船手頭・向井将監(しょうげん)

 

🔶昼すぎ、平蔵は定紋入りの羽織・袴(はかま)という姿になり、駕籠(かご)の仕度をさせ、役宅を出て行った。

 何処へ行ったかというと、幕府の船手頭(ふなてがしら)・向井将監の役宅へおもむいたのだ。

 この船手頭という御役目は、幕府の用船を管理し、海上の運輸をつかさどる。

(二十三)盗みの季節

 

 

 

🔶そのとき日本橋川の方から箱崎橋の下をくぐって、高張提灯(たかはりちょうちん)を掲(かか)げた舟が四艘、見る間にこちらへ近づいて来た。

 これこそ、幕府の船手方(ふなてかた)・向井将監(しょうげん)配下の人びとであった。

「えい、や。えい、や」

 船を漕(こ)ぐ掛声(かけごえ)と共に、四艘の御用船が、たちまちに接近し、盗賊一味の舟を包囲してしまった。

 川へ飛び込んで逃げる者も、船手方の熊手(長い柄の捕物具)に引き掛けられ、引き寄せられて捕えられた。

 

 いずれにせよ、長谷川平蔵は最後の最後まで探索を秘密裡(り)にすすめ、押し込みの当夜に至っても尚、他の盗賊改方はこれを知らなかった。

 岸井左馬之助、丹羽庄九郎、それに長男の辰蔵を助成させ、幕府の船手方へ手をまわして御用船を出動させたのがよかった。

 これでは、いくら役宅を見張ってもわからないはずである。

(二十三)特別長編 炎の色 押し込みの夜