コロナ禍で厳しい状況の事業者と市民への効果的な支援策を早く期待

 菅首相の昨日1月27日参院予算委員会での生活保護発言が話題に。私も昨日午後ネットのニュースで見て驚き、というより、極端ですがやや戦慄を覚えました。理由はこれから述べますが、冷たいからといより、制度理解への心配からです。

 今日になって詳しく報道されたり、さまざまに論評されています。首相の発言への批判でなく、古くて固い制度の改善、そして、なによりも早くコロナ禍で厳しい状況にある事業者と市民への効果的な支援策が行われることを期待して整理します。

国難の時の制度ではない 年頭所感「この未曽有の国難を乗り越え」と整合しない 

 生活保護制度は、いまさらですが、法に次のようにあります。

 第1条「日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。」もの。最低限度の生活を保障と自立を助長の2つが法の目的です。

 もう少し言葉を補えば、制度の趣旨・設計としては社会が平常状態にあっても何らかの理由で生活困窮状態に至った人を支援する仕組みです。

したがって、国難の時の制度ではありません。首相の年頭所感の「国民の皆さまの命と暮らしを守り抜くことを固くお誓いし、感染拡大防止と経済回復に、引き続き総力を挙げて取り組んでまいります。皆さまとともに、この未曽有の国難を乗り越え・・・」と整合しないのではないかと思います。

 

平常時と国難時の違い 「自立を助長」できない状況で生活保護は機能しない ベクトルが逆

現在のコロナ禍の現状から平常時と国難時の違いについてもう少し述べます。法には「自立を助長することを目的とする。」とありました。しかし、現状は感染が拡大し、まず健康、医療が心配。そして自立しようにも、事業も外出も規制があり、その結果職もない。このような流れで生活困窮状態に至る、あるいは生活が立ちいかなくなり、感染が原因でなく生命の危険にまで及んでいる人が増えています。

 平常な社会状態で何らかの理由で生活困窮状態に至るのとはベクトルが逆。ここで生活保護を持ち出しては国が自ら制度を否定することになります。

 だから、委員会で質問者が言っているように、何らかの有効な生活支援策が一刻も早く求められているわけです。

制度の問題 門前払いなど 原因は窓口でなく制度設計 

 生活保護制度の問題については既に議論されているので詳しく触れません。門前払い、使い勝手が悪い、手続きが煩雑など、また否定的な面では不正受給などがあげられています。

 その理由として自治体の窓口の問題が全くないとは言えませんが、もとは制度に原因があります。また堅い話になりますが、法第1条から4条に定められている、国家が責任をもつ最低生活の保障、無差別平等、最低生活、保護の補足性の4つの柱。これが良くも悪くも足かせになっています。

 平たく言えば、財源が国民の税金であること。原則国が全国一律に定める最低の生活基準に基づいて制度が運用される。収入や財産の基準も厳格。また、親族などの援助が可能ならその支援が先。さらに生活保護以外の支援が可能ならそれも先にというわけです。以上のことから先に述べた窓口問題として見えるものが起こってきます。

今国会の重要課題は、自立を助長できる社会経済対策と生活保護以外の支援策

 今回の委員会でのやり取りで見えてきた論点を整理してみます。

コロナ禍による生活困窮は生活保護制度に頼る質のものではない。理由は、2つ。まず、上に述べたとおり、法の目的の1つである自立を助長できる状況ではないこと。もうひとつは、ここまで述べて気づいていただけたと思いますが、上記の生活保護以外の支援が可能ならそれも先に利用する(法第4条第2項)が効いてくるからです。まさに、今国会の重要課題は、生活保護以外の支援策であるはずです。

 したがって、今回の発言は、適切な例になるかどうかですが、大規模な自然災害に見舞われた人たちに対して生活保護があると言っているようなものです。

その他生活保護の問題・課題多い 捕捉率も廃止率も低い プライバシーや車禁止で躊躇 発言が改善のきっかけに

 生活保護の問題としては、本来受けられる状況の人が受けられていないということがあります。生活保護捕捉率低いことです。最新の調査では約20%。生活保護基準以下の低所得者のうち80%が受けていません。EU諸国では捕捉率少なくとも70%前後です。

 この原因は先に述べた現象的にはいわゆる窓口問題です。その他、関連しますが、プライバシーがあからさまにされる、生活の自由さがなくなるなどを理由に躊躇するケースも。また、長年自治体からの提案し、ようやくコロナを機縁に少し緩和された自家用車所有の制約もあります。子育て中のひとり親家庭で車がなければ、保育園の送迎も仕事にも行けません。これも申請の躊躇理由になっていました。

 生活が自立できるようになり生活保護が不要になる世帯の率も低い。原因は自立の意欲と努力が低いというより、捕捉率が低いことの裏返しだと思います。厳しい方の2割が対象になっているからです。

 その他、国から自治体への法定受託事務であること。それなのに国の負担は4分の3で残りは自治体府負担であること。国の財政が厳しいため自治体での人員配置が不十分であること。全国均一の制度であることと法定受託事務であることから、自治体の地域の状況に応じた裁量がほとんど働かないこと。さらには、国の財源確保などセーフティーネットとしては多くの課題があります。

 今回の発言によって改めて生活保護への関心が高まり、改善のきっかけになることを期待します。