こども家庭庁はこども政策の司令塔?

 今朝NHKのラジオニュースを流し聞きしていると、ウクライナ情勢と原油高のニュースに続いて、こども家庭庁関連の報道がありました。そのなかで引っかかった言葉が、「司令塔」。

 ニュースの出だしは、「こども政策の司令塔となるこども家庭庁を設置するため政府がまとめた法案の内容が明らかになりました。内閣府の外局として来年4月1日に発足させるとしています。」(NHK2022年2月3日)

 ニュースでは、司令塔の機能として、「実施する業務として子供の安全で安心な生活環境の整備に関する政策の企画推進や子育て家庭の支援体制の構築の他地域の適切な遊び場の確保や虐待やいじめの防止に向けた体制の整備など」と説明。

司令塔という言葉は常套句化

 この司令塔という言葉、孤独・孤立対策やデジタル庁の場合も同じように出てきたし、これまでも生活困窮者自立支援、自殺対策、いじめの防止、働き方改革でも使われてきた常套句。

 たとえば、「孤独・孤立対策の重点計画」には、「政府においては、令和3年2月に孤独・孤立対策担当大臣を指名して同大臣が司令塔となり」とあり、また、デジタル庁のホームページには「デジタル庁は、デジタル社会形成の司令塔として」と出てきます。

 こども家庭庁については、名称に「家庭」が加わった際のニュースで引っかかった程度で情報不足だったので、検索すると令和3年12月21日閣議決定の「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針について」が出てきました。全体で22ページのこの文書のなかに、司令塔という言葉が7回も出てきます。少し長くなりますが、強い意気込みのあらわれた名文なので紹介します。

 「常にこどもの最善の利益を第一に考え、こどもに関する取組・政策を我が国社会の真ん中に据えて(以下「こどもまんなか社会」という。)、こどもの視点で、こどもを取り巻くあらゆる環境を視野に入れ、こどもの権利を保障し、こどもを誰一人取り残さず、健やかな成長を社会全体で後押しする。そうしたこどもまんなか社会を目指すための新たな司令塔として、こども家庭庁を創設する。」(1ページ)

 もうひとつ引用します。「こども政策の司令塔機能を、常にこどもの視点に立ち、こどもの最善の利益を第一に考えるこども家庭庁に一本化することにより、政府のこども政策を一元的に推進する。」(7ページ)

司令塔はチーム内でしか機能しない 司令塔という発想自体が適切か?

 司令塔という言葉は日常ではサッカーなどのチームで戦うスポーツで馴染んでいる言葉。ここで言葉の定義に深入りするつもりはありませんが、塔というとおり、もともとは軍隊などで指揮を取る人が使う施設や構造物のこと。

 いずれにしてもチームのなかでの指揮命令系統が前提。今回の家庭庁の場合で見れば、「こどもの最善の利益を第一に考えるこども家庭庁に一本化する」となってる。ということは、いわゆる縦割り行政として省庁間や省庁内において分かれている機能・機関を1つのチームにまとめることになる。しかし、この基本方針を読んでみると、「教育については文部科学省の下でこれまでどおりその充実を図り、こども家庭庁は全てのこどもの健やかな成長を保障する観点から必要な関与を行うことにより、両省庁が密接に連携して、こどもの健やかな成長を保障することとする。」(6ページ)となっている。義務教育は文部科学省にそのまま残るようだし、肝心の幼稚園といじめ対策も残ってこども家庭庁は関与にとどまり、チーム化されない。

 さらに、「子育て支援、子どもの貧困対策などは、育休の取得促進や長時間労働の是正、就労支援などの雇用政策とも深い関わりがあるが、そうした分野は厚労省に残る。」(朝日新聞デジタル2021年12月22日)と報道されており、これらもチーム化されない。

 そもそもチーム化されないていない機能・機関に対して指揮命令が十全に働くことは困難。

 それ以前の問題として、そもそも司令塔を設置して進めるという発想自体が適切なのかどうかという疑問があります。自治体の場合でも司令塔をつくる傾向がありますが、現実はそれほど機能しない。司令塔が置かれたことによって、組織は活性化し、パフォーマンス(働き)は向上するのか?

 また別の問題として、たとえば、上にあげた、孤独・孤立対策やデジタル行政はこども政策と重なる分野があります。その場合どちらの司令塔が優先するのか?

すでに現場にある宿題の解決支援が必要 「目指す」でなく「実現」に!

 それ以上に問題なのは、現場。方針には、「こども政策の具体的な実施を中心的に担っているのは地方自治体であり、地方自治体の取組状況を把握し、取組を促進するための必要な支援等を行うとともに、現場のニーズを踏まえた地方自治体の先進的な取組を横展開し、必要に応じて制度化していく。」(6ページ)とある。まさにそのとおりですが、そう簡単なことではない。

 今日はこれ以上立ち入りませんが、まずは、すでに現場にある問題・課題、すなわち宿題に着目して、その解決に向けた具体的な支援が必要。

 思いつくままに宿題を列記します。いまさら言うまでもなく、児童虐待対策の現場では、人もお金も不十分なうえに、国の制度も使い勝手が悪い。また保育も無償化は見せかけで、実際は幼稚園を無償化しただけで、逆に自治体の負担が増えた。もちろん保育士不足は解消のめどはなく、悪化する一方。

 また、学童保育も全国的に大きな問題を抱えたままだし、数年前に国は、指導員の基準を緩和し、「こどもの最善の利益」には逆行。

 義務教育では、教員不足はじめ、スクール・カウンセラーやスクール・ソーシャルワーカー、特別支援教育の支援スタッフ、学校図書館の司書配置など宿題は多い。

 この辺りでとどめますが、ぜひ、基本方針に声高々に掲げられた取組が進められることを期待します。なお、最後にもう一度基本方針の「1.はじめに」の文章の最後を読むと、「こどもまんなか社会を目指す」となっていて、「実現」となっていないことに気づきました。「目指す」だけなら誰でもできる。これではせっかくの壮大な意気込みが、画竜点睛を欠く。これほど力を入れたからには、ここは、ぜひ、「実現」に変えられることを期待します。