる時間が無いし、薬品ばら撒かれてるかも知れないからここの乗客は見放したと?ちょっと酷すぎる処置じゃね~のかそれ?」


「理由はもう一つあって、その薬品が感染性のウイルスだった時の事を考えての隔離みたいなの。もし誰かが外に出たら被害の拡大は避けられないからって・・・」


サリはここまで気を張って涙を堪えていたのだろう。その言葉を口にした瞬間涙が溢れ出したのか携帯の向こうの声が聞き取りづらくなった。


「とにかくサリはこの事を俺のオヤジにも知らせてくれ。きっと力になってくれるから。イタズラかも知れないしさ。だって俺ピンピンしてるじゃん?」


慶二はそう言ってサリを励ましたが、自分の中ではコレがイタズラじゃないと思う気持ちの方が強くなっていた。


「そうだよね・・・分かったわ。おじさんに連絡したらアタシもすぐにタクシーでその駅に向かう。」


「おいおい待て待て!!なんでわざわざ自分から巻き込まれに来るんだよ。大丈夫なんとかなるから。」


「でも!!・・・そうだよね・・・今アタシが行っても出来る事はないし、とにかくおじさんに連絡して、後はおじさんに従うようにする。」


「おう。頼んだよ、多分もう電話に出るどころの騒ぎじゃないかもしれないし。」


「ホントちゃんと帰ってきてね?やだよ?これが最後の電話だったとか・・・。」


「おいおい!!勘弁しろよ大丈夫だから!!」


「・・・分かった愛してるからね。」


「俺もだっつ~の!!じゃあ切るぞ。」


電話を切った途端慶二は頭を抱えた。


「うぉ~!!カッコつけても何も案が浮かばねぇ~!!マジでどうするよ俺?本当に何も起こらないでくれ・・・。」


情け無いが、本当は不安で一杯だった。神頼みに近い事を頭で描いたりもした。


「でも、8時30分になってもなんにも起きなかったんだからただのイタズラだったって事だよな?そうだよな?それでいいんだよな?」


と、無理矢理にも話を良い方向に向けようとした時だった。

何のためらいもなくその場で人が倒れた。

普通人間は倒れる時など条件反射で頭を守ろうとするものだが、そんな行動は一切なく、地面に強く頭を叩きつけた。


「おい!!おじさん!!」


すぐに駆け寄った慶二が見たのは、白目をむいて口から血を流し痙攣を起こしているあの優しかったおじさんであった。

気付かぬうちに優しそうなおじさんや慶二の周りは何かの液体がシュワシュワと泡をたて気化している。

優しかったおじさんはすぐにまったく動かなくなった。脈もなさそうだ。


「これは昔にあった毒薬の無差別殺人と一緒じゃないの!?ちょっと!!ちょっとここから出してよ!!」


余計な火付け役のおばさんが全てを言い終わる前に駅構内はパニックに陥った。

我先にと階段を駆け上がる人の群れ。

蹴落とされる人、罵声を浴びせる人、叫び声・・・完全な地獄絵図が完成していた。


「おい!!みんな落ち着けよ!!おい!!ゴホゴホ!!おい!!お・・い・・・」


激しい眩暈で意識が遠のく中で見たのは、自分の目の前に転がる青い空き缶から流れる透明の液体だった。

携帯が微かに震えたような気がした・・・。





(11)

8時48分

私は会社に着くといつも通りに無音のテレビでNEWSを見ていた。

そして、先程起こった事件が報道されるやいなや、すぐさま息子に電話をしたが、電話は留守番電話になった。

着信が鳴った後に留守番電話になるということは、電波がある証拠。

どんな事情で電話に出ないかは定かではないが、NEWSを見ているとよからぬ事ばかりが頭をよぎる。

そのすぐ後だったろうか、サリから私に電話があり、案の定息子が事件が起きたかもしれないあの駅で足止めをされていると聞かされた。

他にもその事件の経緯まで全てサリはとにかく順を追って事細かに説明してくれた。


「俺に何が出来る?」


私は自分に問う。


「とにかくあの駅に向かうべきだ。」


最終的に私が出した答えはいたってシンプルなものだった。

サリがどうしても一緒に連れて行ってくれと言うので、一緒に行動する事にした私は、すぐにタクシーに飛び乗り、あの報道された駅に向かった。

サリとはそこで合流する。

私が駅に辿り着くと、私と同じような理由で駅に来た人達、厳戒態勢の警察、救急車や消防車、真っ赤なサイレンでごったがえしていた。

そこに加えて報道陣の数も尋常じゃない・・・こういう時の報道陣の態度には呆れてしまうほどだ。


「家の娘がこの駅の中にいるんです!!」


「お気持ちはお察ししますが、これ以上駅に近づくのはまだ危険です。」


そんな口論を続ける何処かの親族と警察を隣でカメラが撮り続ける。


「だとしても行かせてくれって言ってるんだよ!!」


「それは出来ません。国からの命令です。」


感情が昂る親族を冷静に応対する警察。

いまだに回し続ける報道陣のカメラ。


「国だろうがなんだろうが後でいくらでも罰は受ける!!だから今すぐここを通してくれ!!」


「少し落ち着いて下さい。ここを通すわけにはいかないんです。そのまま駅に入ればアナタも被害者になってしまうんですよ。」


「もし娘に何かあったらお前がなんとか出来るのか?お前の娘が中にいたらお前はそんなに冷静でいられるのか?」


「残念ながら、どんな理由であろうとこれ以上の被害拡大を避ける為です。理解してください。」


そんなやりとりを少し後ろで聞いていた私もあの親と同じ感情だったが、打つ手がないと悟りその場に座り込んだ。

すぐ横に先程ここにやって来たサリも座り込み、どうしていいか分からずに私の腕にしがみついて泣いた。

私はそんなサリの肩を抱いてやる事で精一杯だった。

それからすっかり空が暗くなるまで救助活動は続いた。

救い出すといっても、既に息の無い人もいたし、生きてはいてもかなり重症な人もいる。

咳き込むぐらいで済んでる人は不幸中の幸いだったと言ってもいいだろう。

薬品がばら撒かれた位置からどれだけ離れていたかで症状がかなり違うようだ。

だけど、どんなに重症な人であっても駅から出る時に、身に付けていた衣類なども全て脱がされた代わりに簡易の衣類に着替えさせられ、最後に体に付着した薬品を綺麗に落とす為のスプレーを全体に浴びせられている。

ばら撒かれた薬品が毒物ではあったがウイルス性のものではなく、空気感染を起こす可能性は無いと言う事も既にテレビで報道されていた。

感染はしないが、衣類などに染み付いた薬品をかげば具合が悪くなる、酷ければそれ以上の症状が出る可能性がある為の処置だと救助隊は言う。

そして救助された人の中に自分の息子がいないか私は探した。

見落としたせいで既に病院に運ばれているかも知れないとサリは片っ端から病院に電話し、「川上慶二」の名前の患者がいないか探した。

サリは慶二の携帯に電話をしてみたが直通で留守電に切り替わった。


「ただいま電話にでれません!!用のある方も無い方も田村正和のモノマネでメッセージをどうぞ!!」


慶二の留守電は場の空気を考えないなんとも明るい声だった。

被害者総勢千人弱、その内死亡者が現在だけで二桁を超す大惨事だった。

だけど、とうとう救助された乗客達の中に慶二の姿はなかった・・・。

気付けば雨が降り出していた・・・。





(12)

22時34分

サリは自宅に戻っていた。

自分が出来る事は全てやり尽くし、それでも慶二が見付からなかった事がサリに少しだけ絶望と希望を与えていた。


「慶二は何処かできっと生きてる・・・」


サリは、机の上で笑う慶二の写真を見ながらそう言い聞かせた。

自宅の電話には留守番電話が3件入っていた。


「もしもし?ちょっとサリちゃん?携帯にも何回も電話してるのに繋がらないじゃない。アナタ今日のNEWSになってる電車は利用してないの?とても心配です。連絡下さいね。」


実家の母親から、事件が起きてから2時間以内の留守電だったらしい。

ちょっと母親と話してる余裕がなかった為、携帯の連絡も無視していたのが原因だ。

他の2件も母親からの連絡だった。

慶二が見付からずにここに戻る時にはすでに実家に連絡を入れてるのだが、サリの自宅の留守電では母親がいまだに心配そうな声で連絡を欲していた。

その留守電を聞いてふと思い立ちサリはPCを立ち上げた。

もしかしたら慶二から何かメッセージが届いてるかも知れないと感じたからだろうか。

だけどそんな奇跡は起こらなかったし、慶二が日課にしていたブログも昨日の日付で更新は止まっていた。

サリはネットの検索エンジンで今日起きた事件を検索してみた。

一つのページでその具体的な被害者人数や事件が起きたであろう推定時刻などが書かれていた。

サリがそらで記憶していた死亡人数よりもまた若干増えていた。

サリはそれを読む事で今日起きた事が夢ではないんだと最後のとどめを刺された気分になった。

その他にも検索エンジンにひっかかったサイトがいくつかあり、サリはその一つに目を止めた。

それは赤の他人のブログなのだが、検索エンジンの紹介文に意外な言葉があったからだ。


消えたサラリーマン


サリはすぐにそのページにジャンプした。

そしてその日記をサリは食い入るように読み始めた。


「いやぁ~・・・今日は凄い体験をしてしまいました。
テレビのNEWS等で知ってる方も多いかも知れませんが、地下鉄に薬品がばら撒かれたんですよ。
で、その駅になんと僕もいたんです(泣)。
本当に運が良いと言うかなんと言うか僕は薬品を吸い込む位置にいなかったっぽく、救出された後も軽い検査だけで今現在は自宅に戻って来れて、この日記を書いているってわけです。
事件に巻き込まれた本人しか分かり得ない、報道陣も知らない事件当時の様子をちょっと書いてみます。」


サリはブログを読み終えた後、モニターの前で悲しいとも嬉しいともつかない涙を流した。


「間違いない・・・絶対慶二だよ・・・だけど消えたって何?この学生が言ってる事は嘘とは思えない。だって慶二は何処にもいないんだもん・・・。」


空を眺めサリは呟いた。

雨は強さを増していた・・・。





(13)

23時38分

サリを家の前まで送り、自宅に帰った私は自分の知ってる限りを嫁に説明した。

勿論嫁は泣いたが、私は何処かで希望を持っていた。

それはやはり息子には不思議な力があるという核心めいたものがあったからだ。

被害者がすべて救出された中にアイツがいないってのがすでに一つの期待に変わっている。

家では何度も今日起きた事件を報道していた。

それを無言で見ている嫁の肩を2回ほど叩いた。


「大丈夫、アイツは生きてる。」


そう言い私も嫁の隣に座りNEWSを見ていた。

キャスターは坦々と事件の説明をしている。

その中に私は初耳の情報も混ざっていた。


「事件現場で発見された缶の中から今回事件に使われた薬品が発見された事から、犯人はこの缶に薬品を入れ持ち歩き現場にばら撒いた可能性が強いようです。この薬品の分析結果ですが、一般人が簡単に購入できるような品物ではなく、犯人は医学などに精通のある人物で、自分自身もその類の職についていた可能性が高いようです。その他詳細は警察からの発表が待たれます。」


その時背中で電話が鳴った。


「もしもし、夜分遅くにすいません、サリです。」


「どうした?やっぱり一人じゃちょっと辛いか?私の家にでも来るか?」


「いえ、私のことなら心配いりません。ただおじさんに今から言うサイトの日記を読んでみてほしくて。」


「なるほど、分かった。」


そんな短い連絡を終え、私はサリの言うサイトの日記を直ぐに読んだ。


「やはり・・・アイツは生きている!!」


私の中で希望が確信に変わった。

だけど疑問も残ったままだった。


「だとしたらアイツは今どこにいる?何をしているんだ?」


時計の針は天辺で一つに重なろうとしていた・・・。





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