棄却だが、判断の論理に驚き! 条例の範囲内での行為?

 今年3月に出された病院の住民監査請求の期限が4月30日となっていたので、市のホームページを確認。結果が公表されていていて、目を通して驚きました。

 請求は昨年5月のと同じ案件に対するものなので、棄却という同じ結果には驚かなかった。しかし、結果にいたる論理や判断に驚き、残念に思いました。 監査委員は、第三者委員会以上の権限を持ち、「公平中立」を求められる機関であるのに、市長の追認機関になってしまうおそれがある。

 まず、驚いたことのひとつは、市長の行為が病院事業設置条例に違反するかどうかについての判断。前回はこの部分の判断を避けていた。したがって、今回これに触れたことは、まず評価できます。

 では、どう判断されたかというと、違反していないという判断。その理由は、監査結果は理解しづらい文章ですが、要するに次のようなことかと思われます。

 市長が業務委託契約を中途解約したのは、条例に定められた場所とは違う場所に病院をつくることを明言して行ったものではないから違反していないというもの。

 とりあえず、原本の核心部分を引用します。

「市立病院の設置場所を定めた「病院設置条例」第1条第2項の規定に違反するかについて考えると、被請求人が上記2件の業務委託契約を中途解約したのは、あくまで計画の一部中止をしたもので、設置場所、設置規模の変更を明言したものではなく、上記条例の範囲内での行為と認めることができる。」

監査委員の論理は疑問 病院現地建替え公約とその公式検討は事業変更の明言以上の効力あり!

 監査委員のこの論理には疑問が出てきます。市長の行ったことは、設置場所、設置規模の変更を明言したことと同等かそれ以上の行為だと考えられるから。それには2つの理由があります。

①病院現地半額建替えの公約を掲げて当選し、最終段階であったAブロック病院の実施設計業務を中止・解約することは、当然、別の場所に別の病院をつくるという明確な意思表示。すなわち、現地で半額建替えを行うことを明言したとみなされる。

②業務委託契約の中途解約は2021(令和3)年3月4日に行われた。この時期は、市長の公約である病院の現地半額建替えを前提にして、その前年12月に議決された予算でもってその検討が公式に行われていた最中。まさに、設置場所の変更を前提にして行われていたものと解釈されるべき。したがって、これは別の場所に別の病院をつくるという、病院事業の変更の明言以上のもの。もし、この監査委員の見解を認めるとしたら、あの市税を使ってのたいそうな現地半額建替え検討は単なるお遊びであったことを認めることになる。

 そもそも、逆の見方をして、監査委員が言うように、市長が「設置場所、設置規模の変更を明言し」ていないと解するなら、中途解約を行う理由はないし、行ってはならないことになるはず。

 

議会機能は議決 報告だけで済むなら議会不要 条例改正の議決必要

 もうひとつの判断を取り上げます。それは、中途解約にあたっての民主的な手続きの問題。

 これについては、前回の結果と同じです。監査委員は、市議会や評価委員会に報告されているので民主的な手続きが取られていると判断した。しかし、この判断は、前回の監査結果の時も指摘したように納得できない。そして、現在進行中の住民訴訟においても論点となっている。次にこの問題を整理します。

①議会の機能は、言うまでもなく議決。報告だけで済むのであれば、議会は不要。それでは、今回の案件で何が議決されるべきかといえば、それは条例の改正。

 まず条例の改正を行って病院の場所を変更してから、契約を解約するのが適法な手続き。

 市長は、不要となった実施設計業務を早く止めて損害を抑えたと主張している。損害を抑えることは大事だが、それ以前の話としてAブロック病院の実施設計業務が不要になったという判断が公式になされていない。単なる市長の独断でしかない。したがって、損害があるかないかも客観的に判断できない。

 繰り返しになりますが、実施設計業務が不要だという公式判定には、条例改正の議決が必要。

 いずれにしても、今回の判断は、前回同様、自治体における二元代表制の民主制度を無視した判断。それが、議会選出の監査委員も加わった監査結果で示されることは不可解でもあり、残念でもある。

 なお、評価委員会は市長の附属機関であるので、そこへの報告が民主的な手続きであるとする監査委員の意見は論外。ダメ押しで言えば、附属機関の本来機能は逆に市長への報告や答申。

決議に反しても手続きが民主的? 議会の自滅宣言

②市長の手続きが民主的どころかそうでない理由のもうひとつは、議会決議に反していること。

 市長が令和2年11月2日に業務を中止した後の12月議会で「野洲市民病院実施設計業務の継続・完了を求める決議」が可決されている。それをまったく無視して、一方的な報告だけで押し切った。これが民主的な手続きと言えるのかといえば、そうでないことは明らか。

 確かに、決議に法的拘束力はない。しかし、市長は決議を尊重し、それに誠実に対応するとともに、説明責任を果たすことが求められる。ここでも、この決議の賛成者に名を連ねた議会選出の監査委員が、今回の監査結果を出したことは、不可解で、残念。極端に言えば、議会の自滅宣言。

異例に長い「なお書き文」の経緯と判断は不正確! 

 最後に驚きをもうひとつ。結論の後の異例に長い「なお書き文」。この部分は、棄却という結論を下した後の法的効力のない付けたし。前回の結果にもあったが、今回は、なぜか異例に長い。相当な労力がかかっていそうではある。

 その長さは別として、その内容に問題がある。それは、病院事業の設置条例の解釈に触れていることとその内容。

 細かな法律論に立ち入るのは避けたいところですが、記載されているので仕方なく、引用します。

「建設が決定された当時の予定名称と、予定地であったAブロックの位置が本則第1条の第2項に記述されたが、旧野洲病院を野洲市立病院に移行したことで法令に求められる病院設置条例を施行するにあたり、当分の間の経過措置として、本則第1条第2項にある名称及び位置を付則で旧野洲病院(現野洲市立病院)のものに変更され、その結果、病院設置条例は、新病院建設の宣言条例という意味合いと現行市立病院の設置等に関する条例という二つの意味合いが内在しており、解釈が曖昧となり理解しにくいものとなっていることが要因と考えられる。」

 ここに示されている経緯と判断は正確ではない。端的にまとめます。

①Aブロックを病院の場所と定めた(記述された)が、「旧野洲病院を野洲市立病院に移行したことで「当分の間の経過措置として」、「位置を付則で旧野洲病院(現野洲市立病院)のものに変更され」たわけではない。条例では当初から、Aブロックを病院の場所と定めるとともに、経過措置として現病院を定めてあった。したがって、「変更され」たのでなく、はじめからセットもの。そして、「当分の間」のところには、当初の条例では具体的な期日が定められていたが、事業の遅れで「当分の間」に改正された。

宣言でなく市民への約束、市の責務の明言、野洲病院の設置根拠 憲法に定められた自治の視点に欠ける

②2つめは、条例が、「新病院建設の宣言条例という意味合いと現行市立病院の設置等に関する条例という二つの意味合いが内在」という部分について。これについてはこれまで何度も触れたとおり、2つに切り離せないもの。

 仮に切り離して「現行市立病院の設置等に関する条例」だけを制定すると想定すると、それは不可能。なぜなら、老朽化が激しいうえに耐震強度を満たさず、さらに医療基準を満たさない施設で野洲市が病院の開設許可を受けることはできない。万一、県が目をつぶって許可するとしても、野洲市としてはそのような無責任なことはできないし、議会もその条例を可決できない。

 したがって、①と同様、これもはじめからセットもの。駅前Aブロックの新病院を決定することによって、医療継続のための暫定措置として野洲病院を開院した。だから、条例は「新病院建設の宣言条例という意味合い」程度のものでなく、もっと重い規定。宣言でなく市民への約束であり、市の責務の明言、さらには野洲病院の根拠。これなくしては、現病院の開院は不可能であった。

 どうもこの辺りの理解が十分になされていないことが、迷走の原因のひとつではないかと思います。この条例は、法に定められた自治体立法の独自条例として、規定どおりに読んで解釈されるべきもの。これでは、憲法と地方自治法に定められた自治の視点に欠ける。

 監査結果がこのようでは、迷走はまだまだ続く。後は、外部での訴訟というのでは市民主体の自治はますます遠のいていきそうです。

 このように、蛇足である「なお書き」が藪蛇になった感がありますが、このような実態が分かっただけでも、次への踏み石にはなる。