宣言自治体の広がりに期待して達成可能か? 

 いつものとおり朝のラジオニュースの後、そのまま流し聞きをしていると気候変動の解説番組になりました。

 バイデン米大統領が現地時間4月28日に議会で初めて行ったの施政方針演説のなかで、気候変動の危機は私たちだけの戦いではなく、世界規模の戦いだと述べた。また先のバイデン米大統領主催の「気候変動サミット」において米国はじめ各国は高い目標設定を表明した。日本も2030年度までに日本の温室効果ガス排出量を2013年度比46%削減する新たに高い目標を表明。そして、この目標達成の道筋と可能性が放送の内容でした。

 大学の研究者で気候変動問題に詳しいと紹介があった解説者の説明は大よそ次のとおり。日本が掲げた目標達成のためには毎年4500万トンの温室効果ガスの削減が必要であり、野心的な目標である。ただし、2013年から2019年の間毎年3000万トン減らした実績がある。これは省エネや再エネ拡大による。毎年4500万トンはこの実績の1.5倍。この後の野心的な目標達成ができるかどうかについてのコメントは、答えが明確でなかったのか記憶が定かではありません。ただし、最後のあたりにあった、2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを宣言を行った自治体が370以上あり、人口では1億1千万人を超える地域となっている。今後この広がりに期待するといった主旨のコメントでした。

2013年は温室効果ガスが排出過去最高 その後の削減は省エネ・再エネだけではない

 2013年から2019年の間毎年3000万トン減らした実績があり、これは省エネや再エネ拡大によるというコメントが気になりました。このことは間違っていませんし、事実です。しかし、抜けている要因があります。

 そもそも、なぜ日本は2013年を基準にしたのか。米国は2005年を基準にして50~52%削減。カナダも2005年比40~45%減の目標となっています。その理由は恐らく、2013年は過去最高となる14億トン強の温室効果ガスが排出された年だからだと思います。2013年が最高値を記録した理由は、2011年の東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故により全国の原子力発電所が止められ火力発電が増えたため、それ以降温室効果ガス、特に二酸化炭素の排出が増えたことによります。その後の減少は省エネや再エネ拡大による部分もありますが、一部の原発が再稼働されたことや製造業における生産量減少等も寄与しています。省エネや再エネだけの成果ではない。

温室効果ガス排出量実質ゼロは実現の工程より表明に主眼 生活と産業・経済への制約が伴う

 それよりも気になったのは、2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを宣言です。これは環境省が進める2050年ゼロカーボンシティ表明のことだと思います。もちろん、パリ協定の実現を目指して、温室効果ガス排出量実質ゼロへの意気込みを表明することは大事です。そして、自治体では計画が作られ、環境省は削減データの集計や分析のための支援ツールを用意しています。しかし、それぞれに実効性の高い工程表があるのかといえば、疑問がないとは言えません。まずは、自治体の首長が表明することに主眼が置かれている。

 先日も書いたとおり、気候変動対策は絶対必要であり、時間的な余裕がないことはいうまでもありません。2030年度までに温室効果ガス排出量を2013年度比46%削減を国際公約にした限りは、本気の取組みが必要となります。それによって、気候変動によるリスクは回避されますが、他方、生活と産業・経済への制約が伴ってきます。バイデン米大統領が描く、何百万人の雇用と経済成長、そして世界中の人々の生活水準を向上させる機会を生み出すことができるというバラ色の世界だけではないはずです。