学生時代に夢中になって読んだ福永武彦。再び、手に取り始めて読んでいる。
「死の島」「廃市・飛ぶ男」「夢見る少年の昼と夜」そして、今回は、10年の歳月をかけて完成した長編の処女作・「風土」を読んだ。
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ため息が出るほど、叙情的で美しい、感動の作品だ。

「風土」は三部構成で、第一部と第三部が、1939年の夏を取り上げ、第ニ部が回想のシーンで1923年の夏、海辺が舞台だ。
主役は、外交官で画家だった三枝太郎の妻・芳枝と画家の桂昌三。桂は独身で39歳。三枝太郎は、パリで亡くなり、桂と芳枝が、物語を引っ張る。
そして、芳枝の娘・道子と同級生で15歳・ピアニストの卵、早川久邇の4人が主な登場人物で、夏の海辺の会話をベースに構成はシンプルだ。

4人の配置は、「男と女」、「芸術家とそうでない人」、「中年と青少年」「望みが叶う人と落胆する人」などの対立軸で、やりとりの立場を考えさせられる。また、会話も、「西洋と東洋」、「芸術と世俗」、「希望と絶望」、「戦争と平和」など、対比しながら、進む。

全体を通しては、芳枝と道子の桂への愛する心の葛藤が、興味深く、昭和初期の恋愛物語として楽しめたし、ヨーロッパ文明に限界を見てポリネシアに渡ったゴーギャンの絵の本質がわかったような気がする。

話は脱線するが、作家・村上春樹の最新作「騎士団長殺し」の絵画を使ったモチーフは、どことなく、この「風土」の発展系を思わせた。「風土」では、ゴーギャンの「タヒチの女」が、重要な役割を演じていたから。

この「風土」という作品は、海を見る時、きっと、思い出し、パリやゴーギャンの名前に触れた時も必ず思い出すように思う。これからも何度も読みたくなる作品には間違いない。
美しい海辺の風景が瞼に浮かぶ。ニコニコ