民主主義への不満足度が最高レベルに 日本は55%で過去10年間で最悪

 数日前ラジオで気になるコメントを耳にしました。日本で民主主義への信頼が米国に次いで悪い。ケンブリッジ大学の調査報告にあるとの大学教授のコメントでした。直感的な反応は意外だというより、さもありなんというものでした。

 ネット検索したらそれらしい報告書を見つけて目を通しました。『世界の民主主義への満足度2020(Global Satisfaction with Democracy2020)』と『若者の民主主義への満足度(Youth and Satisfaction with Democracy)』。いずれもケンブリッジ大学ベネット公共政策研究所の「民主主義の未来センター」が出したもの。前者は昨年1月、後者は昨年10月に出ています。このセンターは民主主義の未来へ向けての発展をめざして昨年1月に発足したとなっています。なお報告書の標題、機関名含めこの場での日本語訳はとりあえずのものです。

 報告書の内容を詳しく紹介するのが目的ではありませんが話しを進めるのに必要な範囲で簡潔に紹介します。

 報告では、民主主義への不満足度が経年的に高まっている。特に先進国で最高レベルにあると総括しています。なかでも不満足度が最高レベルにある国として、日本は米国、ブラジル、メキシコ、英国、南ア、コロンビア、オーストラリア、スペイン、ギリシャと並んでいます。日本の不満足度は 55%とこの10年間で最高。理由としては、引き続く政治家の汚職、災害対策の不手際、不況と人口減少等々をあげています。

若者調査では民主主義への満足度過去1世紀間で最悪 日本はもともと低く変化なし 政治的寛容度も低い

 一方、若者調査の方では世界的に若年層の民主主義への満足度が過去1世紀間で最悪。絶対的数値でも、また先の世代が同年齢だった時期のものと比較した相対的な面でも。特に米国、ブラジル、メキシコ、南ア、フランス、オーストラリア、英国で若者の不満が強い。

 主な原因は若年者の失業や貧富の差の拡大など経済的な疎外など。なお、ここでの若年層とは1981年から1996年の間に生まれた世代。先の世代として1965年から1981年の間に生まれた世代、1944年から1964年の間に生まれたベビーブーマー世代、1918年から1943年の戦間期世代との比較がされています。

 この極端に悪化しているなかに日本は入っていません。北アジアグループとして日本、韓国、台湾の3国がくくられ、大きな変化はないと分析されています。しかしここで喜ぶわけにはいきません。米国、英国、カナダなどのアングロ・サクソングループと比べて、もともと満足度が20%ほど低いからです。世代間を通じて満足度が低い状態で推移しています。

 調査結果でもうひとつ気になったことは、米国を除くアングロ・サクソングループと西欧グループの国において政治上の考え方の違いに対する寛容度が若者で著しく落ちているという結果が目を引きます。先進国のなかで大きな変化がないのは日本と米国。ここでももともと寛容度が低いからです。インドネシアやメキシコよりも低いぐらいです。

 

報告書の指摘は有効 開かれた議論と合意形成で課題に立ち向かう 自治体から ポストコロナの展望も 

 報告書の妥当性については専門的な評価も必要と思いますが、内容は単なる意見や評論ではなく、1973年から2020年の間における480万人以上からの回答、43の調査資料及び160カ国のデーターに基づいています。

 コロナ禍のなかでの内閣支持の低下は別にしても、景気の低迷、格差拡大、政治家の不祥事、また投票率の低迷、内閣支持が高く維持されていた時でもその主な理由が「他の内閣より良さそうだから」と消極的なものであったことなどからすると、指摘には一定納得できます。しかし、はいそうですかで済ますことはできません。

 そこで私たちはこの下降状況にどう展望をもって立ち向かったらよいのか。抽象的になりますが、まずは、それぞれの課題を正確に位置付けて、誠実かつ真剣に効果的に解決していくことです。進め方としては情報を公開・共有化して開かれた議論のなかで合意形成を図っていくことが求められます。

 そして、もうひとつ。どこから始めていくかというと、市民・国民に身近な自治体での地域づくり、まちづくりの場からが近道です。ポストコロナの展望もここからです。

ポピュリスト政治は民主主義への満足度を高めたが短期間で破綻 この刺激を活かし、穏健政治が流れを逆転させ民主主義の再生に

 報告書は次のような結論で締めくくっています。

 さまざまな事例とデーターで見ると、2015年以降の世界的なポピュリストの波(ポピュリズムの動向)が若者の政治への関心と関りを強め、それが民主主義への満足度を高める結果につながっている。しかし、ポピュリスト政治家は政権をとっても数カ月、長くて数年のうちに自らの過大な公約が非現実的で実現不可能になる。またその他の政策も制度、組織、職員、対外関係、訴訟などの制約で挫折する。

 ただし、この若者の政治的関与の喚起と拡大を実現し、民主主義への満足度を高めたというポピュリストの実績は世界に多くある。このポピュリストの挑戦に刺激されて、今後穏健な政党と政治指導者が旧弊を改め過去の焼き直しでない取組を進め、流れを逆転させるならば、民主主義の再生につながるだろう。同感です。