本格盗人


 

一、盗まれて難儀をするものには手を出さぬこと。

一、盗めするとき、人を殺傷せぬこと。

一、女を手ごめにせぬこと。

 

この三カ条が真の盗賊の金科玉条というものである。

 


 

牛尾の太兵衛

 

駿河・遠州から伊勢にかけて盗みばたらきをしている。

 東海道・藤枝の宿場町にある呉服太物屋(ごふくふとものや)で、[川崎屋太兵衛]というのが、盗賊牛尾の太兵衛のいわゆる、

「世間なみの渡世」

 であって、そこが牛尾一味の本拠だったことは、いうを待たぬ。

 呉服屋になりきっていた牛尾の太兵衛は、十五年も藤枝宿へ住みつき、女房おしまと、お光というむすめがいた。奉公人はいずれも太兵衛配下の盗賊なのだが、気(け)ぶりにもそれを見せなかったので、藤枝宿の人びとは、太兵衛たちの正体を、いささかも知らなかった。

 

 牛尾の太兵衛は、去年の春に発病し、寝たきりになっていたのだという。

 病気は、中風で、半身不随となり、ろくに口もきけなくなってしまったらしい。

 すると、だ。

 太兵衛が発病して三(み)月ほどすぎた或夜(あるよ)・・・・・。

 突如として、川崎屋の奉公人のすべてが、藤枝宿から消えてしまったではないか。

 まるで、夜逃げのようにだ。

(九)泥亀

 

 


 

 

 

牛尾の太兵衛に関わった者

 

牛久保の幸兵衛

 

・牛尾一味には、二人の小頭がいて、共に三十余名の配下をたばねていた。

(九)泥亀

 

梶ヶ谷の三之助

 

・牛尾一味の小頭。

(九)泥亀

 

おしま

 

・牛尾の太兵衛の女房・おしまは、むろん亭主の正体が盗賊だったことを知っていたが、どこまでも温順で地味な人柄で、おもて向きの呉服屋稼業を取りしきりはしても、本業?・・・・・の盗めには、口をさしはさまなかった。

(九)泥亀

 

関沢の乙吉

・錠前外しの名手で、独りばたらきの盗賊だが、十年ほど前に、牛尾の太兵衛のもとへ身を寄せ、お盗めを手つだったとき、泥亀の七蔵とは妙に気分が合い、仲よくなった。

(九)泥亀

 

玉村の弥吉

・むかしは、大盗・牛尾の太兵衛の許ではたらき、盗めの掟の三カ条を守りぬいてきた玉村の弥吉。

(二十二)法妙寺の九十郎

 

泥亀の七蔵

 

・取り得は、お頭の牛尾の太兵衛に対する忠義と、慎重な思案とであって、このため、牛尾一味の盗人宿の番人には、うってつけの泥亀の七蔵。

(九)泥亀

 

お光

 

・牛尾の太兵衛と女房・おしまとのひとりむすめ。二十五、六になって嫁にも出せなかったのは、虚弱な上に、幼いときに眼を患い、盲目だったからである。

(九)泥亀