若い頃は時間がなかったから、通勤の1時間を利用して勉強した。

通勤はクルマだったから、単語カードを使って樹木の学名を覚えた。読みかたは適当。それはずいぶん僕の軽トラに乗っていたけど、いつのまにか見えなくなった。昔は軽トラに図鑑を載せていて、その名残である本棚はまだ付いているが、本はすっかりiPadに置き換わり、考えてみりゃ、僕が勉強している姿を職人達に見せたことがない。

 

家に帰れば子供達がうるさくて勉強どころではなかった。日曜日は子供達を、僕が行きたいところに連れて行った。この状況をタダで過ごしてなるものかと思っていた。昼休みは絶対寝ないと誓い、散歩を日課とした。夏はきつかったけど、体力を鍛えるのも仕事と信じていたから。

 

ハサミは毎日研いだ。マメだからではなく、腱鞘炎になるのが嫌だったから。そしてそんな姿を周りに見せるのも仕事だと思っていた。お客さんには、「ハサミを研いでる植木屋さんを見たのは久しぶりだ」と言われた。最近は、職人の前でハサミを研いだことなんてないね。研ぎ方すら知らないかもしれない。

 

職場には年間300日出勤してたから、いつも自分の時間が足りなかった。3年目くらいからこれではまずいと思い、毎月1日くらい休んで植物調査ボランティアとかやりはじめた。今考えたら、もっともっと休んでもよかったね。若くて知恵がなく、馬鹿でもあった。

 

昨年はコロナの影響もあり、どっと人が増え、さらっと消えた。彼らに職人としての僕の姿を見せていれば、もしかしたら今とは状況が違ったかも、とか少しは考える。そんなわけないか。彼らは流れの中でたまたま引っかかって、また過ぎていくだけだ。僕は組織の中で役割が変わり、全てをやる時間もないしね。

 

若い奴、植木屋やんなよ!