「デジタル改革」の根底には、日本のデジタル化の遅れの認識 焦りさえ

 デジタル庁の創設を柱とした「デジタル改革」に関連する法案が今の国会で審議されています。これら法案の関係資料に45カ所の誤りがあり、さらにその正誤表でも3カ所の誤りがあったことが騒ぎになって、平井卓也デジタル改革担当大臣が衆院本会議で陳謝したことがありました。

 それは余談として、「デジタル改革」と聞くと電子情報機器やシステム、人工知能(AI)などのことが浮かぶと思います。さらに人によっては、アルゴリズム、データ、クラウドなどのことまでが。

 今回の「デジタル改革」の根底には、日本のデジタル化の遅れの認識があります。このことは「今回の感染症で、行政サービスや民間のデジタル化の遅れが浮き彫りになった。役所に行かずともあらゆる手続きができる社会を目指し、デジタル庁が司令塔となり、世界に遜色のないデジタル社会を実現したい」との菅総理大臣の言葉が示しています。焦りさえうかがわれます。

基本方針のビジョンは福祉に関するビジョンのように見えるが

 今回の改革及び制度化の基本的な考え方は、『デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針令和2年 12 月 25 日)』に示されています。そのなかで、「デジタル社会の目指すビジョン」として掲げられていることの要点は次のとおり。

 「今般のデジタル改革が目指すデジタル社会のビジョンとして『デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会』を掲げ、これに向けた制度構築として、IT 基本法の全面的な見直しを進める。このような社会を目指すことは、『誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化』を進めるということにつながる。」

 ビジョンですから、当然抽象的にならざるをえませんが、デジタルとIT という言葉を省いて読むと、福祉に関するビジョンのように見えます。もっと、技術的、経済的な趣を期待していると意外の感があります。

 

「デジタル化」は枠、言葉を変えれば翻訳作業

 ビジョンに続いて、「デジタル社会を形成するための基本原則」として、① オープン・透明 、② 公平・倫理 、③ 安全・安心 など全部で7つの項目が掲げられています。ここにも、ビジョンと同様福祉的な概念である⑦包摂・多様性が掲げられています。良く目配り、気配りがきいた優しい方針となっています。

 私も自治体も含めた政府の機関とそれが市民・国民に提供するサービスの「 デジタル化」は進める事には賛成です。ただし、遅れの認識のひとつに昨年の新型コロナウイルスに関わる10万円の定額給付金事務の混乱があるようですが、あの場合は「デジタル化」だけの問題ではなかった。問題は住民基本台帳システムとマイナンバーシステムという別の仕組みを引っ付けようとしたことに混乱のもとがありました。要するに、課題は何を「 デジタル化」であり、その何の方の合理化なり改革なりを合わせて進めない限りは本来の目的が達成できません。この何が、中身になる重要なものであり、「 デジタル化」とは枠です。言葉を変えれば翻訳作業と同じです。もちろん翻訳も生産的な作業であり、新たな創造を生む機縁にはなりますが。

問題はデジタル・デバイド(情報格差)にとどまらない

 今回の「デジタル改革」の動きから入っていったので、話がそれました。今回書き出した意図は、「デジタル改革」を進めるの当たって、重要なことは改めて人権の考え方を深く掘り下げるとともに、その制度化の重要性を考えることでした。

 デジタル化というと個人情報の流出などによる人権侵害や被害がまず思い浮かびます。先般も九州のある市のホームページで、マイナンバーカード、運転免許証、住民票、源泉徴収票などが写った画像データ66人分が約1年半もの間、外部から閲覧できる状態だったことが報道されていました。

 頻発するこのようなことの防止は重要ですが、それ以上に重要なことは、これも言われて久しい、デジタル・デバイド(情報格差)の問題。このことに配慮して、先の方針の原則に② 公平・倫理 や⑦包摂・多様性が入っているのだと思います。しかしこれで十分なのかです。

 デジタル・デバイドの負の影響は貧富の差の拡大など多様で広範囲に及びますが、詳細はここでは手に負えません。ただし、一般的に経済(お金)と技術で解決されると考えられいますが、人権問題としての対応が必要です。

AIは責任を果たさない デジタル化と同じエネルギーを人権に注ぐ必要 人権に付け焼刃は効かない

 最後に、デジタル化によって手続き・過程(プロセス)がブラック・ボックス化してしまうこと。人工知能(AI)による自動化の場合典型的です。AIの場合はプロセスが適正でも最初段階の間違いが大きく効いて来る。万一間違いが発見されても、拡散し展開しているところの修正までは及べないということが生じます。本人に全く責任がないのに個人情報の入力段階でミスがあると結果として、大きな人権侵害に至る場合が想定されます。現に今回の、今月末から全国での本格運用を予定していたマイナンバーカードの健康保険証としての本格運用を先送りもこのケースです。

 デジタル化は便利で場合によっては経済的な利点もあるが、ブラック・ボックス化する。特に、AIの場合、人工の知能とはいえ、責任感は持っていないし当然果たしません。そこから様々な人権侵害の恐れが出てきます。このような負の影響は社会的立場の弱い人ほど受けやすいし、回復が困難になります。デジタル化に注がれるエネルギーと同等のエネルギーが人権に注がれる必要があります。植物を伸ばすためには土を耕し水をやる必要があるように。人権に付け焼刃は効きません。誠実な対応が必要です。