未成年裁判

 

韓国ドラレビューをもう長いこと書かせてもらってますが、作品によっては、本気で見て、本気で書かないといけないというシロモノがあります。←いつも不真面目に書いているわけではありませんが。

それがまさしく、こういうドラマ。

未成年を取り巻く生々しく痛ましい事件の背景には、子どもならではの哀しい事情がある。

文字通り「保護者」と名のつく大人は、子どもらにどう接していたのか。

非行少年の更生とは。

家庭は、学校は、社会は、子どもに何を求めているのか。

もし、「未成年学」というのがあれば、このドラマはバイブルにもなり得る(と思う)。

 

 

 

  あらすじ

 

ヨンファ地裁 少年刑事合議部の右陪審判事へ異動となったシム・ウンソク(キム・ヘス)は一風変わっていた。

「私は未成年の犯罪者を憎み嫌う」と平然と言い放ち、判事としての倫理観が問われるほど。

しかも、彼女は、激務とわずかの睡眠とわずかの食事で毎日を淡々と過ごす、死に急いでいる人のようだった。

左陪審判事のチェ・テジュ(キム・ムヨル)は非行少年たちの更生を第一に考える、優しい判事。

部長判事のカン・ウォンジュン(イ・ソンミン)は、一見、保守的で世間体を気にするような人物かとおもいきや、次第と彼の持つ人間性がいい意味で表面化していく。

(あらすじ by hito)

 

 

ブロ友そら豆さん情報によると、このドラマに出てくる事件はみんな基になった実話があるそう。

脚色はフィクションだけど。

1.小学生殺人(2017年)、2.家庭内暴力、3.施設、4.双子回答(2018年)、5.大田中学校レンタカー(2020年)、6.スクール暴力、7.仁川女子暴行(2019年)、8.レンガ(2015年) これらの実話が元です。

※「소년심판 실화」←少年審判 実話で検索、実際の事件説明や犯人画像あり

 

 

このドラマ、新人脚本家のデビュー作らしい。

すごい実力じゃないですか?

子どもの心、被害者の心、裁く者の心、保護者の心、そうした心中を見事にセリフにしている。

このセリフをもとに、子ども役の俳優さんに至るまでお見事な演技。

 

こういう素材に不謹慎かもしれないけど、痛快でもある。

キム・ヘス演じるシム・ウンソク判事の必殺仕事人ばりの鋭い切り込み。

懲らしめるのは、未成年というよりは、その保護者たち。

いろいろ書きたいことはあるが、ウンソクの言った「ボタンの掛け違い」という言葉が引っ掛かって、大人たちはどこで掛け違えたのか、hitoなりに考察していきたいと思います。

 

 

考察1 ブルム回復センター長の場合

ソンジャ(ヨム・ヘラン)がウンソクに言ったセリフ。

家庭内で傷ついた子は自分をいじめます。

悪い仲間と群れて罪を犯すという方法で。

自分自身を傷つけることで、家族も苦しんで欲しくて。

私を見てよ。辛いのと訴えているんです。

 

なるほどなあ。

ああ、そうかもしれないなあと納得。

さすが、人気カウンセラーでもあるブルム回復センター長、オ・ソンジャ。

説得力のあるセリフだ。

でも、ソンジャ自身、どうだったか。

ソンジャは2人の娘を生んだ後、流産した経験がある。

そのショックから目を背けるために、不安定な子たちへの支援に目が向いた。

ついに、夫は家を出て、長女のアルムも、自分よりよその子を世話する母に我慢がならなかった。

それなのに、入所少女らは宴会してソンジャを愚弄する有様。

ついに、アルムがぶち切れた。

センター内をバットでぶち壊し、少女らを追い出した。

後で、アルムの所業を知ったソンジャは、どうしてアルムがそんなことをしたのかわからなかった。

 

アルムもやるしかなかった。

私を見てよ、辛いの、と伝えるために。

どうか、手遅れにならないで。

 

ウンソクにそう言われ、ソンジャは目から鱗だったろう。

彼女は、確かに有能なカウンセラーだ。

しかし、一般的な子どもの心理は読み取れても、それを自分の子どもに当てはめようとはしなかった。

それがソンジャのボタンの掛け違いだった。

 

考察2 部長判事 カン・ウォンジュンの場合 

このドラマで絶対キャラと思う俳優が2人いる。

一人がキム・ヘス。

そして、もう一人がイ・ソンミンだ。

この人が出てきた段階で、いつか心を持っていかれることは想定しなければいけない。

それが、どの場面でやってくるのか。

そんな期待を込めながら、イ・ソンミンの出番を見守った。

 

イ・ソンミンが演じたカン・ウォンジュン部長判事は、正直、つまらない上司だった。

序盤からいきなり裏切られたような感じ。

だけど、徐々にいろんな顔が見えてくる。

ウォンジュンはテレビ番組に出演し、スター判事として脚光を浴びていた。

さらに、国会議員補欠選挙の自由党の候補者として注目されることになる。

 

少年事件は今や個人の問題ではない。

今後は国家や社会が取り組むべきだ。

 

前々から、ウォンジュンがテレビで言っていた言葉だ。

それを、自由党のオム議員(ユ・ジェミョン)はウォンジュンの口説き文句として使う。

 

ウォンジュンは少年法改正に向けた研究会の一員だった。

どうも、テレビ出演したのも、少年法改正の必要性を投げかけるためだったか。

改正法案は一判事ではどうにもできないが、議員になれば突破口が開ける。

ウォンジュンにとって、夢の国会議員が現実味を帯びてきた。

文光高校内での試験問題漏洩事件を華麗に処理して有終の美を飾る予定だった。

 

しかし、最悪のことに、息子が事件に関与していた。

さあ、ここからが、イ・ソンミンの真骨頂。

正義の判事として生きてきたウォンジュンが、最後の最後に不正するのか。

改正法という正義のためにこれまでの判事としての正義を無にするのか。

ウォンジュンはあやうくボタンを掛け違うところだった。

 

少年法のために少年を犠牲にすると?

聖書を読むためにロウソクを盗むな。

手段を誤れば目的も汚れるのです。

単なる記録ではなく、毎日、自分の裁判の反省点を書くとか。

部長。

22年間書き続けた日誌に、最後の事件をどう記すと?

 

ウンソクの言葉がウォンジュンに届いた。

ウォンジュンの目から涙がこぼれた瞬間、判事としての正義が勝った。

 

このシーンは、私の記憶から消したくないランキングの上位に入る。

それにしても、ウンソクの背後にちらちら映った「公明正大」という文字。

韓国ドラマでこの文字はいろんなシーンで登場していたけど、ほとんどが、登場人物が堂々と不正をしている背後に嫌味みたいに映っていたわけで、初めて、文字の真髄が発揮された感じがした。

 

 

考察3 右陪席判事シム・ウンソクの場合

見事なキム・ヘスの演技に終始酔っていたhitoですが、ウンソクというキャラクターはほんと謎めいていた。

生活感のなさ。

冷蔵庫には水しかない。

荷ほどきもされない書物の山。

しかも、いかにも怪しい箱2つがクローズアップされる。

朝早くから夜中まで仕事して、帰ってシャワー浴びて水飲んで寝るだけ。

死ぬぞ。

いや、死にたいのか。

非行少年は憎いとまで言う。

判事がそんなこと言っていいのか。

 

ウンソクは被害者の写真をデスクに掲げる。

裁判長席にも同じように掲げる。

明らかに被害者に偏っている。

しかし、その理由は、ウンソクの過去が明らかになるにつれて、ウンソクもまた被害者の一人だったからだとわかる。

ウンソクにとっての判事とは、非行少年への報復なのか。

いや。

そんな単純なものじゃない。

ウンソクは判事としての使命をこう語る。

 

審判後に法廷なんて楽勝だと

彼らが大人になりまた人を殺したら、誰が責任を。

法の怖さを示さねば。

人を傷つけたら償わねばならないと、親に代わって大人が教えるべきです。それが判事では。

 

そして、加害者の親に向かってこう語る。

 

処分は子どもに下しましたが、その重みは、保護者も感じてください。

 

謎なのは、ウンソクが死に体の生活をいつまで続けるのかということ。

5年前、子どものいたずらで自分の息子が殺された。

ビルの屋上からレンガを落とされたのだ。

姑からは保護責任を問われ、抜け殻状態になったウンソクは姑や夫から逃げた。

ウンソクは、判事の使命だけで生きているようなものだった。

あろうことか、そのときの11歳だった加害者ペク・ドヒョンとファン・インジュンが、5年後、集団性的暴行事件の首謀者として再び裁判所に姿を現した。

 

触法少年(罪を犯したことにならない少年)に反省の機会を与えたことがあだになった。

その時の担当判事は、ウォンジュンの後任として配属されたナ・グニ部長判事。

ウンソクは、グニに言う。

 

終わらせる。ボタンの掛け違いを正します。

 

ウンソクはどうやって正すのか。

審判を下したのは、忌避されたウンソクに代わり、グニ部長判事。

ドヒョンらはもはや触法少年の域ではない。

グニは、「検察に逆送し、起訴されれば、少年刑事事件として裁判が行われる」と審判を下した。

 

ようやく、ウンソク自身も縛られていたものから開放された。

怪しげな箱に入っていたのは、亡くなった息子の遺品。

 

考察4 考えてみると・・・

 

このドラマには、判事が4人登場する。

シム・ウンソク、チャ・テジュ、カン・ウォンジュン、ナ・グニ。

この4人の中で、指導によって更生した元犯罪者がいる。

チャ・テジュは、親から虐待を受け、親殺しで刑務所に送検された。

しかし、見事に少年事件を扱う左陪席判事にまで出世した。

何が彼を奮い立たせたのか。

 

それは、ある人物の指導のおかげだった。

その人物とは、カン・ウォンジュンその人だった。

ウォンジュンが唱える少年法改正の焦点とは、処罰の厳格化ではなく、「指導」の強化だった。

判事としての地位を追われたウォンジュンこそが、判事の使命を実現する真のモデルだったという皮肉な顛末。

 

気になるのは、最後のウンソクのセリフ。

 

心はあくまでも初心のままに。

それ以前とは異なる意識で。

 

異なる意識って何だろう。

相変わらず、非行少年は憎み嫌っているし、かといって、判事としての使命感は失っていない。

テジュがウンソクに言った言葉がある。

批判は誰でもできますが、チャンスを与えられるのは判事だけです。

重要で意義深い仕事だと思います。

だから判事になった。

 

ウンソクはしがらみを超え、気持ちにゆとりができた。

ようやく、テジュのように人間的な判事を目指せるのかもしれない。

 

 

ほんとにいいドラマでした。

文句なく満点ドラマです。

ただ、hito的には、ナ・グニ役がキム・ヘスクだったら、200点つけます。

イ・ソンミンは、期待どおりでパーフェクト!

 

 

画像はNetflixさんからお借りしました。

 

 

 

●hito基準による評価(10点満点)

泣き又は感動3(3点満点)

爽快感1

脱力感1

ストーリー1

胸きゅん度又は嵌り度1

没頭度2(2点満点)

メッセージ性1

10点   

 

※シム・ウンソクの表記が至る所で誤っておりました。訂正してお詫びいたします。

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