思い立って、午後から県立美術館に行ってきました。超が付くぐらいの久しぶり。「新生美術館」に改変するためとして4年間余り休館。しかし、建築工事の入札が不落になり、一時見通しが不透明になって心配していました。ようやく一部改修工事と名称変更をして今年開館。慣れ親しんだ館のたたずまいだったのと、作品に感動して、建物の写真を撮るのも忘れて帰ってきました。

 展示は常設展として、「野口謙蔵生誕120年展」と「昔の滋賀のくらし」、そして小倉遊亀コーナー。

 野口謙蔵の作品はいわゆる郷土の画家として、これまで館の収蔵品をその都度見てきましたが、東京国立近代美術館収蔵の「霜の朝」など館外収蔵品を含めこれだけまとまった展示は初めて。作品のエネルギーと多様性が楽しめ、画家への理解が広がりました。

 野口謙蔵は洋画家であり、個々の作品には、これは誰々のといったようにヨーロッパの画家たちの画法や作風が感じられますが、それは模倣といったものでなく、創作の栄養素であり、独自の世界がかたちづくられていっていることがわかります。油絵、洋画というより絵を描こうとした。さらに言えば、描き、表現することが生であった。惜しくも43 歳で亡くなっていますが、経歴からは、大正と昭和初期の良い時代を波乱のない充実した人生を生きた画家のようです。しかし、展覧会の副題にあるように、どの作品も、まさに「発火しそうな私の画心」の表れです。

 「昔の滋賀のくらし」と小倉遊亀コーナーでは小倉遊亀(ゆき)のなじみの諸作品が相変わらず楽しませてくれました。巧みな色づかいとリアルでないリアルさ、そしてユーモアが飽きさせない。また、沢 宏靱(こうじん)の湖北を描いた3つの小品と母子の入浴図「牟始風呂」も久しぶりに見て充実した気持ちになりました。

 美術館への途中、中古レコードを探りに店に寄ったら、ベルマンのピアノとカラヤン・ベルリン・フィルによるチャイコフスキー「ピアノ協奏曲第1番」のLPがありました。ベルマンが「鉄のカーテン」から出て、リストの『超絶技巧練習曲』の演奏で電撃的なアメリカ・デビューを果たした直後の1975年11月の録音です。自宅に戻って早速聞きました。素晴らしい音楽の演奏記録であるとともに時代の記録でもあります。