緊急事態宣言と重点措置は残念な現実

 デルタ株を主体とする新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません政府は、来月、8月2日から31日までを期間として、緊急事態宣言の対象地域に東京に加えて埼玉、千葉、神奈川、大阪の4府県を追加。また、まん延防止等重点措置の適用も沖縄県に加え北海道、石川、兵庫、京都、福岡の5道府県に適用することを決定しました。

 無観客が原則であっても、世界最大のスポーツイベントであるオリンピックの開催というアクセル。そして、緊急事態宣言と重点措置というブレーキの両方を同時に踏むというレース並みのドライブテクニック。このような事態に至ることは、専門家でなくても予測し、心配してきたこと。

 しかし、いま、なぜこのような事態になったかを詮索することは、今後の対応の参考になるとしても、たちまちは意味をなさない。現実的な対応としては、緊急事態宣言と重点措置の2つしか、今のところ政府には手立てがないということが、残念な実態です。

 同時に重要なことは、いうまでもなく、医療の体制確保と緊急事態宣言等により一段の影響を受ける事業者とそれに関わる生活者への対応。

 

  記者会見の目的は「報告」でなく国民の感染拡大防止の「行動を」促すこと

 以上書いたところまでは致し方ないとしても、気になることがいくつかあります。

 ひとつは、菅総理大臣はじめ関係大臣の記者会見などでのレトリック(説明の仕方)、その裏に控えているロジック(考え方)の問題。 

 報道では、「一人ひとりが、高い警戒感を持って感染予防を徹底し、慎重な行動をとるようお願いする。」と述べる一方で、「ワクチン接種の効果が顕著に表れている」、「高齢者への接種にめどがついた今、今後は、重症化リスクが次に高い、40代、50代の方々、そして感染が大きく広がっている若い世代へのワクチン接種に注力する。全国の自治体には、先々の配分量を速やかに示し、計画的な接種を進められるように努めていく」、さらには重症化リスクを7割減らす画期的な治療薬が今月19日に承認され、それを「すでに治療を希望する全国の2000を超える医療機関が登録されており、要請に応じて順次配送していく。政府として、この治療薬の十分な量を確保しており、50代以上の患者に加え、基礎疾患のある方に積極的に供給し、重症化を抑えていく」と述べている。

 ワクチン接種など現に得られている成果を客観的に伝えることに間違いはありません。しかし、記者会見の目的は「報告」でなく国民の感染拡大防止の「行動を」促すこと。そもそも、感染防止からすれば逆行するオリンピック開催をあえて実行しているなかで、これらの実績宣伝の報告を添えれば、国民の安心感を高めることになる。その結果、菅総理大臣はじめ関係大臣の狙っているメッセージが伝わらない。これまでも、万全の対策とか最後の宣言とか、結果を見て評価すべきものが先取りの希望的なメッセージで繰り返されてきました。今回も、まさに「今回の宣言が最後となるような覚悟で、政府をあげて全力で対策を講じていく。」と述べられている。(以上の報道引用はすべてNHK報道より)

 これでは、なにがアクセルでブレーキなのかわか  らなくなり、手詰まり状態になります。

対策の決め手が相変わらず飲食店での酒類提供の抑制と時短では限界

 もうひとつが、すでにいろんなところで指摘されていることですが、対策の決め手が相変わらず飲食店での酒類提供の抑制や時間短縮とその見返りとしての協力金の早期支給になっていること。これに加えて各都道府県による見回り拡大による実効性の向上などが加えられているが、東京はじめ各地の実績で効果の限界が見えている。夏休みやお盆の不要不急の外出、移動の自粛も同様。

 それよりも、完ぺきではないまでも大きな効果があるワクチン接種では、実績は強調されるが、これからの正確な見通しが示されていない。むしろ、自治体現場や職域接種での混乱が政府への信頼感を失わせている。

大臣の自宅でのオリンピックテレビ観戦要請は医療、救急従事者等への配慮に欠ける

 オリンピックは柔道はじめ各種目での日本人選手の活躍によって人々の心に力と明るさを与えてくれていることは確か。しかし、この状況で、大臣や知事が、自宅でのテレビ観戦を何度も要請することも合理的なメッセージにならない。すでに無観客開催でパブリックビューイングも中止。それよりは、このメッセージはひっ迫しつつあり今後それが一段進むと予想される医療、救急従事者や、そもそも普段からテレビを見る時間の余裕がない仕事に従事している人たちへの配慮に欠けているように思われる。

 

  出来ないことについても伝えないと有効な手立て打てず、手詰まり状態になる 野洲市病院問題でも同じ

 実績の評価を得るために、出来ていることと、そして出来ることを話したいとの思いはわかります。しかし、危機感を共有し行動を促すためには、実績と単に事態の進行さを述べるにとどまらず、できると約束したけれど出来なかったこと及びやるべきだけれども当面出来ないことについても客観的に伝えることが必要。そうしないと、市民・国民に期待する行動を促すことができない。さらに深刻なことは、課題と問題が明確に共有化されないため、有効な手立て・戦略が打てない。その行き着く先は、手詰まり状態です。そこに近づきつつあるのではないかと心配です。

 このことは、対岸の火事でなく、野洲市の病院問題でもほぼ同じではないかと思います。

 したがって、お願いの繰り返しよりは、なによりも大事なことは、出来ないことも含めて課題と問題を市民・国民と明確に共有化して、その積極的な行動を促し、ともに解決に立ち向かうことです。