請求は認められず棄却 市長の主張をそのまま認めた内容

 市民から出されていた、駅前新病院の設計業務等の契約解除についての住民監査請求の結果が出ました。期限の7月6日より1週間近くも早く。昨日、7月1日、市のホームページで知りましたが、新聞報道では6月30日付となっているようです。 結果は、市民からの請求は認められず、棄却でした。市長の主張をそのまま認めた内容です。

 この住民監査請求ついては、去る6月15日に公開で行われた請求人の陳述の模様を紹介し、私見として論点も述べました。

 住民監査請求は地方自治法で保障されている参政権のひとつだとはいえ、最終判断は市の監査委員の権限に委ねられているため、結果が出た以上はあれこれ言ってみても仕方はありません。しかし、今後の参考のために、公表されている監査結果を確認してみます。

請求の趣旨は、条例に基づき進んでいた事業を独断で中止 未完成品に支払いを行った

 論点は大きく2つありますが、主になる点について取上げます。

 まず、請求人の請求の趣旨を公開資料から整理すると次のようになります。

①「野洲市病院事業の設置等に関する条例」で野洲市民病院の位置が駅前市有地Aブロックと定められている。

②また、『広報やす2020年7月1日号』では、駅前新市民病院の開院時期までも告知されている。

③市の病院事業の暫定施設として現市立野洲病院が位置づけられているが、この施設は老朽化が進み、耐震対策もされていない、医療施設の基準も満たしていない極めて危険な状況であり、早急な移転新築が必要である。このため、事業が進められてきた。

④その事業のひとつである、新病院の設計業務等が議会で議決された予算に基づき進められてきた。しかし、市長は就任後、その業務契約を独断で途中で中止・解約し、市に損害を与えた。

⑤その損害は、未完成の設計図書類に合計4,256万円を支払ったこと。老朽化して危険な市立病院の改築の見通しを失わせたことによる、市民の健康医療への損害。また、市立病院で働く職員の職場環境改善への期待を裏切った損害。

出来高による成果物に適法かつ正当に対価を支払った 損害は生じていない

 これに対して、監査結果での監査委員の判断は整理すると次のとおりです。

①業務委託は議会の議決を要する契約ではない。

②契約解除に当たっては、いずれの業務委託においても市長は市議会への報告等の手続きを経て進めている

③当該業務委託の一時中止においても契約条項に基づく処理がなされ、出来高による成果物を受領のうえ、その対価としての支払いが関係法令等に基づき適法かつ正当に行われている。

④当該契約解除に 当たって違約金は発生しておらず、市への損害は確認できない。したがって、この意味に おいて上記支出は、違法又は不当なものとは言えず、請求人らの上記主張には理由がないと判断した。

 

監査結果は条例に基づき進んでいた事業の中断と未完成品への支払いを認定していない

 監査委員の判断を柱にして請求の主張と比べてみます。

①の議決については、判断は根拠法令を明示していませんが、「地方公営企業法」第9条第8号及び第40条第1項の規定で議会の議決は要らないとされているのでそのとおりです。そのことは請求人も承知の上だと思います。

請求人の趣旨は、「野洲市病院事業の設置等に関する条例」で駅前病院が正式に定められ、市広報で開院時期までも約束されている。言いかえれば、病院整備と開院は市民に約束され、市長はその責任を負っている。このような前提で議決予算をもって進められている設計業務等を就任直後、独断で中止し、その後解除した。このことを問題にしている。

しかし、監査委員の判断では、狭い法律論で処理していて、この点に関して一切触れていない。

監査委員の判断の論理を突き詰めれば、例えば、市民は条例で定められた使用料や税を払わなくても済むという、あってはならない結論に行きついてしまう。本来、先に条例を変えれば済むこと。

②の契約解除に関する議会報告等については、当初の中止に関しては事後であったし、市議会が業務の継続と完了を求める決議を昨年12月に行ったことの重さも評価していない。

③の「成果物」に関しては、請求人は未完のものには本来の価値がないことを問題視している。しかし、判断は出来高を受取ってその対価を支払ったから問題ないとしている。これについては以前例にあげたように、住宅建築を注文して、屋根ができる前に解約して出来高を受取るようなもの。そのようなものに本来価値はない。住宅建築の場合、施主が納得して対価を払うのは覚悟の上。しかし、今回の場合、施主に当たる発注者は市長(正確には病院事業管理者である市長)であるが、本当の施主は市民。そして、市長は選挙結果で市民から駅前病院を止める民意が示されたから、即日中止したと強弁している。ところが、それを証明する証拠はない。監査委員も、その確認なしで市長の主張をそのまま認めた。

この論で行けば、市長選で勝てば、ということは、市長になれば、自分の解釈で何でもできるということになる。まさに、独裁制を認める判断になります。

本来の民主主義的なやり方では、まず市長は条例改正を議会に提案し、可決後、行うべきものです。

④契約解除の違約金が発生していないから損害が発生していないということについてもどこまで精査されたか疑問。確かに費目上は、違約金はない解約になっている。しかし、昨年11月2日に中止を通知し、今年3月に解約。その間、万一の再開に控えて配置していた技術者の確保などの経費が一切発生しなかったのか。また、業者が業務完了によって期待していた利益が一切失われることはなかったのか?それらが密かに出来高のなかに積まれていないかどうか監査委員は解約関係資料で確認をしたのかなど疑問が残ります。

万一、昨年11月2日の中止通知が解約と同じレベルの意思表示であり、以後の経費が発生しなかったと仮定したら、監査委員が、「民主的な手続き」とまで評価して、市長が市議会への報告等の手続きを経て進めたという、市長擁護の判断は根拠を失います。

さらに、就任直後の早期に中止したから経費が安くなったという理由についても、以前書いたとおり、完成しておいた方が、交付金と交付税とにより、実質的な市民負担は押えられたはずです。

市長の裁量権を広く解釈し、過度に市長の主張に寄り添った判断 「民主的な手続きを経ている」? 

まだまだ疑問点は多くありますが、この辺りでまとめます。

 気になったことのひとつは、監査委員が、旧来の狭い法律・手続き論のなかで判断し、市長が市条例に反した行為を行ったという視点からの検討を避けたことの問題。いいかえれば、市長の裁量権を広く解釈している点。もっと広い問題意識をもって市民の主張を検討できたのはないかと残念です。

 もうひとつは、過度に市長の主張に寄り添っていること。

 「世論をほぼ二分する市民病院建設問題に関して、元の整備計画への反対を表明して市長選に当選した被請求人が、 同計画の見直しのため、同計画実施のための本件各業務委託を一旦中途解約し、成果物 を受け取ったうえ、出来高払いをするという判断をしたことは、不自然、不合理なもの とは言えず」という判断。監査委員が病院問題で世論が二分云々という判断を行うことは適正か?

 また、引用が長くなりますが、ここまでいうのかという長々とした市長擁護のコメント。「被請求人は、契約解除に至るまでに、外部の専門家や市民の代表等で構成する野洲市民病院 整備運営評価委員会(専門部会を含む)の6回の開催、市議会全員協議会に3回の報告 と説明、さらには、令和3年3月4日の当該業務委託の契約解除日には市議会に対し、 当該業務委託の契約解除に係る資料提供と報告をするなど、一定の民主的な手続きを経ていることが認められる。」

 以上のとおり、市長は議会に対しては、「報告と説明」という一方通行の行為しか行っていない。協議も議論もない。これを「民主的な手続き」とあえて何度も高く評価している監査結果は、個々の判断だけでなく、全体の質の面でも信頼性を欠く結果となっています。