契約を結んだ話は出てこない

 2023年も今日で終わり。野洲市の病院問題は、今年元日の市広報紙「特別号」で始まった。表紙に大きく「新しい『野洲市民病院』 総合体育館東側市有地での整備計画が正式決定!」と掲げ、「令和8(2026)年度竣工・開院へ」と書かれていた。
 その時に書いたように、昨年末に市長が基本計画を策定しただけで、整備計画なるものもないし、当然その正式決定という手続きもない。しかし多くの市民には体育館病院が決定したと受取られても仕方がない。むしろそれをねらった広報宣伝(プロパガンダ)だったと思われる。
 このことは、今年11月の設計施工業者の決定についても同じだ。入札によって業者が決定して事業が進んでいるというイメージ(印象)を市民に与えようとしている。市のホームページを開いても病院事業の最新情報はそこで止まったまま。
 市長の年頭にも業者決定のことしかないらしく、12月25日の部長会議開会の「市長挨拶」でも次のとおりの一言。「今年最後の部長会議である。今年もいろいろあったが、特に病院整備に関しては、整備業者が決定し、大きな事業が一歩一歩進んでいることを実感している」。
 このように市長の口からは業者と契約を結んだ話は出てこない。しかし、入札によって業者を決定しても契約を結ばなければ事業は始まらない。



 

市民が契約締結を知ったのは新聞報道によってであった

 そもそも市民が契約締結のことを知ったのは新聞報道によってであった。以前紹介したように「新病院整備 市が事業者と契約締結市長『着実に進める』(毎日新聞2023年11月25日)の見出しの記事。それによると11月17日付で熊谷組関西支店など4者でつくる事業体と82億1900万円で契約を結んだことになっている。この記事は11月24日の市長の定例記者会見にもとづくもの。
 その会見記録が公表されたので今日見たところ、そこでも市長からは契約締結の説明はなかった。記者から「新病院整備の事業者との契約は結ばれたのですか。」と質問があり、事務部長が「11月17日付けで契約を締結しました。」と答えて明らかにされた。さらにつぎのようなやり取りもされている。
記者 … 今回の高額な事業の契約は、全員協議会で報告するだけではなく、市民に契約の内容を情報提供するべきと考えますが、なぜ今まで伝えなかったのですか。
事務部長 … 入札が終わった段階で、選定業者名や金額、工期も含めて公表しています。契約日の公表は、全員協議会と同様に記者会見でも口頭説明としました。

 

病院が建たない契約のままで年を越す 工事内容、工事費、工期も不確定のまま

 このように市長らが契約締結のことに積極的に触れようとしないのは、推測するところ、この契約では病院が建たないからではないか。すでに書いたように82億1900万円の契約額には空調や給水などの機械設備費工事がゼロ算定されている。これは市、正確には前川管理者の業者に対する指示によってなされたもの。したがって、この契約では空調や給水工事が行われないため、契約を結び直さなければ病院は建たない。この新しい契約を見ない限り、体育館病院の本当の工事内容、工事費、工期は分からない。今なお令和8年度開院とうたっているが、この契約を確認しないかぎりその点も不確定だ。

ただし、契約の結び直しは制度上簡単ではない。

 市ホームページの情報や報道では契約の結び直しは行なわれていないようなので、病院が建たない契約のままで年を越すことになる。

設計を進めながら資材を発注? 市職員が市に不利な発言する真意が分からない

 なお、記者会見で事務部長が次のように発言している。

 「設計を進めながら、明確になったところから資材を発注していくことで工期の短縮も見込める手法です。例えばの話ですが、こういった手法であることもあり、未着工の時点であっても大変高額な違約金、賠償金を支払うことになると思われます。」

 本来、基本設計、実施設計と順を追って策定完了し、施主である市、すなわち市民の確認を得てから資材の発注を行なうべきものである。いくら設計施工一括発注だといっても「設計を進めながら、明確になったところから資材を発注していく」などということはあまりにも乱暴で危険なこと。詳しくは触れないが、契約解除にあたっての違約金は、出来形(できがた)に見合った出来高(できだか)およびその他の実質的な損失分について、双方合意のもとに算出されて支払われるもの。

 上述のとおり、施主である市が実施設計が完了し、確認する前に業者が勝手に資材等の発注を行うことはない。したがって、「未着工の時点であっても大変高額な違約金、賠償金を支払うことになると思われます。」ことは通常起こらないと考えられる。質問内容でもないのに、市職員がわざわざ市に不利な発言する真意が分からない。