市の公表という、竜頭蛇尾型の呆気ない幕引き

 野洲市の病院整備事業巡る住民訴訟「取り下げ」の記事が出ていると、今朝知人などからメールが届きました。早速、ネットや紙面で確認しました。いずれも短い記事。

 本来であれば、とっくに結審すべきものが、長い間動きが不明であったため、急な結末に驚きました。昨日7月21日午前、市議会全員協議会があったのでそこで出されたのかと直感しましたが、後ほどそうであることがわかりました。それであれば、議員には3日前に資料が配布されていたはず。たしかに、新聞記事にも原告は16日付けで大津地裁に訴訟取り下げ書を提出したと市が発表したとなっている。

 原告はこれまで住民監査請求と住民訴訟提起のいずれの時にも、報道機関に連絡して大々的に記者会見を開いてきたのに、今回は市が公表するという、竜頭蛇尾型の呆気ない幕引きになっています。原告側からすれば、いまさら自分たちで発表しなくても、自分たちの実質的な代理人である栢木市長に発表してもらえば十分という思いがあるのかも。

 

訴えの趣旨と根拠は、基本的に栢木市長の公約と同じ

 今回取り下げられようとしている2件の訴訟については、昨年12月24日に予定されていた証人尋問が突然直前に消えたことなど、前後何回か紹介してきました。したがって詳しくは省きますが、要するに、病院の現地建替えが可能であるのに駅前新病院を整備することは経済合理性がないという理由で、駅前病院の実施設計費や旧民間病院に対する市の債権放棄意向により発生する損害を前市長に賠償させよという野洲市長に対する訴え。2018年と2019年に2件の訴訟として起こされています。賠償額は約5億円と法外な金額になっています。

 この訴えの趣旨と根拠は、いうまでもなく、基本的に栢木市長の公約と同じです。そして、新聞で原告側の人物として名前が紹介されている人物は栢木市長の後援会の幹部。

なぜ市長は同意しようとしているのか? 議決案件か病院特別委員会の案件に

 今回この時期での訴訟取り下げ。その理由にはさまざま憶測が働きますが、それはさておき、今後の動向がどうなるのか?このことは駅前AなのかBブロックなのかは別にして、病院の議論に影響を及ぼします。ひいては、秋の市議選にも。

 まずは、市長が原告の取り下げ請求に同意するのかどうかが関門です。昨日の全協では市は同意の意向を示したようですが、市議からは質問や異議も呈された。間接情報ですが、最終的には、過半数を超える議員名で同意をしないよう市長に対して要請書を出したようです。昨年の市長選で決着どころか、市長公約の破綻と方針の二転三転、そして未だ根強い駅前Aブロック病院への期待などによって、混迷と混乱の度を深めつつある病院問題。提訴から足掛け4年、結審間近までの状態からさらに半年以上過ぎている。原告である市民グーループにとってはもとより、多額の訴訟費用を費やした市にとっても、せっかくなら、いわゆる白黒を司法上で示してもらった方がスッキリすると思います。さらには、訴訟での「審理を通じて地方公共団体として将来に向けて違法な行為を抑止していくための適切な対応策が講じやすくなると考えられる」とされる、住民監査請求制度と住民訴訟制度の趣旨からもその方が適切と考えます。なぜ、市長が同意しようとしているのかわかりません。その意味で、市議会の要請は妥当であるし、むしろ議決案件とすることを求めても良い。少なくとも、全協報告でなく、過去と同様、病院特別委員会の案件となるものだと思います。

「計画は中止され、問題が解決された」という取り下げ判断理由はどこから出てくるか?

 もう一度新聞報道に戻ると、次のようになっています。「20年の市長選で計画に反対する栢木進市長が当選したことなどから、取り下げを決めたという。」(毎日新聞)「山川晋代表は理由について『昨年の選挙で市長が交代して計画は中止され、問題が解決されたため』と話した。市は訴訟の取り下げに同意するとしている。」(京都新聞)

 これらは、市の発表でなく、原告側への取材に基づくものと思われますが、読んでいて、市民感覚からするとストンと落ちません。

 その理由は、市長選を有利にするために、選挙公約と基本的に同じ内容と趣旨をもって訴訟を起こしたかのように読めるからです。もちろん、住民監査請求制度と住民訴訟制度は市民の権利ですからその行使に制約があってはなりません。それなればこそ、市長選で自分たちが推した候補が当選したからという中途半端な理由で取り下げは好ましくない。ましてや、「計画は中止され、問題が解決された」という判断はどうなのか。栢木市長は駅前病院の実施設計を止めただけで、条例も計画も生きたまま。現地半額建替え公約は断念し、次の計画はまったく形になっていない。「計画は中止され、問題が解決された」という状況判断はどこから出てくるのか、いぶかしく思います。

 それよりは、これは私だけの推測ではなく、同じ思いを持っている人がほかにもいますが、裁判手続きが煮詰まってきて、原告敗訴ともなれば、栢木市長の立場がなくなる。そうなれば、さらには、たちまち今年10月の市議選で栢木市長の支援によって、または栢木市長を支援する目的で立候補を予定している人たちに不利になる。このような危機感からこの時期に取り下げに至ったとも見られる。現に、現地建て替えが有利という原告の根拠は裁判所の判示を待たなくとも、市長自らすでに断念を表明し、現実に崩れてしまっています。

 このままでは、混迷が一層深まります。任期残り少ない市議会の活躍に期待します。