「教員がいじめなんて 報告書案  現場の思考停止指摘」

 今朝の新聞の全国版に野洲市立小学校での教員による児童いじめ事件の記事が出ていた。見出しは、「教員がいじめなんて 報告書案  現場の思考停止指摘」(毎日新聞2023年1月22日)

 記事には、この報告書案は、明日1月23日の市議会全員協議会で示される旨が書かれているので、議員全員にすでに資料はわたっている。

 記事では「市教育委員会が事案を分析し再発防止策をまとめた報告書案の全容が判明した。」(毎日新聞2023年1月22日)と書かれている。記者が全容を知っているといことは、実質的にはすでに公開情報。

手続に法・条例違反疑いがある? 条例では市教委が報告書をまとめることになっていない

 ただし、私たち読者には報告書案の全容はもちろん分からない。記事から判断する限りでは、その内容も報告書作成手続きにも不可解な点が多くある。

 まず、手続きに関しては、記事は「問題を受け市教委は大学教授等専門家5人の意見を聞き報告書案をまとめた。」(毎日新聞2023年1月22日)となっている。

 しかし、結論から言えばこれは適正な手続きを踏んでいないように読める。「野洲市いじめ防止等対策条例」の規定では、市教委が専門家の意見を聴いて報告書をまとめることにはなっていない。今回の手続は法及び条例違反の疑いがある。

事件を「法第28条第1項に規定する重大な事態」に位置付けたのか?

 条例第18条で「法第14条第3項及び第28条第1項の規定に基づき、野洲市立小中学校いじめ問題専門委員会(以下「専門委員会」という。)を置く。」と定められている。そして、市教委は条例第19条に基づきこの専門委員会に対して、「法第28条第1項に規定する重大な事態に係る事実関係の調査」について諮問する定めになっている。

 さらに、第23条で「専門委員会の会議は、委員長が招集する。」、「委員長は、専門委員会の会議の議長となる。」、「専門委員会の会議の議事は、専門委員及び議事に関係のある臨時委員で出席したものの過半数で決し、可否同数のときは、委員長の決するところによる。」などが定められている。このように、報告書は「専門委員会」の総意として委員長が諮問に応じ市教委に提出する。したがって、市教委が報告書をまとめる制度ではない。

 事件が報じられた当初に指摘したが、市教委はそもそも今回の事件を「法第28条第1項に規定する重大な事態」に位置付けたのか疑問。

今回の事件を受けて法改正が必要 市教委は現行法令に準じた手続きが必要

 ただし、一点注意が必要。市条例が基づく「いじめ防止対策推進法」では、第2条第1項でいじめの加害者は「当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等」と定義。この「等」に教員が含まれるのか専門的解釈は知らないが、もし含まれないなら、今回の事件を受けて法改正が必要。いずれにしても、市教委は現行法令に準じた手続きを取るべき。今回のやり方では、犯人が取り調べ調書を作成したの同じ。

市長が会長の「野洲市いじめ問題対策連絡協議会」での審議 市長のパワハラ事件処理の曖昧さが尾を引き、歯切れ悪くなる

 さらに手続き上の問題。記事では、23日の全協報告の後、「2月1日に市総合教育会議を開き市長と内容を協議した上で市のホームページで公表する方針。」(毎日新聞2023年1月22日)となっている。しかし、法令では、まずは市長が会長である、条例第9条に定めるところの法第14条第1項の規定に基づく「野洲市いじめ問題対策連絡協議会」で審議・協議すべきではないか?いきなり、総合教育会議の場合ではない。

 なお、いずれの仕組みで議論するにしても、市長のパワハラ事件処理の曖昧さが尾を引き、歯切れが悪くなる。

教員による体罰や暴力はすでに大きな問題 いまさら「教職員がそんな」の認識はない 問題の根は人権侵害

 手続き違反について長くなったので、報告書の内容についても疑問は多いが、今日は簡単に。

 教員による体罰や暴力は言うまでもなくすでに大きな問題。それなのに、いまさら「『教職員がそんなことをするわけがない』という意識が管理職らの思考を停止させたと指摘」(毎日新聞2023年1月22日)の元となった認識は適正か?

 今回の事件が1回限りの突発的なものであったなら別。ところが、ほぼ連続して2件が数か月にわたり、足元・目の前の教室で起こってた。それに対して「『教職員がそんなことをするわけがない』という意識」で思考停止をしたとするなら、目の前の現実を見ていなかったことになり、教育者としてはもちろん、社会人としての資格と責任感がなかったということになる。本当に5人の専門家たちはこのような判定をしたのか?

 また、これまた「『担任まかせ』『学年任せ』の現状を改め報告や相談、情報収集で組織的に対応できるシステムの構築を求めた。」(毎日新聞2023年1月22日)という指摘が適正なら、これまでの野洲市教委の学校教育行政は「担任まかせ」、「学年任せ」が現状であったことになる。これは「システムの構築」以前の問題であり、まずは教育長の責任問題。

 さらに、「教職員が自らの感覚を見つめ直すきっかけとして障がい者支援団体の活動への参加などを促した。」(毎日新聞2023年1月22日)に至っては、あまりにもお手軽提案。問題は障がい者の問題ではない。

 今回の事件における県教委の人事処分では、珍しく「人権侵害」の判定を明確に行った。市教委には、このような、お茶濁しでなく、もっと深いところからの反省と体質改善というべき抜本的改革が必要。そうでないと、教育の質の劣化が進み、教職員の労苦は増大し、その付けは児童生徒の成長の妨げとなって現われる。