高校3年生の時のある放課後、

「隣の病院に患者さんが救急搬送され、輸血が必要なのですが血液が足りないそうです。校舎に残っている血液型がB型の生徒はご協力をお願いします。」

という校内放送が流れました。
たまたま教室で遊んでいたB型の俺は、違う血液型の奴らに
「行ってくるぜ」
と勝ち誇ったような微笑を残し、B型仲間と隣の病院に行って血を抜いてもらいました。
“俺たちの血で人の命が…”
駅まで歩きながらふと空を見上げると、星がやけに輝いていたのを覚えています。

「今日こんなことがあったんだよ。」
「そう。」
お袋は喜んでくれました。



「武田くん血液型は?」
「B型です。」
次の日保健室に呼ばれた俺は、ちょっと好きだった保険の先生からの問いかけに、冷めやらぬ昨日の高揚感も手伝って、笑顔で答えました。

「今日病院から連絡があってね、あんた“AB型”よ。」
「えっ!?」
「あんたなんで昨日行ったの?」
「え?だ、だって俺…」
俺はお袋からずっとB型だと言われて育ちました。
お袋はAB型で、ちっちゃい頃に死んだ親父は確かO型…
てことは俺がAB型のわけはない…ハッ!
“お、お袋…もしかして俺にウソついてるんじゃ…ま、まさか俺は…!?”


「大切なことなんだからキチンと確かめたほうがいいんじゃない?」
事情を説明すると、こちらの動揺を察したのか、ちょっと無理して作ったような明るさで先生は言ってくれました。
その優しさが嬉しくて…
よく見ると、メガネの奥の瞳は妖しく輝き、頬は熱を帯びているのか桃色に上気し、半開きの唇は艶めかしく潤み…
“あぁっ、せ、せんせい…”
“バカ、俺のバカ!”



「俺、B型だよね。」
「そうよ。」
緊張気味の俺の問いかけに、お袋は目も合わせず答えます。
「今日保健室に呼ばれてさ、AB型だって言われたよ。」
「えー、そんなはずないけどねぇ…」
“とぼけやがって!”
「もういいよ!知らないだろうけど、AB型とO型の親からAB型の子供が生まれるわけねーんだよ!」
「……」
「…本当のこと言ってくれよ。」
「お父さんは、B型よ。」
「……」






お袋さん、トルコに旅行に行くそうです。