有名な名画が少なかったからの楽しく深い感動

 先日、守山市にある佐川美術館で11月7日まで開かれている「スイス プチパレ美術館展」に行ってきました。いわゆる西洋名画展ですが、これまでとは少し違った楽しみと深い感動を味わうことができました。

 その理由は、展覧会の評価を落とすためでなく、その逆の意味で言うのですが、いわゆる有名な名画が少なかったからだと思います。

19世紀末から20世紀はじめのパリ、「ベル・エポック(良き時代)」の明るさと暗さ・厳しさの一端を追体験

 会場には、印象派以降フォーヴィスム(野獣派)、キュビスム(立体派)、エコール・ド・パリに至る38人の画家の油絵65点が展示されています。1880年代から1930年代にかけてパリを中心に制作された作品群で、この間のダイナミックな絵画思想と様式の流れに心から浸ることができます。ただし、西洋名画とはいえ、普通に名前が浮かぶ画家は、ルノワールとユトリロ、そして日本人の藤田嗣治など数人。

 この分野にある程度なじんでいる人には、ファンタン=ラトゥール、カイユボット、ヴラマンクなども良く知られた作家。その他の画家も、もちろん無名な画家というわけでなく、どの作品も充実して素晴らしく、絵画史のなかにそれぞれ重要な位置を占めています。とは言え、印象派、フォーヴィスム、キュビスムと銘打たれて期待する、マネ、モネ、セザンヌ、ゴッホ、また、マティス、ルオー、さらにはブラック、ピカソの作品は、残念ながら一点もない。愛用している、500人の作家を1人1作ずつ紹介した美術ガイドに載ってない画家も結構あります。むしろ、このことが、上で述べたように、この展覧会の良さであり、意義だと、個人的には思いました。

 要するに、この時代の絵画の厚みとすそ野の広がり、そしてその時代とそこに生きた人たちの眼を感じることができるからだと思います。展覧会の案内にある「19 世紀末から第一次世界大戦勃発(1914 年)に至るまでの」、「『ベル・エポック』(良き時代)」の明るさと暗さ・厳しさの一端を追体験できます。それによって、マネ、モネ、セザンヌ、ゴッホ等々への理解もさらに進みます。

 

 どの作品も楽しく味わえましたが、なかでも気にいったものを、順不同でいくつかあげておきます。

ルノワールの「 詩人アリス・ヴァリエール=メルツバッハの肖像」

 ギュスターヴ・カイユボットの「子どものモーリス・ユゴーの肖像」

 マクシミリアン・リュスの「若い女の肖像」

 モーリス・ドニの「ペロス=ギレックの海水浴場」

 アンリ・マンギャンの「室内の裸婦」、「ヴィルフランシュの道」

 モーリス・ド・ヴラマンク「7月14日 踏切、パリ祭」

 マリア・ブランシャールの「静物」

 ジョルジュ・ボッティーニの「バーで待つサラ・ベルナールの肖像」

 モーリス・ユトリロの「ノートル=ダム」、「ヴィルフランシュの通り」

 藤田嗣治の「2人の小さな友達」

 モイズ・キスリングの4点、なかでも「赤毛の女」