いま改めて、1クラス30人の少人数学級の議論が高まり、関心が集まっています。歓迎すべきことです。これは、報道されているように、先々月、自民党の教育再生実行本部が「30人学級の推進」を求める決議をまとめ、文科相に提言したことなどにより、これが来年度の国の予算編成にどう反映されるかの山場になっているからです。

私も少人数学級の達成は大賛成です。しかし、児童生徒の学びと成長を支える学校現場の問題はそれにとどまりません。その共有化をねらいに書きます。

少人数学級の議論・提言は今に始まったものでない 今回の主な理由は新型コロナウイルス対策

少人数学級の議論・提言は今に始まったものでなく、随分以前から、当事者団体や政党などいろんなところから行われてきています。そして2010年には、中央教育審議会の初等中等教育分科会が公立小中学校の学級編制の標準を現行の40人から引き下げることを求める提言をまとめ文科相に渡しています。これを受けて、翌2011年度から小学校1年生の学級定員を上限35人とすることが制度化されました。また、この流れを受けて制度化までには至りませんでしたが、この翌年度から全都道府県で小学校2年生の35名以下学級が実施されています。これ以降全国レベルの動きはありませんが、自治体での個々の対応は行われています。

今回の提言の主な理由は、新型コロナウイルス対策として3密の回避、パソコン端末の活用も進めるなかで、「きめ細かな指導の充実を図ることが不可欠だ」とされています。

利点は明らかで多様 課題は財源と教職員の確保 譲れない境界を明確に

もっともな理由ですが、新型コロナウイルス対策を待つまでもなく、これまでの議論と提言そして、実践のなかで利点は整理され確認されています。きめ細かな指導ができ、学習意欲と学力の向上につながる可能性、いじめや不登校の防止、特別指導や支援が必要な児童生徒への適切な対応、教職員の負担軽減など多様なものがあげられています。他方、欠点としてあげられているのは教育的観点からのものでなく、追加の財政負担と教職員の確保です。

福祉も教育も財源裏付けがあってはじめて可能であることは当然です。しかし、何が優先されるべきか、どこまでは譲れないかという境界を共通理解し、明確にして、政策決定をしないと劣化の一方となります。ここでの本題ではありませんし、いまさら言っても仕方がありませんが、戦後の委員公選制の教育委員会のモデルとなったアメリカの教育委員会がもっている独自の課税権、教育税の制度です。教育委員の公選制は知っていましたが、かつてミシガン州の姉妹都市を訪問したときに、教育税の仕組みを聞いて驚きました。歴史的な経緯があっての制度ですが、今の日本では公選制まで廃してしまっては、行政委員会制度での理由は中立性ぐらいです。

いずれにしても、財源を確保しての早い実現を期待しています。ただし、すでに政府では「現在の義務教育費国庫負担金の範囲内で」、「国・地方ともに追加財源を伴わない」基本方針としており、その裏には、少子化による児童生徒の減、それに伴う教職員の余剰を前提とする予防線が張られています。

そして、今回の提言を受けて、文科省側も『今後10年間で公立小中学校の児童生徒は約100万人減り、それに伴い教員定数も減って約5万人の余剰人員が生じる。これに加えて、少人数指導や複数の教員による「チーム・ティーチング」などのためにすでに小中学校に追加配置している約3万人を活用すれば、実現が可能という。』試算を持っている旨報道されています。(「30人学級、10年かけて移行すれば対応可能? 文科省」朝日新聞デジタル2020年9月29日)

10年間の児童生徒数の減少に伴う教職員定数の減による余剰人員をあてにした少人数学級では子どものための施策でなく雇用対策と受け取られかねません。ここでは触れませんが、いまでも非正規の職員によってようやく現場が持っている状況です。

学校現場には多くの課題 特別支援対応とそれによる教室と職員室不足 老朽化 教科と業務の増加

少人数学級の早期達成以外にも学校現場では多くの課題を抱えています。まず、特別支援が必要な児童生徒の増加です。このため、支援や補助の教員・スタッフを市独自に確保してクラスを分けたり、1、2人の個別指導を行うことが通常化しています。この実態を考慮した国の制度はありません。また、スクール・ソーシャルワーカーなどの配置も手薄です。

次に、施設の問題です。クラスを分けたり、1、2人の個別指導ため教室が不足しています。これに伴って、支援や補助の教員・スタッフのための職員室も不足しています。施設の問題のもうひとつは老朽化です。野洲市では10年余り前から、遅れていた学校の耐震・老朽化対策を積極的・計画的に進めてきましたが、全国的にみると多くの課題を抱えています。原因のひとつは、財源です。文科省の補助金、交付金制度が基準額等も含めて、他省庁と比べても低いことにも起因しています。これは文科省を責めるよりも、広い意味での政治と国民理解の問題です。昔から福祉と教育は票にならないと言われています。

課題は、まだまだ多くありますが、最後にこれも前から指摘されながら、なかなか改善進まない教職員の働く環境です。小学校からの英語やコンピュータ教育を導入するなら、それに伴う十分な人的、財的対応が必要ですが、それが伴っていないため負担が増えています。児童生徒の家庭環境の多様化・複雑化への対応、いじめ、不登校増加への対応でも負担は増しています。また、教職員が抱えている事務を処理するために校務処理支援のソフトを導入していますが、滋賀県ではシステムが統一されていないため、職員の異動では利点が活かせていません。

これらの課題による負担軽減にも少人数学級の達成は直接、間接に効果があると考えます。堂々とした力強い前進を期待します。