研修記録の作成は教委の義務とする

 午後、スマートフォンでニュースを探っていたら、教員免許更新制廃止後の改正法案の概要が判明という見出しの記事に目がとまりました。昨年の夏、文部科学省が教員免許の更新制度を廃止する方向で検討することが報道されたとき、賛成と期待を込めて書きました。

 その後は、中央教育審議会(中教審)での検討が研修管理システムに重点が置かれていて、あまり良い方向ではないなと心配する程度のフォローしかしていませんでした。

 記事では、現行制度を廃止後、「2030年度から、教育委員会が教員ごとに研修記録を作成。教員それぞれの状況に応じた指導助言をする仕組みを設ける。」

 そして、「新たに規定する研修記録の作成は、教委の義務とする。教委が実施する児童生徒への指導方法やIT機器の使い方に関する研修などを記録。教員が休職して大学院で学んだ履修課程も対象とする。教委が教員の資質向上のためにさらなる研修の機会が必要だと判断した場合、大学や、研修などを展開する「教職員支援機構」に協力を求めることができる。」(時事ドットコムニュース2022年2月5日)となっている。

研修の履歴等を記録及び管理 受講や職務命令に従わない場合は人事上又は指導上の措置

 もう少し情報をと思い、ネット検索をすると、「『令和の日本型学校教育』を担う新たな教師の学びの姿の実現に向けて」審議まとめ(令和3年11月15日中央教育審議会)が出てきました。そしてその概要版が。また、このまとめが同日に中教審の渡邉部会長等から末松大臣へ報告された報道もありました。ということは、法案は当然これに沿ったものになっているはず。

 気になるところの要点は、概要版から拾いだせば次のとおり。

①「任命権者が、教師が教員研修計画に基づき受けた研修の履歴等を記録及び管理」させること。

②「記録管理する過程で、期待する水準の研修を受けていると到底認められない教師には職務命令による研修の受講や、職務命令に従わない場合には適切な人事上又は指導上の措置を講じる」。

 ところで、まとめの本体は、別紙を入れて58ページに及ぶもの。そこから上記①と②に該当するところの本文を引用します。

 ①については、25ページに次のように書かれている。

 「研修受講履歴管理システム」の導入により、教師が任用された地方公共団体における教員育成指標などと関連づけながら、教師が自らの学びの内容、学んだ学習コンテンツの種類やその成績、学びを通じて得た気づきなど多角的な情報を、受講の都度タイムリーに入力できるようになることが可能となる。これにより、入力した情報を協働的な学びの中での教師自らの振り返りや、任命権者や服務監督権者・学校管理職等との対話に活用できるようになること」。

 そのうえで、31ページに、「任命権者に対する研修受講履歴の記録管理、履歴を活用した受講の奨励の義務づけは、すべての公立学校の教師に関して、継続的な教師の学びの契機と機会を確実に提供し、その資質能力の向上を担保するための中核的な仕組みとして機能するものとなる。」とある。

 次に②については、20ページに次のようにある。

「任命権者等は当該履歴を記録管理する過程で、特定の教師が任命権者や服務監督権者・学校管理職等の期待する水準の研修を受けているとは到底認められない場合は、服務監督権者又は学校管理職等の職務命令に基づき研修を受講させることが必要となることもありえる。万が一職務命令に従わないような事例が生じた場合は、地方公務員法第 29 条第1項第2号に規定する懲戒処分の要件、「職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合」に当たり得ることから、事案に応じて、任命権者は適切な人事上又は指導上の措置を講じることが考えられる。」

本人の自発的な能力向上の取組が原点 蝉の抜け殻を集めるようなもの 事態を悪くする

 教員の「資質能力」の向上は必要であるし、そのための取組みが重要であることは言うまでもない。その一環として研修は要件ではある。とはいっても、教員であるからには、まずは本人の自発的な能力向上の取組が原点。それを促進するためには、教員本人の心身ともの余裕、すなわち時間とお金が備わっていないといけない。しかし、現状は周知のとおり教員は不足で多忙で、逆の実態。

 今日のところは、十分な議論の余裕はないので、印象レベルの指摘にとどめますが、中教審のまとめの内容では、教員の「資質能力」という目的を達成するどころか、かえって事態を悪くする。これでは、先日書いた家庭庁の場合と同様、せっかく良いことを「目指」してはいても「実現」には至らない。

 そもそも研修履歴をいくら集めて評価したところで、生きた教員の力を把握することにはならない。たとえれば、蝉の抜け殻か化石を集めるようなもの。これまでの現場の実態から見ても、いわゆる研修好み(マニア)の教員を助長するだけ。今回の制度改正は、誠実に自らの学ぶ力と教える力を伸ばそうと努力している現場の多くの教員に希望を与えるものとはならない。むしろ逆に意欲をそぐものとなる恐れがある。

 また、もちろん教育委員会もこの精度を歓迎するとは思えない。もっと目的達成型の伸びやかな制度設計が期待されます。