アナログ・レコードとハイレゾ音源配信が同居 

 聴く頻度が落ちていたアナログ・レコード(LP)を改めて積極的に聞き出したのは、5、6年前から。きっかけは、10年程前からCDより高音質なスーパーオーディオCD(SACD)の選択肢が増えてきたのでそちらに移行。その後しばらくしてからブルーレイディスク・オーディオ(Blu-ray Disc Audio)が出てきたのでそちらも楽しみ出すなかで、理屈抜きに聴く楽しさの実感としてアナログ・レコードに戻ってきた次第。現在ではハイレゾ音源配信の利用も加わって音楽を聴く手段(メディア)は多様に。もちろんラジオもテレビも。おそらく、世代が近ければ大なり小なり同じような流れをたどっている人は多いいのではないかと思います。

リサイクルショップでアナログ・レコード ニコラーエワのバッハ 

 一時は処分しようかと思っていたアナログ・レコードがそのままだったので、まずはそれを楽しんでいました。しかし、もっと違うのも聞いてみたい。最近はアナログの新しい盤が出るようになりましたが、5、6年前は最近と違って新しい発売がなかった試しに全国チェーンのリサイクルショップをのぞいてみると意外や興味をそそられる盤が無造作に並べられていました。値段も、物としての値付けになっているので、最近ネットで検索するのと違って手頃。ポリーニやカール・ベームなどの演奏で手持ちになかったものをまず購入。盤面の状況が心配でしたが、帰宅してかけてみると楽しむには問題なし。その後も何度が立寄って、かつてはあまり関心のなかった、ハンス・クナッパーツブッシュ指揮のものやタチアーナ・ニコラーエワのピアノでのバッハ演奏なども入手。なかでもニコラーエワのピアノには強く引き付けられ、その後出たCDの全集でも楽しみました。

フリッチャイ指揮の『フィガロの結婚』 楽しく、音質も新鮮で伸びがある演奏と録音

 前置きが長くなりました。当時手に入れて針を落としていなかった盤がいくつかありました。そのなかに3枚組の箱もので、箱が割り合い傷んでいたこともあってそのままになっていたものが。それを最近取り出して聴いてみました。箱の見かけては違って盤は比較的きれい。そして、聞き出して楽しい演奏が流れてうれしい驚きが。それがフェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリン放送交響楽団のモーツァルト『フィガロの結婚』のLP。歌手はレナート・カペッキ(フィガロ)、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(アルマヴィーヴァ伯爵)、マリア・シュターダー(伯爵夫人)など。1960年の録音です。レーベルは今はなくなっているドイツのヘリオドール(HELIODOR)。発売は日本ポリドール。1960年代後半から70年代にかけて廉価版のシリーズとして発売されていたようです。そうであっても演奏はもちろん音質も新鮮で伸びがあると感じられます。この録音は今は3枚組のCDでEloquence Australiaから出ていて手に入ります。

フリッチャイ 『フィガロの結婚』 晩年の健康が厳しい時期 深く生き生きとした演奏

 指揮者のフリッチャイはクララ・ハスキルのピアノによるモーツアルトのピアノ協奏曲、またブルーレイディスク・オーディオで出たドヴォルザークの交響曲第9番『新世界より』などでは親しんでいました。いずれももとはヘリオドール・レベルで出ていたようです。しかし、深い関心はありませんでした。そして、ジャケットの写真からは、そこそこ高齢まで活躍した指揮者だと思っていたほどの薄い認識でした。

 改めて、調べてみると、天才指揮者と評価されながら活躍途中でなくなっています。。先にあげたドヴォルザーク交響曲第9番のブルーレイディスクもフリッチャイ没後50年の2013年に出たものでした。

 1914年にハンガリーのブダペスト生まれ。バイエルン国立歌劇場の音楽監督であった1957年に白血病になり、大手術後、1961年のザルツブルク音楽祭で、モーツァルトの『イドメネオ』を指揮して復帰。しかし、病状が悪化して1961年12月に指揮活動を中断し、1963年2月に48歳の若さで亡くなっています。

 この『フィガロの結婚』は健康が厳しかった1960年9月にベルリンのイエス・キリスト教会で演奏・録音されています。ところが、記録された音楽はそのことを感じさせない。深く生き生きとして私たちを楽しませてくれます。歌手や楽団も指揮者の健康状態を知っていたのに。

 フリッチャイはカラヤンとは6歳年下、同郷のショルティとは2歳年下、ジュリーニとクーベリックとは同年、バーンスタインとは4歳年上。オペラや交響曲などある程度録音はあります。しかし、健康が許していれば、コダーイやバルトークに直接教えを受けた指揮者であることも含め、もっと多くのすばらしい演奏を残したことと惜しまれます。