「すみません…はい…わかりました」


自分よりも若い上司に頭を下げてもう20年


50歳を目前とする彼には大きな夢があった


誰にも言わない夢


そもそも彼が大きな夢をもつきっかけを作ったのが


中学生の時に始めて知った『坂本龍馬』だった


彼は龍馬の事をよく知らない


何をした人なのかも全く知らないし


お気に入りの武田鉄矢のバンド『海援隊』なんてのも


まさか龍馬と関係あるなんてやっぱり知らなかった


でも、龍馬が彼にエネルギーを与えた



何をそこまで龍馬なのだろう…


彼は、龍馬の写真を見て好きになったようだ


世界で一番イケメンだと思っていたみたい


何も直結するものはわからないが彼に大きな夢を持たせるに至った


得体の知れない回路を通ったのだろう


高校生になってからまず一つの夢が叶った


彼が通っていた高校は男女共学だった


だから、もちろん女子用トイレがある


彼はそこでウンコをするのが夢だったのだ


何度、試みようとしたことか


授業中抜け出して、女子トイレに入ろうとしたら


まさかの友人に出会ってしまい、断念した


朝一番でウンコをしに行こうとしたら台風が来て休みになったり


徐々に女子トイレでウンコができないフラストレーションで


登校拒否になりがちになったりもした


だけど、諦めなかった、諦めたらそこで終わりだから


そんな言葉を毎朝10回唱えて


「自分はなんてビッグマウスなんだろう」と本気で思っていたし


毎日、ゆっくりとプライドが上がっていった


友人から「お前…最近、自信に満ち溢れてるよな…」と言われるくらいだった


「嗚呼、俺はやっぱり凄い夢を手に入れようとしているんだ」と心躍らせた


そうして、その時はやって来た


卒業式終了後、人が少なくなった校内の女子トイレに走っていった


「よし!入れた!」


初めての女子トイレに彼の息遣いが荒くなってきた


「何番目の便所でしようか…」彼は悩む


「3番目はトイレの花子さんがいたら怖いしなぁ…よし、1番目だ!」


彼は勢いよくズボンを下ろし、パンツを下ろした


しかし


ウンコが出ない…


だが、彼はニヤリと笑った


手に出したのは下剤だった


30分かけてゆっくり用をたした


あまりの感動で涙があふれてきた


涙を流しながら、女子トイレから出てきて


「夢は叶うもんじゃない…叶なえるもんなんだ…」そう一言残し卒業をした


その自信から大学生になってからも1000個くらいの夢を叶えた


それで、就職にも上手くいって、当時、日本企業トップ3の会社に入社することができた


ますます、自信をつけていく


原点は『坂本龍馬』


しかし、会社に入って3年目の秋に彼の転機がやってきた


その日は平社員から部長に大抜擢された日


家に帰って何となしに大河ドラマを見ていてのことだった


「…っは…ウソだろ…」


あまりに強い衝撃を受けた

































坂本龍馬が死んでる!!!!!!!


「…しかも1867年にだって…」


彼は初めて歴史上の人物の意味を知ったのだ


「世界で一番驚いていると思っていた徳川家康も、


世界で一番、ユーモアがあると思っていたザ・ビエルも…ウソだろ…」


この日を境に彼は自信をなくして行き、部長から平社員に転落した


絶望の日々を生きた


「オレがすごいと思っていた人たちは世間でみんな知っている人だなんて…」


そんな嘆きを何千回としていたある日、夢を持てたのだ


それは、ある本で読んだ”死んだ人は星になる”という話に


気持ちを舞い上がらせた


会社から帰ってからの5時間を使って毎日、星に向かってジャンプした


坂本竜馬はあそこにいるんだと…


数ヵ月後ヒラメ筋をはじめとる下肢の筋肉が異常に発達していた


50歳目前なのに筋トレしていると20代の女性社員たちから


冷たい目で見られるようになってしまったが、一方で筋肉フェチの女性社員もいて


話しかけられる事も結構多くなった


だが、彼は女性など関心はない


今夜も星までいけるようにジャンプだ




ちなみに、たまたま出場した陸上の大会での走り幅跳びで


シニア部門の世界記録を抜いてしまった





「跳躍の秘訣は?」と聞かれて彼は






「空に星があることを思い描くことだよ」










そう誇らしげに答えた







                    END

ジャイアンはその機を境に命というものを、友情と言うものを恐怖で支配し始めた


運よく、恩師である先生は職場復帰を果たす


”小学5年生のジャイアンにとって


暴力と騒音でしか自分の居場所を確保できない事に非常に悩んでいる”




そう彼は悩んでいるのだ


本当は自分の居場所なんて自ら確保しなくても良いのだ


全て彼が汲み取れる居場所なのだから


それを誰もわかってくれはしない、小学5年生というだけで






何も知らない先生はわかってくれるだろうか





命の露を落とす花々たちを包んだ死の臭気を放つ悪の華


彼は『欲』欲すままに満たすのである


誰かに与えられたものには時々、天邪鬼になってみたり


誰かが頑なに守り続けるものを崩してみたり…


抗ってみては欲し、抗ってみては欲す





やっぱり、これだけは待ち続けよう


私は全て汲み取れる居場所だということを先生が知り得るまでは























今日も<仲間>は沢山いる…














僕の居場所で…













                END

いつものようにめんどうそうにドアが開かれる


代わりの先生「なんだよ…あっ!お前は…」


ジャイアン「おお苦しみよ!苦しみよ!『時』が命を喰らい


私たちの心臓をかじる不気味な『敵』が


私たちの失う血を吸って育ち肥えふとる!」


先生「…なに言ってんだよ…」


唐突に現れ意味の分からぬことを言われた代わりの先生は返答に困った


ジャイアンはゆっくり先生に向かって歩き出した




ジャイアン「こんなに思い荷を持ち上げるには


シジフォスよ、君の勇気が必要だろう


せっせと仕事にはげんでみても


『学芸』の未知は長くて『時』は短い



世に知られた霊廟を遠く離れて


人けのない淋しい墓地の方へと


我が心臓は、音をひそめた太鼓のように


葬送の行進曲を打って行く



数々の宝石が埋もれたまま


闇と忘却の中に眠っていて


鶴橋も測深器も届きはしない



数々の花が未練がましく


秘密のように甘い香りを


底知れぬ孤独の内に放っている!」





そう一編を暗誦し隠していた刃渡り15cmの包丁でその先生の心臓を突き刺した


包丁は背中を通り抜けようとしていたが15cmでは届かなかった


そして、一気に包丁を肉体から引き抜くと


赤ワインにも似た血がまるでコルクのさし忘れたボトルのように傷から噴き出している


しかし、包丁はまたしても肉体を欲す


引き抜いては欲し、引き抜いては欲す


無数の傷を残して肉体と言う花は棘を内に実らせ薔薇となった


事を終えるとジャイアンは部屋にあったタバコに火をつけ静かに出て行く


その後、薔薇は炎と同化し気体となって夜空へと消えていった


星たちはただただ光を進ませるばかり…





続く…