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静岡版「みるきくはなすは今」。
吉田町の夏休み短縮問題をめぐる「言論の不自由」。

◾︎◾︎夏休み短縮 教育現場の沈黙

吉田町教育改革プラン 教員に注意・追及 

教育長「反対意見、混乱を招く」◾︎◾︎

2018.3.15 朝日新聞朝刊
  
 「出勤日数が増えれば、一日の授業時間が減っても労働時間の総量が増えることは確実だ」
 吉田町立吉田中学校で数学を教えている新間正信さん(58)は、町教委が進める教育改革「TCPトリビンスプラン」に明確に「反対」を表明している。実名で顔を出して反対する教員は、ただ一人だ。
 プランは昨年2月の総合教育会議で了承された。2020年度実施の新学習指導要領で小3~6年に「外国語活動」と「英語」が導入され、授業時数が年35時間増えることなどに対応した。
 授業日数を年220日程度に増やして一日の授業時数を減らす。その分、夏、冬、春の長期休みを削る。町教委は▽教員の時間外労働が減る▽子どもの学力が向上する▽母親がフルタイムで働きやすくなる――とし、3者に利益があると強調した。
 新間さんは昨年5月から断続的に教職員向けの通信「STEP BY STEP」を発行し、プランへの反対を訴えてきた。当初、町教委は「夏休みは10日程度まで削減する」と保護者に説明した。これに対し、新間さんは「私が生徒ならテンションは上がらない」と指摘。昨年9月には中日新聞の取材にも応じた。
 翌日、校長に呼び出された。取材について「誰からの紹介?」「いつどこで受けたのか」と追及されたという。「言いたくない」と拒否すると、「通信の発行をやめて」と言われたが、それ以上は聞かれなかった。「顔を出して話した教員はかえって処分しづらいのでは」と新間さんはみる。
 町教委に呼び出された教員もいる。吉田中の別の教員は、学年保護者会で「夏休み短縮で県の体育大会出場や高校1日体験入学に参加しづらくなり、子どもに多大な負担がかかる」と懸念を述べた。その後、浅井啓言教育長から校長とともに呼び出しを受け、注意された。
 昨年8月9日、町民の要請でプランについての「出前議会」が開かれた。町議13人中9人が出席し、保護者らと意見交換した。傍聴した町外の中学校教員は、翌日、浅井教育長から電話を受けた。「テレビ(のニュース)、見たよ。来てたのか」。数日後、再び電話で「会は特定政党の議員が開いたもの。君の所属する職員団体にはもう協力できない」と言われたという。教員は「なぜ電話してきたのか、不思議に思った」。
 同月25日の小学校の2学期の始業式では、メディアの取材に対応する児童3人が町教委により指定され、教員への個別の取材は不可とされた。町教委は「取材規制にあたる」という指摘を否定し、「マイクを向けられてすぐに答えられない子もいる。個人情報への配慮も必要だ。教員も始業式後、すぐに学級指導に入るため、対応を校長に一任した」と説明した。
 浅井教育長に改めて教員に注意した理由を聞いた。「言論を統制しているつもりはないし、プランに反対だからダメだとは言っていない」と前置きしたうえで「反対意見を保護者や子どもに話せば、不安や混乱を招いたり、教員への信頼を損なったりすることにつながる」とした。
 「議会の傍聴は広く市民に認められた権利では?」とも尋ねた。浅井教育長は「出前議会は一種の集会であり、傍聴は主催者や特定の政党と同じ主張を持っていると誤解され、好ましくない」と答えた。
 プランを教員たちはどう思っているのか。新間さんや県教職員組合による聞き取りでは「賛成者はほとんどいない」という。町教委は当初、「先生方はおおかた賛成」と保護者に説明していたが、「不安の声はあるが、説明して理解を求めていく」に変わった。
 今月7日、町教委は校長会とプランの今後の進め方を協議した。「教育委員会と教職員が同じ方向を向いて進んでいくことが求められている」とし、直接対話の機会を作る方針だ。