住民監査請求は市民の政治参加の大事な機能
駅前新病院の設計業務等の契約解除に関しての住民監査請求結果については、先に書きましたが、もう少しわかりやすくという声を聞きました。そこで、少し観点を変えて、できるだけ専門用語を避け、あらためてその意味を整理してみます。
住民監査請求は、名前は物々しいですが、選挙と並んで地方自治法で保障されている市民の参政権のひとつで、大事な機能です。昨日書いたように、議員に期待しつつもそれだけに頼れない場合は、手続きは選挙より煩雑ですが、使える手段です。市長などの解職請求(リコール)と議会の解散請求も同じで、市民の市政への直接参加の制度です。
監査請求内容は市条例に反した契約解除と未完成品に対する4,256万円の支払
今回の監査請求は、市長が就任直後、議会に諮ることもなく、市条例で定められている駅前市民病院の設計業務を中止し、契約解除を行った。そして、未完成の設計書類に対して、市費から4,256万円を支払った。この行為は、違法で不当であり、また市に対して経済的損害を与えた。その賠償と、さらに、金銭換算はできませんが、付随的な損害として、老朽化して危険な市立病院の改築の見通しを失わせたことによる、市民の健康医療への損害と市立病院で働く職員の職場環境改善への期待を裏切った損害をあげています。
この問題については、これまでも議会で議員が質問していますが、問題ないという市長の答弁でとどまっていて、残念ですが、予算を議決した議会は、問題究明をあきらめました。
監査結果は市長の主張に沿い、広い裁量権を根拠にして棄却
今期の監査結果でも、これまでの市長の議会答弁と同じように、市長に認められている広い裁量権(自分の考えのままに決定する権利)の範囲内の行為であること。また、4,256万円の支払については、未完成の設計書類の代金として支払ったから問題ない。以上の理屈で、市民の請求は認められません(棄却)でした。かなり市長の主張に沿った判断と受け取れました。
この監査結果について、請求した市民がどう思い、どう対応しようとしているかは別にして、私見としての評価を以前書きました。改めて、整理してみます。
市長の裁量権は窮屈 実質は法令の範囲内の裁量権しかないはず 予算も市条例と同じ位置づけ
先ず、広い裁量権について。市長には、新しい課題に対して政策を打ち出していくために、確かに、裁量権が認められています。とはいっても、市にお金があるからといって、市長は自分の思うまま勝手には支出できない。予算案を議会提案して可決してもらう必要があります。また、財政が厳しからといって、勝手に税率を上げられない。税条例の改正の議決が必要。広い裁量権があるとはいっても、「朕(ちん)は国家なり」と豪語した、17世紀フランスの王様とは違います。かなり窮屈です。要するに、法令(法律、政令、条例、規則等)の範囲内の裁量権しか持っていません。予算も市条例と同じ位置づけです。
業務の予算は議決されて市民は期待し、市長は責任を負っている そこを認めなかった
このような前提のなかで、監査委員はなぜ問題ないと結論付けたのか。その理由は問題となっている業務契約の締結あるいは解除に関しては議会議決が必要であると法律で定まっていないからというもの。
確かに、契約の締結と解除は病院事業管理者である市長の権限です。しかし、その前提として市長が契約が締結でき権限を持っているのは、業務を行う予算が議決されているからです。議会、そして市民は業務が行われることを期待している状態であり、市長は行う責任を負っていることになります。それなのに、市長は就任直後議会に相談も断りも一切なく、業務を中止し、その後解約した。この横暴で独断的な行いをなぜ監査委員は認めたのか?それは、市長には広い裁量権があるからというもの。おまけに、市長の議会への事後報告があったことを、監査結果では、「民主的な手続き」と何度も高く評価までしている。
旧来の判断ではそのような判断もありましたが、本当にそうでしょうか?もっと深い議論を期待していました。ところで、この監査委員の判断に議会は、そして市民は納得できるのか? 少なくとも、議会に関しては、議員が1人代表して監査委員になっています。
なお、参考までに、市長の言い分では、選挙で駅前中止を公約にして当選したからということを根拠にしています。これでは、公約にさえ掲げてあれば、何でもできる。また、現地半額建替えのとおり、自分勝手にやめることもできるという身勝手な筋の通らない論理がまかり通ることになる。
市条例の規定に関する判断を監査委員は避けた 市長は本来であれば、条例改正で民意を確認すべき
この身勝手な論理を押し通した、最たるものが、市条例で定められている駅前市民病院の整備業務を止めたことに関して。これも、上で述べた予算と同じ。議会で駅前に市民病院ができることを定めた条例が可決成立している。ということは、議会・市民はその完成を期待していて、市長はその実現の責任を負っている。それなのに、市長は就任直後、条例改正どころか、議会に相談もなく、業務を中止・解約した。
このことに関しては、法令である市条例に違反した行為であり、不当と判断される疑いがありそうですが、監査結果はこの問題には一切触れていません。なお、市長の言い分は、相変わらず、選挙で当選したからというものです。
本来であれば、条例改正を議会提案して、条例で定まっている駅前Aブロックを消すか、別の場所を定めてから、業務の中止と契約の解除を行うことが、誠実な民主主義手続きです。それによって、当選を持ち出さなくても、民意が確認・確定できます。
次の定例会での監査委員の報告に望みをつなげるか?
最後のお金の面でも、監査委員は未完成品があるから良いとしていますが、これについては以前書いたものに委ねます。
今回の監査は、市民からの請求に基づくものです。ただし、監査委員は本来の職務として、この件について別に独自に監査を行い、次の定例会で報告することになっています。そこに何らかの望みをつなぎたいと思います。