実質的な効果薄く、潜在教員の能力活用を疎外

 文部科学省が10年ごとの教員免許の更新制度を廃止する方向で検討することが報道されました。その理由としては、教員の働き方や経済面で負担が生じているなどをあげています。いずれも消極的な理由ばかりです。本来は、制度創設の目的である、教員の資質能力の保証に効果があったかどうかの評価が必要。

 この教員免許更新制は、2009年度から導入。それまでは終身免許であった教員免許の有効期間を10年とし、30時間以上講習を受けさせたうえで免許を更新する制度。机上の判断ではいかにも教員の質の確保に役立ちそうに見えますが、他の分野の「人材」の場合と同じく、実質的な効果は薄い。

 現職教員の場合、まずは日常の職務を通して能力の維持向上が図られるし、自治体の教育委員会なりが設定している研修機会の方が、教員免許更新制での限られた時間の定型的な研修よりは格段に効果がある。

 もちろん、免許を取ってから、適性を欠いたり、不適格であることがわかる場合もある。しかし、この制度ではそれに対応できないし、実際、文部科学省も「不適格教員の排除を目的としたものではありません。」と明記している。不適格教員排除はむしろ採用での課題です。

OJT充実が効果的 廃止で潜在力活かし、現場の教員不足解消 少人数学級促進にも有効 

 整理すれば、この制度のねらいはOJT(職場・現場研修)、必要ならその充実で対応した方が効果的。資格を持っている人の能力が、本当に生きている(アクティブ)であるかどうかを的確に確認できるのは現場でしかない。OJTを充実するためには一層の働き方改革が必要。

 逆に問題点をあげるなら、文科省があげている教員の働き方や経済面で負担に加え、出産、育児、定年などで退職した教員の能力、人的資源が無駄になっていること。就労の見込みが当面ない場合、更新手続きをしないことが一般的。

 このため、現場で教員不足が生じている。特に、出産、育児で休暇を取る教員の代わりの教員。年度当初に児童生徒が増えてクラスを分ける場合の臨時教員、特別支援教育現場での教員確保など、教育現場では困っている。この制度を廃止すればこの問題解決に大きく貢献するはず。そして、このことが教員の働き方改革に役立つはずです。さらには、今後の少人数学級の促進にも有効。なお、2009年度の制度開始時に、対象年齢を限ったために、現状では高齢教員が終身免許を持っていて、現場では引っ張りだこになっているという滑稽な事態も起こっている。

 新型コロナワクチン接種で潜在看護師の役割が注目されましたが、教員の場合は現行制度ではこのようにはいかない。教員免許更新制の創設時にも言われていたことですが、弁護士、医師、看護師など専門性が高い職種でもこのような制度がなく公平性が保たれていない。運転免許の更新制度も高齢者でない現役世代の場合は実質は住所確認の機能しかない。これについても見直しが可能ではないかと考えますが、ここでは触れません。

 ぜひ現状を直視し、制度廃止に向けた建設的で速やかな検討を期待します。