こんにちは。

 

 人物、カルチャー、女性の生き方を探究しているライターの芳麗です。

 

 少しだけ暑さが和らいだ午後……気候の良い日に出来るだけ仕事を進めておきたいのですが、夏バテ気味でスローペースになってしまう。

 

 近頃、読んで、真夏の暑さを忘れるほど、胸が熱くなった一冊がこちら。

 

 

「わたしの全てのわたしたち」サラ・クロッサン(著)

 

 

 

 主人公であるグレースとティッピは、腰から下が一緒の結合双生児です。

 

 物語は、国からの資金援助で在宅学習をで育っていた2人が、資金援助が終わり、公立の高校に通い始めるところから始まります。

 

 つまり、初めて外の世界に出てからのお話です。

 

 グレースとティッピは、外の世界で自分を特別視する人々に出会い、友だちになれる人にも出会い、先生とも交流して、そして淡い恋心を抱きます。

 

 グレースの視点で散文詩のような文体で綴られる、彼女たちの心のありようは、至極、生っぽくて繊細で……。

 

 読んでいるうちに、まるで、彼女たちの心の聖域に忍び込んだような気持ちになります。

 

 少し引用しますね。

 

 私たちを結合双生児と呼べば、理解できていると信じている大人たち。

 ひとりとして、おんなじ結合双生児なんていないのに、みんなどこかしら違っているのに、たやすく同じ箱に入れていく。

 

 (中略)

 

 前世で何をしたんだろう、どういう罰を受けて、そんな姿に生まれたんだろう、そう思う? でも私、最悪だなんて思ったことがないよ。他の双子たち、頭と心臓がくっついている子もいるし、腕が2本しかない子もいる。その子たちよりは、いいって思う。

 

 これ以外の体を知らない。

 これ以外の人生を知らない。

 たった一人で生まれて、

 たった一人で生きるなんて、

 リアリティがなさすぎる。

 

 ティッピといっしょに生きられて、私は最高に幸せ。

 心からそう言える。

 

(『わたしの全てのわたしたち』P14〜「理解へ」より)

 

 全編にわたって、いくつも心を掴まれる描写があったのですが、物語の核心に迫ってしまうので、ここでは引用しません。

 

 ぴんと来たらぜひ手にとって読んでみて欲しいし、私もまた読み返したい一冊です。

 

 愛とは、「わたし」とは、パートナーシップとは、生死とは、差別とは、普通とは?……etc. 

 

   読みながら、 たくさんのことを自問していました。

 

 いつも思いやりが深くてピュアでチャーミングで、曖昧なことを曖昧なまま考え続ける力を持った勇敢なグレースと、グレースが愛してやまないティッピと対話していました。

 

 複雑な切なさと、なんとも言えない痛みを味わい考えさせられる一冊です。

 

 

 原作のサラ・クロッサンは、散文詩という形で多くのヤングアダルト小説を書き続けている作家であり、本書は、実在の結合双生児をたくさん取材して、文献を読んで書いたのだそうです。

 

 散文詩という読みやすい形だけど、その魂のこもり方は伝わってきます。

 

 そして、本書の素晴らしい言葉の美しさと生っぽさを介助してしているのは、翻訳家であり児童文学研究家の金原瑞人さんと、敬愛する詩人の最果タヒさん。

 

 サラの小説を金原さんが丁寧に訳して、それを最果さんが自身の作品として書き直すという工程を踏んで、日本版が生まれたのだそう。

 

 本作は3人の書き手のマリアージュ。

 

 作品のみずみずしさや魂は失われることなく、金原さんと最果さんの魂と愛を持って、さらに深みが増しているに違いないだろうと思えました。