請求人の市民と市長がそれぞれ陳述 結果は7月6日までに 

 今日6月15日、市の病院整備に関する住民監査請求の陳述が公開で開かれました。請求人である市民と市長がそれぞれ陳述を行いました。傍聴した複数の人から概要を聞いたので紹介します。

 そのまえに、市監査委員事務局のホームページに掲載されている情報を引用します。

請求の内容

1請求人:野洲市民の方3名

2請求の要旨:申請書原文一部抜粋

   野洲市長 栢木進は、「野洲市民病院整備修正設計業務委託」及び「野洲市民病院開設支援第4期業務委託」の2件の業務を完了することなく、独断で中途解約し、契約の目的となっていた成果物を受領していないにもかかわらず、令和2年度野洲市病院事業会計において、合計4,256万円を不当に支出し、市に損害を与えた。

監査期限

令和3年7月6日(火曜日)

独断で契約解除し、未完の目的物に代金を払い、病院整備の見通しを失わせた損害 

 請求人の陳述内容を紹介しますが、先に要点を述べれば、次のとおりです。

 市条例で定められ、市広報で開院時期までが知らされている、駅前病院の設計業務を独断で契約解除した。その結果、契約の目的物が完成していないのに代金を払うとともに、病院整備の見通しを失わせるという損害を市に与えた。したがって、損害の賠償を求めるとともに、「野洲市病院事業の設置等に関する条例」に定める病院整備を速やかに進めることを求める。

 なお、詳しい内容は、煩雑になるので、最後に参考としてつけておきます。

市長の主張の結論は、請求内容には正当性がなく、行為は適法で適正なものであった 

 以上の請求に対する市長の陳述を紹介します。ほとんどが契約業務発注の手続きに費やされていていた。結論は、請求内容には正当性がなく、市長が行った行為は適法で適正なものであったという内容。市長の主張を整理すれば、次のとおりです。

①昨年10月の市長選挙結果を受け、前の市長が10月31日で退任した。就任直後の11月2日に契約業務を中止し、その後解除した。このことは、法に違反していない。

②契約書に基づき行ったものであり、違法でない。

③重要なことなので、市議会全員協議会はじめその都度議会には十分説明した。

④成果物は出来高で受取っており、請求人が主張している成果物を受け取らず代金を不当に支出した事実はない。

⑤契約解除は市長選挙の公約に対して示された民意を実現するためのものである。⑥最高裁の判例に照らしても、請求人が主張しているような、市長の広範な裁量の範囲を逸脱しているものではない。

⑦契約解除により契約料を軽減させ、市の損害拡大を防止した。

 

双方の主張の評価 要点を整理

 私見ではありますが、双方の主張の評価を試みてみます。

 まず、契約解除の根拠と手続きは正しいか?

 改めてそれぞれの要点を整理します。

 請求人の主張は、業務は病院事業設置の市条例及び議会で可決された予算に基づき進められていている。したがって、市長はその拘束を受ける。したがって、独断での解除は権限の逸脱で、市条例に反する。

 他方、市長の主張は、国の法律には独断での解除を妨げる規定はない。また、契約書には契約解除の定めがあり、それに基づき行った。決議に拘束力はない。そして、究極の根拠は市長選挙で示された民意。

検証1 契約解除の根拠と手続きは正しいか?

 そこで、契約解除は法律でも契約条項でも禁止されていないので、解除可能。したがって、市長の持っている広範な裁量の範囲を逸脱していないという市長の主張を検証してみます。

 たしかに、国の法律では禁止されていない。しかし、請求人が主張するように、市民病院事業は、病院の位置まで含め、市の条例で定められています。

 いまさら言うまでもなく、日本国憲法第94条で「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。」とある。また、条文を引用しませんが、地方自治法第14条で条例制定権が定められている。条例は日本国憲法を頂点とする国内法体系の一部をなすものであり、名前は法ではありませんが、自治体内においては法です。

 したがって、法の一環である市条例によって定められていることを無視した行為が法に反しないという論理は通らない。

 ちなみに、野洲市役所の位置は、『野洲市役所の位置を定める条例』で野洲市小篠原2100番地1と定められている。病院の場合もこれと同じことです。この条例をそのままにして、市長が独断で別のところに市役所を建てたり、現市役所を解体したりしたら条例(法)だし、市民も納得しない。

 さらに、市長究極の根拠である選挙で示された民意を実現するためという論理も通らない。請求人が主張しているように、選挙公約は病院の現地半額建替え、水道基本料減免、都市計画税保留、子ども医療費6年生まで無料化等々多数あり、当選が駅前病院中止公約だけによるものとは断定できないからです。

検証2 契約では完成品が成果物 書類や図面は成果物でない 駅前に戻り自分で自分の主張を裏切っている

 次に損害について。これは成果物の考え方で分かれます。

 請求人は中途半端なものは成果物でないと主張しているが、市長はできたところまでを成果物と主張。しかし、契約では設計の完成品を成果物としているわけだから、解約の結果は中途半端な単なる書類や図面をもらったことになる。それでは、建築確認や施工など次の段階には進めない。市長はそのようなものに、代金を払ったことになる。完成しておけば、万一使えたかもしれない。例えれば、2階建ての家の建築を注文して、1階部分までできたところで解約したようなもの。そのような中途半端なものには住めないし、逆に解体費用がかる。

 また、市長は、契約解除により契約料を軽減させ、市の損害拡大を防止したと言っている。しかし、完了させておけば、交付金と交付税がもらえた。実際、市長はそれをあてにして、駅前に戻ってきているではないか。自分で自分の主張を裏切っている。

検証3 傍聴者が大いに驚いた 陳述の場で監査委員が結論を述べてしまった

 その他、気づいたところをまとめて書きます。

 市長は事が重要だから市議会には十分説明したと言っています。しかし、行ってからの、結果説明であるし、議会決議を無視したことに関しては答えていない。これ以上は、議会の判断です。

 議会協議や市民に説明もなしに、就任直後に独断で契約中止・解除をを行った根拠を選挙で示された民意においているが、それなら現地半額建て替えも断固実現をしなければならないことになります。

 最高裁の判例に照らして市長の有する広範な裁量の範囲を逸脱しているものではないと主張しているが、具体的に判例をあげていない。これでは、第三者が検証できない。

 最後に、傍聴者が大いに驚いたことがあります。

 今日は双方の陳述の場であり結果は後日。それなのに、議会選出の監査委員が、先に結論を述べてしまったからです。市長の陳述後、陳述をあらかじめ熟読し、市長の主張どおり法的に問題がないことが十分に分かったと発言したからです。

 条例を法ととらえるかどうかは、上記のとおり重要な争点。市長には広範な裁量権はありますが、それは法令によって与えられている、あるいは制約を受けている範囲内においてです。条例は市民への約束であり、市民を拘束するものでもある、市内「法」です。日本国憲法や民法が国内「法」であるのと同等に市内「法」。ましてやその議決権を持っている議員がこの認識であることは残念です。

 

(参考)請求人の主張概要

 野洲市長栢木進は、市民病院整備修正設計業務委託と市民病院開設支援業務委託の2件の業務を完了しないで、独断で中途解約し、契約の目的となっていた成果物を受領していないにもかかわらず、令和2年度野洲市病院事業会計において合計4,256万円を不当に支出し、市に損害を与えた。

 市長の行為が違法又は不当である理由として、

「野洲市病院事業の設置等に関する条例」において野洲市民病院の位置が野洲市小篠原2203番地1(駅前市有地Aブロック)と定められている。また、『広報やす2020年7月1日号』では、駅前新市民病院の開院時期までも告知されている。

現市立野洲病院は老朽化が進み、耐震対策もされていない、たいへん危険な状況であり、早急な移転新築が必要であるため、事業が進められてきた。

 このような状況のなかで、令和3年度末完了を目指して、市議会議決予算に基づき、委託契約が締結され事業が進められてきた。また、市議会では、昨年12月に設計業務の継続完了の決議を可決している。市長は、それに反して、設計業務の中途解除を行った。これは、二元代表制における議会審議を無視するものであり、民主的適正手続きを欠いた行為である。

 以上の理由により、市長の行為は市長の有する広範な裁量の範囲を超え、違法又は不当である。

 さらに、上記行為は、無駄に支出することにより市の財政を悪化させており、地方自治法2条14項、地方財政法4条1項で定める、地方公共団体の財政は最小の経費で最大の効果を挙げなければならない、という原則に違反した不当な行為である。

 市長には広範な裁量があるが、それは当然法令等の範囲内のものであり、それを行使するに当たっては、その根拠を明確に示されるべきものである。

 今回の行為は、「野洲市病院事業の設置等に関する条例」等の市条例の定めに反しており、その定める範囲を明らかに逸脱し、市長の独善的ないしは政治的判断によって市に大きな損害を与えた。

市に与えた損害は、合計4,256万円を不当に支出したことによる経済的損害と老朽化して危険な市立病院の改築の見通しを失わせたことによる、市民の健康医療への損害。また、市立病院で働く職員の職場環境改善への期待を裏切った損害。