ニシキヤッコ
サンゴ礁は華やかな彩(いろど)りに満ちている。カラフルなサンゴの周りを、大小さまざまなコーラルフィッシュ(サンゴ礁にすむ魚)が交錯(こうさく)する。
どの魚も目いっぱいのおしゃれを決めこみ、サンゴ礁はまるで、ファッションショーを見るがごとく華やかだ。
とくに、海水魚マニアのアクアリスト(水生生物愛好家)たちに圧倒的な人気を誇るニシキヤッコは、並みいる海水魚の中でも群を抜くほどの美しさ、豪華さがある。
それでいて、どこかあどけなさが残るのは、まだ大人になりきっていないからか?幼魚のうちは体の後方に、ブルー地に白くて丸い縁取り(眼状斑)がくっきりと見えるのだが、今はそれも消え名残を残すのみだ。幼魚から未成魚、そして生魚へと成長をとげる、その過程なのである。
性格はとても臆病(おくびょう)である。自然界では、じっくり鑑賞という訳にはいかない。すぐにサンゴの陰(かげ)や、薄暗い深みへと逃げ込んでしまう。
ニシキヤッコの名の由来は、見栄えのある姿が美しい絹織物の柄(がら)に似るところから来ているようだ。確かに、さまざまな色糸(いろいと)により織り込まれた、高級な織物をまとっていると見えなくもない。
この世には「錦(にしき)」と謳(うた)われるものはいくつもある。錦海老(にしきえび)、錦鯉(にしきごい)、錦絵などなど。「錦を飾る」というたとえもあるほどだ。
18歳で上京し、いつか故郷に錦を飾るまで、くじけずに頑張ろうと心に決めたあの頃。この魚にであうと、そんな懐かしいことまでが、ふとよみがえってくるのである。
ー海の生きものたち〈42〉 水中写真家 中村征夫さんー
