命綱なしの崖のぼりと同じ 公共政策としては極めて珍しいやり方が通用 

現在の市立病院の施設が医療機器等も含めて大変老朽化していることは、市長はじめ市民の共通認識です。それなのに、新病院整備の見通しがなくなったままです。

 それは、ほぼ出来上がっていた駅前新病院の設計を途中で中止したうえ、市長公約の現地建て替えも断念。これから改めて用地選定をはじめて、その用地が決まってから構想を見直すという市長の方針になっているからです。そして、構想の見直しは年度内と明言していますが、間に合いそうにはありません。

 常識的な判断であれば、あえて現地建替えに挑戦したが、ダメであれば既定路線に立ち戻る。あるいは、あらかじめ確実な案を用意して挑戦する。これでは、命綱をつけないで崖のぼりをするようなもの。公共政策としては極めて珍しいやり方が通用している状況です。

東館の耐震強度(Is値)が0.3レベルと極度に危険 中枢機能である手術部門などがある

 このようにたちまちの新病院整備の見通しがなくなった。そのため市長は市立野洲病院の老朽化対策として、外壁のひび割れと屋根の雨漏り補修、病棟の内装やトイレの改修を行うと説明しています。ただし、いつ実施するのかは明らかになっていません。今年度は設計費も予算化されていないようなので、工事は早くとも再来年になります。

 しかし、問題はその程度でおさまりません。これまでにも書いてきたとおり建物全体の老朽化に加え、東館の耐震強度(Is値)が0.3レベルと極度に危険な状態であることです。東館には病棟はもちろん、病院の中枢機能である手術部門、エネルギー部門、放射線部門、生理機能検査部門、厨房などがあります。

耐震性能が低く、移転建て替えによる全面的更新が必要 『野洲病院支援継続可能性調査業務報告』

 このことについては、以前表紙だけ紹介した平成28年2月の『野洲病院支援継続可能性調査業務報告』から、引用します。市長は当時市議会議員として当然説明を受けている内容です。

(4) 施設改修の可能性検討(ハード面からの検討)

既存東館を耐震補強・修繕して使い続ける可能性について

東館の中間階・下層階は「病棟」「手術部門」「エネルギー部門」そして 1階には「厨房・ 放射線部門・生理機能検査部門」等が配置されており、これらの機能を一時的に停止する 事は現実的には難しい。 補強工事は全体を同時に進める方法とゾーン毎順次進める方法が考えられるが、躯体補強の工事となるので、工事ゾーンの隣接諸室や上下階の諸室に対しても「騒音・振動」の影 響は大きい事が予想され、工事ゾーン以外でも現実的な医療行為は難しくなる事が予想さ れる。 工事の為に「仮設建物を建て」 工事エリアを空にして工事を行う方法もあるが、東館は「手術部門」「エネルギー部門」「厨房・他」の病院の中枢機能であり、仮設建物対応は投資予 想金額も含め現実的ではない。」

(5) 施設性能についての総合所見

本建物では、各所で経年劣化が見られ、躯体の老朽化、仕上げ材の劣化、設備機器の劣化、能力不足が顕著である。特に重要視するものは、建物の耐震性能が低く、耐震補強を必要とするが、病院建物の性格上、補修工事が極めて困難な点である。

以上の状況から、医療機関としての継続を前提とした場合、移転建て替えによる全面的更新が必要となる。」

 

病院を半額で建てることにこだわって、命をないがしろにしている 重大な責任問題

 現在野洲市の公共施設で耐震対策ができていないのは、発達支援センターと市立病院です。発達支援センターは既に移転新築の事業が進んでいるので、残るのは病院だけ。病院は駅前への移転新築事業を具体的に進めていることを前提にして、2年弱前に耐震対策ができていない建物を無償譲渡で取得したもの。しかし、当面移転新築の具体的なめどがない状態で使い続けることは、大きな問題です。命にかかわる危険を認識していながら放置していることになる。

 

いまだ病院を半額で建てることにこだわって、命をないがしろにしていることになります。同じように耐震対策ができていない場合でも、対策として具体的に着手されている事業があるかないかによって責任のレベルはまったく異なります。大地震が起こらないことを願わないではいられませんが、今回の場合は着手されていた事業まで止めて、危険状態だけが放置されている。責任は一層重大です。