所得制限制度の汎用化 負担の公平性を保つが相乗的に負の影響

保育料の多子減免や高校無償化でも2014年度より設けられた所得制限は、違和感のない制度になりつつあります。特に子育て支援や教育の分野では、サービスの供給と給付の両面で、所得制限制度は汎用化しつつあります。

生活が困窮している人から過大な負担を求めることは避けなければならないことはもちろん、所得状況にかかわらず生活を維持していくために必要なサービスが受けられるようにする必要もあります。実質的な負担の公平性を保つために所得制限制度は有効であることは間違いありません。

国民健康保険などでの階層による区分も同じ機能 応能負担

所得制限そのものではありませんが、国民健康保険、後期高齢者医療保険、介護保険、保育料などの負担が所得の階層による区分で設定されていることも、同じサービスを異なる負担で受けるようにし、実質的な負担の公平性を保つための制度です。これらも実質は、所得制限制度と同じです。同じ利益を受ける(受益)にあたって能力に応じて(応能)負担する仕組みです。

言うまでもなく、この応能負担の仕組みは、税制度の根幹のひとつである所得税の基本的な仕組みです。累進課税制度です。したがって、所得制限は、所得を基本にしてそれに応じて税負担をしているのに、その税によって運営されたり、給付を受けたりするときにも、また所得に応じて差が付けられるという、相乗的に負の影響が出てしまう仕組みです。

所得制限制度の課題 所得税の応能負担調整のため限定的に

給付が増えてもサービスが増えないという内容で以前にも書いたように、仕組みが複雑になり、大きな事務処理コストが供給側と受け手側双方にかかります。この摩擦係数ともいえる事務処理コストは、本来、サービス供給か負担の軽減に回される財源となるべきものです。

もうひとつは、上に書いたように、税で応能負担されながら、それにより運営される公的事業でも再び所得を基準に差が付けられるということが起こります。子育て支援や教育など遍く提供されるべきサービスは政策的に均等化され、負担、すなわち税負担においてきちっと応能化される方が分かりやすく簡明な制度になります。

さらに当事者にとってのこととして、例えば高校無償化の場合、授業料を保護者に負担してもらっているという思いを持たざるを得ない生徒と無償化によって保護者に依存していない生徒の区分を作ってしまうことになります。

所得税の応能負担を調整するために、所得制限がごく限定的に採用されるのはいたしかたないとしても、多用は公平性を損ない負担者の意欲をそぐ恐れがあります。今話題の児童手当の減額の議論もここに連なります。

また、所得制限の基準額の設定も、所得の絶対額から算定して設定されるよりは、財源論が優先していることも課題です。